経済学者・ジョセフ・スティグリッツ氏の発言の紹介の続きです。
「疫病・災害・気候変動などの危機から国民を守り、社会全体に奉仕するのは本来、政府です。無数の利己心を程よく調整し、社会を秩序立てる『見えざる手』は結局、市場には存在しない。政府を強くし、市場に適切な規制をかけ、政府・市場・市民社会が均衡関係を保つような資本主義が望ましいと私は考えます。『進歩資本主義』と名付け、新自由主義路線からの転換を提唱しています」
「歴史を振り返ってみましょう。18世紀末までの数百年間、人類の生活水準はおおむね一定でした。その後、欧米で変化が起こり、暮らし向きが劇的に良くなります。その原動力は産業革命ですが、それまでの農業経済を主体とした単純な市場に代わり、様々な生産活動が出現して、複数の市場が生まれます。多くの協業と調整が必要になってくる。個ではなく集団としての行動が必要になる。併せて規制が必要になる。つまり政治が重要になるのです」
「そして、西欧の啓蒙思想に根ざした三権分立の民主制の下で、協業と調整に適した社会の仕組みが次第に出来上がります。その典型例は1776年に英国から独立した、米国の民主制です」
「米国の発展の根幹にあったのは科学です。科学によって、私たちは周りの世界を理解し、社会を進歩させてきたのです。政府な科学技術に投資し、創造と刷新を後押ししてきました。重要な発見や発明のほとんどは政府の支援の成果といえます。20世紀の大発見である、遺伝子の本体・DNAの発見もそうです」
「トランプ氏は科学に信を置かず、コロナ禍への対処を誤りました。ただ、これは同氏が特殊なのではなく、科学を軽視し、科学費の削減を主張する右翼思想が台頭してきていることの反映です」
「眼前の危機で人々は科学の重要性に目を開きました。克服の要はウイルスを特定し、治療薬とワクチンを開発する科学の力です。私たちは科学を重視し、政府を重視し、市場のあり方を根本的に見直した、新たな秩序作りに向かうと私は考えます。それは、一握りの国や人ではなく皆が富を共有できるような、新たなグローバル化の模索であるはずです」
いま、世界的規模で、40年来の「新自由主義」とそれに基づく市場原理主義ー利潤第1主義が、新型コロナ危機のなかで大破綻に陥っていることは、「進歩資本主義」の提唱者である、ジョセフ・スティグリッツ氏も指摘してるとおりではないでしょうか。
同時に、「新自由主義ー市場原理主義」に戻ることはできないなかで、スティグリッツ氏が強調されたように、「一握りの国や人ではなく皆が富を共有できるような、新たなグローバル化の模索」です。私は、こうした模索と探求ー新たな社会への変革のプロセスがいよいよ、日本から世界からはじまりつつあると考えています。