ペンギン夫婦の山と旅

住み慣れた大和「氷」山の日常から、時には海外まで飛び出すペンギン夫婦の山と旅の日記です

雷獣のこと

2005-09-10 09:30:36 | 四方山話
昨日の話の続きは「又、此山に異獣あり。」で始まります。

夏、雷雨の起る時、小さい獣が厳に現れて雲を望み、飛んで雲に入る。
その勢いは糸を引くようで火が見える。<まるでロケット!!>
数十匹があっという間に、雲に飛び入るやいなや、夕立して雷鳴する。
ある年、どうしたことかこの小獣が夕立の後、山から死んで流れてきた。
人々が競って取あげて見るとあの獣で、しかも二疋いた。

大きさは小犬のようで灰色。毛は松葉ようで手で触るといらついて掌が
痛い。頭が長くて鳥のようで半黒の嘴がある。尾は狐のようでふさふさ
している。爪は鷲よりも猛く、深山の大木などに、爪の痕があるのは
まさしくこの獣のものだろう。<なかなか詳しい描写だが…???>


土佐の国の海辺で雷汁といって洒の肴にすることがあるそうだ。
小犬程のもので毛は針のごとしという。まさしくこれだ。
(先の話で)この獣を捕らえた時、かの土佐の噂を聞いて若者が集まって
雷汁をしようといった。所の長(おさ)がいましめて言うには
『土佐はとり喰ふことあるべけれど、それは生たるを捕へて、庖丁もて料
理するにて、障りもあるまじ。今是はは何の障(さわり)にか、自滅する。
其よしを知らねば、必喰ふべからず』

それで食べるのを止めたということですが、死んだ理由が分からないので危険だというのは合理的な判断で、鳥インフェルエンザや恐牛病が脅威の現代でも、心すべきことです。

ところが…とまだ続きがあり、これは「明和七(1770)年閏七日」と日にちまで明記してあります。
『伊奈郡駄科むらにて、雷獣を捕得たることあり。又江州鏡の宿にて雷獣をとらへたるを、委しく見たる人あり。これは近頃の事で六月十日…』

江州(滋賀県)の場合は…雨が激しく農夫が野外を逃げ走っていると、電光が閃き雷音が耳もとに響いて二人の間へ何か落ちてきた。
前の農夫の肩に飛びつき、肩を踏んで空へ騰ろうとするのを、後ろにいた勇気のある男が走り寄り、この獣を地面に落として押へつけて捕えた。
押へ付けた掌は疵だらけで血が流れたのは、その毛が針のようだからである。鏡の宿の人々は「雷を捕へたり」と見物人で市が立つようであった。

『其けだものゝかたちはいづれも同じことなりといふ。』と結んでありますが、この絵からではよく分かりません。絵には『うみべの けだものを いけどりに する』という説明がありますので、土佐の場合を想像した絵なのでしょう。大きさも人に比べると大きくとても「小獣」とは思えません。

さて、この獣の正体はなんでしょう?私は最初の「たてしな山」の記述からオコジョではないかと思うのですが…しかし「大きさ子犬の如く…」「頭長く鳥の如く…」となると首を傾げます。
同じような獣が海辺にいたというのも不思議です。ひょっとすると深い山奥には、オオカミのように今は絶滅した不思議な動物がいたのでしょうか?