がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
149)免疫力を高めるサプリメントや活性化リンパ球療法に漢方治療を併用する意義
図:健康食品やサプリメントや医薬品、活性化リンパ球療法や樹状細胞療法やがんワクチン療法など、免疫力を高める様々な治療法ががん治療に利用されている。漢方治療を併用すると、これらの治療効果を高めることができる。
149)免疫力を高めるサプリメントや活性化リンパ球療法に漢方治療を併用する意義
【免疫力は様々な原因で低下する】
免疫の機能は安定したものではなく、内的および外的な様々な要因によって影響を受け、絶えず変動しています。
例えば、栄養不良、加齢、ストレス、不適切な生活習慣などは免疫力を低下させます。
副腎皮質ホルモンは抗がん剤の副作用軽減や抗炎症作用の目的でがん治療に使用されますが、免疫力を強く低下させる作用があります。
手術は体力を消耗し、ナチュラルキラー細胞活性や抗体産生や細胞性免疫の働きを低下させます。
精神的なストレスも免疫力を低下させます。悲しみや絶望的な気持ちが免疫力を低下させることが知られています。
【免疫を高める様々な治療法が行なわれている】
免疫療法は、がん治療において、手術、抗がん剤、放射線の3大治療に続く治療として「第4のがん治療」として注目されています。
免疫力を高める目的で使用されている医薬品としては、シイタケやスエヒロタケ由来のβグルカンであるレンチナンやシゾフィラン、カワラタケ由来のグルカンを主とするタンパク多糖のクレスチン、溶連菌製剤のピシバニールなどがあります。
これらは抗がん剤治療中の免疫力低下を抑える効果が認められています。
さらに、アガリクスやメシマコブや霊芝などキノコ由来の多糖成分(βグルカンなど)が、免疫力を高める健康食品やサプリメントとして販売されています。
β-グルカンはサルノコシカケ科の仲間に多くふくまれています。生薬の霊芝(サルノコシカケ科のマンネンタケの一種)、猪苓(サルノコシカケ科のチョレイマイタケの菌核)、茯苓(サルノコシカケ科のマツホドの菌核)にも、同様の理由によりがんの予防や治療効果が報告されています。
舞茸は食べられるサルノコシカケ科のキノコ、としてがん予防のための食材として期待されています。
活性化リンパ球療法は、患者から血液を採取し、その血液に含まれるTリンパ球を増殖・活性化して、再度体内に戻す免疫療法の一つです。血液内で非戦闘状態にあるTリンパ球を体外に取り出して、CD3というT細胞表面分子を刺激したり、リンパ球を刺激・増殖させる蛋白質を加えて培養すると、戦闘状態に活性化されたTリンパ球を増やすことができます。活性化したリンパ球でがん細胞を攻撃させることを目的としていますが、増殖した活性化リンパ球が必ずしもがん細胞を敵と認識しないので、その抗腫瘍効果には限界があります。
そこで、リンパ球にがん細胞を認識させる方法として、樹状細胞療法やがんワクチン療法が行なわれています。
正常細胞には存在せず、がん細胞には存在する成分があれば、その成分を抗原としてがん患者に投与すると、ウイルスに対するワクチン療法と同じように、がん細胞に対する特異的な抗腫瘍免疫を誘導することができます。
がん細胞の特異的な抗原を「がん抗原」といい、そのがん抗原を体内に投与すると、キラーT細胞が活性化され、がん細胞を攻撃するようになります。このようにがん特異的抗原を見つけ、がんワクチンとして投与してがんを排除させようとする治療法が「がんワクチン療法」です。がん抗原をT細胞に提示する樹状細胞を利用して、がん細胞に対する攻撃力を高める治療法が「樹状細胞療法」です。
これらはまだ研究段階ですが、リンパ球ががん細胞を認識して攻撃するようにできれば、免疫療法の効果はさらに高まると考えられています。
【漢方治療は免疫力が高まる状態にする】
免疫細胞を刺激して活性化したり数を増やす治療は、免疫力を高める直接的な方法です。
しかし、患者さんの体力が低下し、栄養状態や血液循環や新陳代謝が悪ければ、免疫細胞を活性化する効果は十分に得られません。
蛋白質やビタミンやミネラルなどの栄養素やカロリー量が不足していると、免疫細胞の増殖や働きが妨げられます。
がん患者では、栄養不良や様々なストレス、薬剤(抗がん剤やステロイドホルモンなど)などが免疫力低下の原因になってます。
高齢であれば、もともと免疫力は弱っています。高齢者が感染症にかかりやすいのは、B細胞(抗体産生)やT細胞(細胞性免疫)やナチュラルキラー細胞など働きが加齢とともに低下するからです。
このような免疫力を低下させている原因を取り除くことも重要です。
栄養素やカロリーは食事からの摂取が基本になります。
漢方薬は、体力を高め全身状態を良くして免疫力を低下させている要因を除く間接的効果と、免疫細胞を活性化する直接的効果の両方によって免疫力を高めます。
すなわち、胃腸の状態や血液循環や新陳代謝を良くすることによって、免疫細胞の働きを妨げている要因を除き、免疫力が高まる状態にします。さらに、生薬に含まれている多糖類やサポニンや精油成分などが、免疫細胞を活性化する効果を発揮します。(第123話参照)
空気を取り入れる呼吸器(鼻・喉・気管支・肺)や、食物を消化吸収する消化器(口・食道・胃・腸)の表面は、粘膜で被われています。粘膜は粘液を出してその表面を潤し、またその粘液中には種々の殺菌物質や免疫物質(IgAなど)を保持し体の第1次防御の要としての役割を担っています。したがって、体液の不足(陰虚)では粘膜が乾燥して、粘膜の感染に対する抵抗力を失うことになり、風邪などの感染症に罹りやすくなります。体液不足を補う滋陰薬の麦門冬・天門冬・山茱萸・五味子・地黄・玄参などは粘膜の抵抗力を高める効果が期待できます。
免疫力を効率的に高めるためには、免疫細胞の働きを妨げている要因を除く治療と、免疫細胞の働きを高める治療の2つが同時に行なわれる必要があります。
キノコなどの健康食品は免疫細胞を活性化する作用を利用しています。活性化リンパ球療法は、人工的に活性化したリンパ球を体内に注入する治療法です。
したがって、体調を良くし、全身の諸臓器の働きを良くする漢方薬は、健康食品・サプリメントや活性化リンパ球療法などと併用すると、さらに効果を高めることができます、
(文責:福田一典)
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