『夢からの手紙』辻原登(新潮社)
明和九年。染料問屋染屋治兵衛は、京の島原の女・小春に入れあげ、周囲に借金した挙句、女房のおりくや親族が止めるのも聞かず、彼女を身請けするつもりで島原へ。
ぎりぎりの金を懐に、小春と心中をする決意を固めた治兵衛の耳に、その向かいの座敷のやりとりが聞こえてきて……『川に沈む夕日』、
河内の国枚方宿に平岡兵吉というものがいた。大坂町奉行川役同心で、枚方宿に派遣され三年が過ぎた。
彼は仕事の合間に菊づくりをしていたが、そんな菊を見に来た美しい女・まきを見初める。彼女は本陣池尻善兵衛に雇われたばかりの者だというが、記憶喪失で素性がわからないという。
そんな彼女を嫁に迎えた兵吉だったが、三年目の秋、彼女は突然姿を消した。
捜し歩いたが見つからず、兵吉の庭は荒廃。そんな中、菊人形作りを提案されて……『菊人形異聞』、
大阪東町奉行同心の糸賀彦四郎は、病を得て一時休職して療養。その後快復した為、復職願いをだしたが、奉行所からの沙汰がない。蓄えがなくなりそうになったところで、届いた妻の兄からの金・十両とそこに添えられた言葉に感じ入った糸賀は、それを披露したいと知人を招いて宴を催す。
そこに呼ばれた、米方両替屋を営む田中屋新兵衛。早くその場を退散して、野田の妾宅に行きたいと考えているが、なかなか帰れない。そんな中、彦四郎が、小判を使った趣向の後、一両が行方不明になり……『おとし穴』、
鶴ヶ岡の加藤大弐の屋敷に、十六で奉公にあがった老女・もんがいまわの際に遺した言葉。
それは四十年前、世間を騒がせた、加藤家の跡継・多士美と年の離れた妹・せつとの密通騒動の裏に隠された真実だった……『もん女とはずがたり』、
国元で待つ妻・総から届いた手紙に書かれていた、夢の話。
それを読んだ、府内藩江戸屋敷勘定方を勤める片岡孝介は、先日遭遇した奇妙な出来事を思い出す。
孝介は、昔一緒に学んだ学友・柏木清一郎にばったり再会。彼から、不思議な仕事を請け負った話を聞いた孝介は、その場に無理矢理ついて行ったのだが……『夢からの手紙』、
近畿温泉旅館組合の女将講で、天神祭の舟遊びに参加した、有馬温泉の上人法師屋女将・良恵は、昔亡き母に連れて行ってもらった思い出のある、南本町筋の呉服屋・菱屋に顔を出した。
その主人・長兵衛は、彼女に惹かれ、彼女もまた憎からぬ様子。高価な着物をつけで売り、その代金を回収する名目で有馬を訪れたのだが……『有馬』の6編収録。
時代小説の短編集。
元ネタが存在する話もあるようですが(西鶴とか)、どれも短さを生かした、うまいまとめ具合というか、オチの付け方になってます。
表題作も不気味な雰囲気が怖いのですが、何気に『もん女~』のラスト数行が印象的……。
<11/2/24,25>
明和九年。染料問屋染屋治兵衛は、京の島原の女・小春に入れあげ、周囲に借金した挙句、女房のおりくや親族が止めるのも聞かず、彼女を身請けするつもりで島原へ。
ぎりぎりの金を懐に、小春と心中をする決意を固めた治兵衛の耳に、その向かいの座敷のやりとりが聞こえてきて……『川に沈む夕日』、
河内の国枚方宿に平岡兵吉というものがいた。大坂町奉行川役同心で、枚方宿に派遣され三年が過ぎた。
彼は仕事の合間に菊づくりをしていたが、そんな菊を見に来た美しい女・まきを見初める。彼女は本陣池尻善兵衛に雇われたばかりの者だというが、記憶喪失で素性がわからないという。
そんな彼女を嫁に迎えた兵吉だったが、三年目の秋、彼女は突然姿を消した。
捜し歩いたが見つからず、兵吉の庭は荒廃。そんな中、菊人形作りを提案されて……『菊人形異聞』、
大阪東町奉行同心の糸賀彦四郎は、病を得て一時休職して療養。その後快復した為、復職願いをだしたが、奉行所からの沙汰がない。蓄えがなくなりそうになったところで、届いた妻の兄からの金・十両とそこに添えられた言葉に感じ入った糸賀は、それを披露したいと知人を招いて宴を催す。
そこに呼ばれた、米方両替屋を営む田中屋新兵衛。早くその場を退散して、野田の妾宅に行きたいと考えているが、なかなか帰れない。そんな中、彦四郎が、小判を使った趣向の後、一両が行方不明になり……『おとし穴』、
鶴ヶ岡の加藤大弐の屋敷に、十六で奉公にあがった老女・もんがいまわの際に遺した言葉。
それは四十年前、世間を騒がせた、加藤家の跡継・多士美と年の離れた妹・せつとの密通騒動の裏に隠された真実だった……『もん女とはずがたり』、
国元で待つ妻・総から届いた手紙に書かれていた、夢の話。
それを読んだ、府内藩江戸屋敷勘定方を勤める片岡孝介は、先日遭遇した奇妙な出来事を思い出す。
孝介は、昔一緒に学んだ学友・柏木清一郎にばったり再会。彼から、不思議な仕事を請け負った話を聞いた孝介は、その場に無理矢理ついて行ったのだが……『夢からの手紙』、
近畿温泉旅館組合の女将講で、天神祭の舟遊びに参加した、有馬温泉の上人法師屋女将・良恵は、昔亡き母に連れて行ってもらった思い出のある、南本町筋の呉服屋・菱屋に顔を出した。
その主人・長兵衛は、彼女に惹かれ、彼女もまた憎からぬ様子。高価な着物をつけで売り、その代金を回収する名目で有馬を訪れたのだが……『有馬』の6編収録。
時代小説の短編集。
元ネタが存在する話もあるようですが(西鶴とか)、どれも短さを生かした、うまいまとめ具合というか、オチの付け方になってます。
表題作も不気味な雰囲気が怖いのですが、何気に『もん女~』のラスト数行が印象的……。
<11/2/24,25>