kenroのミニコミ

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イタリア ルネサンスの旅3

2016-03-11 | 美術

バロック美術そして、その後の西洋絵画はミケランジェロ礼賛にあふれていたが、19世紀初頭ごろから、ラファエロへの人気が高まる。19世紀中ごろのラファエロ前派は、そのラファエロを見直し、さらにはイタリア・ルネサンス以前の中世美術への傾斜を志向するものである。レオナルドが盛期ルネサンスの大御所なら、ミケランジェロはそのライバル、そして一番若いラファエロはルネサンスの完成者と目される。そのラファエロを観るならパラティーナ美術館である。

現在、西洋絵画世界で「聖母子」といえば、ラファエロ。あの優しく慈しみ深い表情のマリアと、愛らしさの中にも将来の悲劇的結末を見据えたかのような瞳のイエスを完成、定着させたのはラファエロとされる。パラティーナ美術館ではそのラファエロの秀作が堪能できる。「小椅子の聖母」は若くして亡くなったラファエロ後期の傑作である。その肢体からはずしりと重いであろうのに、イエスのその重さを感じさせない柔らく抱くマリアの表情は優しく、憂いもある。傍らのヨハネはその二人を心配そうに見つめ、イエスよりわずかにませて見える。絶妙かつ細心のタッチ。作品の少ないレオナルドや肉体系のミケランジェロに比べ、その親しみやすさにファンが多いのもうなずける。ウフィッツイ美術館からパラティーナ美術館まで、アルノ川を渡り、地下をとおるヴァザーリの回廊。一度訪れてみたかったが、今回の旅行中は閉鎖と出ていた。しかし、ウフィッツイ美術館でちらっと鑑賞している人たちが見えたので、なにか特別のルートや申し込み方法があるのかもしれない。とても残念。とまれ、パラティーナ美術館では、ラファエロの全時代の作品をそれぞれ網羅しており、レオナルドやミケランジェロに比べて圧倒的に短い画家生活を生きたラファエロの、秀でた若い才能が爛熟していく様が楽しめる。ただ、ルネサンス以降、プロテスタントの勢力が強まり、偶像崇拝の対象としての美しい聖母子像の宗教絵画は廃れていく。ラファエロは完成者であったが、同時に最後の聖母子像画家でもあったのだ。

サン・マルコ美術館は、ラファエロよりもっと古い初期ルネサンス、フラ・アンジェリコと出会う聖域。フィリッポ・リッピもそうであるが、グーテンベルクの活版印刷が人口に膾炙する以前、信仰を伝える修道士など教会関係者は絵によって民衆に伝道する画家でもあった。サン・マルコ修道院の壁画はフラ・アンジェリコによる伝道であるとともに、そこで修行する修道士たちの信仰を深める言わば修験図であった。ここにも中世の華やかさ、きらびやかさとは正反対の禁欲的構図が並ぶ中で、色彩は鮮やかだ。最も有名な、修道院2階の階段を登り切ったところに見えるフラ・アンジェリコの「受胎告知」はとても静謐。ほんのりと紅みがかったマリアの頬は、重大な「告知」を伝える大天使ガブリエルにときめいているかのような証だ。しかし、もちろんそれは処女のマリアがありえない懐胎に驚き、かつ、それを受け入れる宿命に希望をも抱いているからである。

フラ・アンジェリコの同じ構図での「受胎告知」は、壁画ではなく板絵判として、プラド美術館にもっと色鮮やかな作品があるが、やはり、修道士が修行の糧として、あるいはフィレンチェの市民が崇めたであろう壁画のそれは、跪いたほど見とれる美しさと、神々しさである。(フラ・アンジェリコ「受胎告知」)


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