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200年を越える新しさ   ジェイン・オースティン 秘められた恋

2010-01-04 | 映画
いくつかのシーンにくすりとさせられたことがあった。それは、ジェイン・オースティンの小説そのものが、本作のエッセンスとして加味されているからだ。たとえばジェインを財産だけのために早く嫁がせようとする母Mrs.オースティンは「高慢と偏見」で同じく長女ジェインや主人公エリザベスら娘を金持ちに嫁がせることだけを考えている愚かな母Mrs.ベネット。舞踏会で周囲の眼を無視してピアノを惹くのはエリザベスの妹、メアリー。ジェイン・オースティンに結婚を申し込むウイスリー氏の母で支配欲が強く高慢なグレシャム夫人は「高慢と…」のキャサリンドバーグ夫人。そしてジェインが惹かれるトム・ルフロイはもちろんミスター・ダーシー。
こう見れば、本作の脚本がBBC版の「高慢と偏見」をかなり下敷きにしていることが分かる。それもそのはずと思うのが、日本で映像から入ったオースティン・ファンは圧倒的にこのBBC版、というかダーシー役のコリン・ファースにめろめろになったためと考えられるから。後に「プライドと偏見」の名で英国若手美人女優のキーラ・ナイトリー主演でリメイクされたが、ナイトリーはよかったものの映画としてはそれほどでもなかった。ために原作が長いこともあり、映画化は成功していない(BBC版はテレビドラマで6時間くらいある)。
オースティンの小説の面白さは、もちろん映像化されただけでは分からない。登場する人間がそれぞれ丹念に描かれ、人の愚かさ、賢さ、そして曖昧さが200年たった現在も何も変わっていないことが原作によって確認できるから。そして人は変わりうるし、変わらないこともあると教えてくれる。
ジェイン・オースティンが生涯独身であったことは周知だが、その間なんのロマンスもなかったというとそうでもないらしい。いや、駆け落ちまでした相手がいたというのが本作の筋である。そして、ジェインの相手トム・ルフロイは実際にジェインに何度か会っており、ジェインが好意を寄せていたのは間違いないらしい。しかし、駆け落ちまでしたかどうかはよく分かっていないというのも事実だ。トムはアイルランド出身で貧しい中法律家を目指してロンドンの叔父に養われている。しかしアイルランドの家族を養うため、より多くのお金を叔父に出捐させるため放蕩にふけったふりをして度々お金をせびる。トムには財産を得られる機会を逃してまでジェインと駆け落ちできる環境になどなかったのだ。そしてジェインも貧乏なオースティン家から出るには金持ちと結婚するしかなく、作家として身を立てるなど愚かな母はもちろん誰も説得できるものでもなかったのも同じ。
結局駆け落ちをあきらめ、一度申し込まれた財産家からの結婚も取り下げられたジェインはむしろ腹をくくったためか作家として成功する。しかし、ジェインの文才があがったのも都会で暮らし洗練された聡明なトムのアドバイスがあったから。
結局賢い女は賢い男を選ぶということだが、それを見分けるにはお互いにいろんな人間を観察しないと分からないだろう。ジェインは家族や親類、狭い村の近所の人々らを、トムはエリート集団である法科の学生や判事の叔父、そして入り浸っていたお店の面々など。人間観察のための条件と必要性は村も都会も変わらない。ジェイン・オースティンが田舎の狭い狭い貴族社会で描いた世界は人間の基本の姿にほかならない。そこには財産はないが愛のある結婚と、愛はないが財産のある結婚の二者択一しか選択肢のない当時の姿をフィーチャーしてはいるが、現代でもそこまでひどくないにせよベースは変わらない。結局なんらかの打算がはたらくという意味では財産のない愛だけの結婚というのもありえないから。
原作の「ビカミング ジェイン・オースティン」とはジェイン・オースティンになるということ。そうか、トムに出会う前は、オースティン家のジェインはただの田舎娘で作家ジェイン・オースティンにはなっていなかったのか。生涯わずか6本の長編しか残さなかったオースティンの語り継がれる物語は、版を重ねる小説と同じくこれからも成長していくのだろう。
本作を見てあらためてその成長ぶりが楽しみになった。

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レニングラード国立バレエ団、マラト・シェミウノフの絵画展 (nana)
2010-01-04 23:17:08
1月1日、ギャラリーTにて、レニングラード国立バレエ団のプリンシパル、マラト・シェミウノフの絵画展のオープニングパーティーで、マラトさんによるパフォーマンスがありました。観客と触れんばかりの距離でのパフォーマンスにとても感動しました。13日(水)6時からはイリーナ・ペレンさんとのパフォーマンスがあります。お時間がおありでしたら是非御高覧下さい。 入場、パフォーマンス鑑賞は無料です。
ギャラリーT http://www.gallery-t.net/Artist_Marat_shemiunov.html

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