kenroのミニコミ

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冤罪を支えているのは私たち  名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯 約束

2013-04-20 | 映画
名張毒ぶどう酒事件。冤罪の疑いが非常に濃いのに再審が裁判所によってことごとくはねつけられたことは知っていたが、本格的な文献等を読んだこともなかったので映像になるとよく分かった。これは冤罪の疑いが非常に濃いのではなく、冤罪であると。
脚本・監督は「死刑弁護人」の齊藤潤一。「死刑弁護人」はこのブログでも触れたが(真実を見極めるために誰も弁護しない人を弁護する 死刑弁護人(http://blog.goo.ne.jp/kenro5/e/ff5582e0f5a35081386358997e5da681))、その齊藤さん作ということでもちろん期待していた。圧巻は仲代達也。獄中のことなど誰も分からない。死刑囚は面会が厳しく制限されているため、中の様子は奥西勝さんに面会した弁護士と特別面会人の人たちの話から想像するしかない。そして奥西さんが獄に囚われ50年。死刑囚は労役にも従事しない。3畳の狭い独房で寝起きするだけの毎日。死刑が執行されるのは午前中。毎朝看守の足音にびくつき、昼食が配られることで「自分の番ではなかった」と胸をなでおろす緊張が50年。その間名古屋拘置所で二桁の執行を見送ってきたという。奥西さんが自分以外の死刑囚を見送り、自身が執行されなかったことには理由がある。奥西さんが再審請求をくり返しているとおり、奥西さんは冤罪であることを法務省も知っているからであろう。一般的に再審請求中は死刑が執行されないという。しかし、再審準備中では執行は止まらない。例えば奈良県の小学生女児殺人事件で死刑判決を受けた小林さんは、再審準備であったが2013年2月死刑が執行された。
裁判所が奥西さんの再審請求を認めず、かといってさっさと却下するでもなく、自ら判断することなく、最高裁が高裁に差し戻したりするのは時間稼ぎをしていることは明らかだ。そう、奥西さんが獄死するのを待っているのだ。ここで明らかになるのは、法務省だけでなく最高裁も奥西さんが冤罪と考えているのではないかということ。
映画は、奥西さんに無罪や死刑を下した裁判官のその後も伝えている。津地裁で最初に無罪を出した裁判官や、再審を認める決定を出した裁判官は退官したり、遠隔地への転任。名古屋高裁で死刑を出したり、再審請求審で再審取消をした裁判官は栄転。本作では詳しく追及していないが、前例踏襲、先輩裁判官の出した判断に異を唱えない裁判所の在り方こそ、冤罪を生み出す元凶なのだと。調書裁判と言われる(自白)調書の丸呑み、自白を唯一の証拠としてはならないという憲法を逸脱した証拠裁判主義の否定。そして、そのような裁判所(官)の姿勢を後ろ押ししたのは容疑者=被告人=真犯人というメディアの報道のありよう。
でも奥西さんがいまだに囚われ、死刑執行の恐怖に曝されているのは裁判所あるいはメディアだけの責任なのであろうか。映画パンフレットに「この国には多くの奥西がいる」と寄せた森達也さんは言う。「彼(奥西さん=筆者注)が闘い続けている相手は、この国の制度を支え税金を納め続ける僕やあなたでもある」と。
足利事件、氷見事件、布川事件…。再審で自白調書の信用性が否定され冤罪だと分かった事例は現在も続く。「疑わしきは被告人の利益に」。疑わしいだけではだめだと税金を納めている私たちも冤罪の片棒をかついでいる自覚を強く持たなければならない。と思う。


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