見もの・読みもの日記

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文房具イヤー締めくくり/書斎の美学(静嘉堂文庫)

2007-12-05 23:54:27 | 行ったもの(美術館・見仏)
○静嘉堂文庫美術館 開館15周年記念展『-書斎の美学-文房具の楽しみ』

http://www.seikado.or.jp/

 これも日曜で終わった展覧会。会期最終日、いつものように小さな門をくぐり、背の高い雑木林の中のアプローチを歩みながら、降り注ぐ紅葉に心を奪われた。美術館の前庭に出ると、秋の青空を背景にした黄金色の銀杏が、大きなろうそくの炎のように燃え立っていた。そういえば昨年の今頃も、同じように、ここ静嘉堂文庫の秋景色に見とれていたなあ、と思い出した。

 さて、本展は、筆・墨・硯など、同館所蔵の文房具コレクションの全容を初公開するもの。振り返れば、夏に文房四宝のふるさと・中国安徽省を周遊し、秋に泉屋博古館の『文人の世界』展で印材の魅力に目覚め、さらに正倉院展でも文房四宝のミニ特集に遭遇するなど、今年は私にとって「文房具イヤー」の1年だったように思う。

 まず、筆。『描金螺鈿唐草文筆』(赤地に西域ふうの装飾)『描金填漆山水人物文筆』(明るい茶色)など、高級万年筆みたいな筆管の仕上げにため息をつく。填漆(てんしつ)というのは、存星・存清(ぞんせい)・彫填(ちょうてん)とも呼ばれる漆工芸の加飾法。出来上がりはこんな風合い(盒子)で、小粋である。幕末~明治初期に収集されたと思われる『唐筆一式』も面白かった。舶来品とは言いながら、本来、日用品(消耗品)であるべきものを、唐筆マニアが整えたものらしい。八段重ねの重箱に65枝が収められている。筆って、必ずキャップ(筆帽)が付いていたんだな、ということを初めて認識。

 墨は、サイコロみたいなかたちの石鼓墨とか、印鑑を模したものとか、無駄に凝った造形が多い。これでは、もったいなくて、使うに使えないではないか。和菓子の感覚と似ているように思う。

 印材は、新関欽哉氏コレクションの逸品が12点、特別出品されていた。中でも注目は『田黄(寿山石)龍鳳凰文浮彫(薄意)』。とろりとした黄色(かぼちゃ色!)で、石材の美質をあらわす「細膩(xini=現代中国語でも使う)」の意味が、これほどよく分かる実例はない。印刻はなく、印面には大根の切り口に見られる蘿蔔紋が見られる。その天然の美材に、超絶技巧の絵柄が浮き彫りされている。すなわち、表には5頭の龍が火炎宝珠を囲む図。裏には日輪と雌雄の鳳凰(レースのような尾!)と牡丹一枝。

 さらに私は、この印材の伝来を読んで呆然とした。かつては清朝内府に蔵され、西太后から李鴻章に下賜され、のちに梅蘭芳など、さまざまな著名人の手を経て、新関欽哉氏のもとに収まったものだという。西太后が、李鴻章が、この石に触れたかもしれない!と思うと、それだけで清朝史マニアの胸が高鳴ってしまう。でも西太后の下賜品なら、龍図ではなく、鳳凰図を前に飾るほうがよいのでは?(と思ったら、ネット上の「所蔵品紹介(印材)」では、ちゃんと鳳凰図の面を出している。よしよし)

 意外な発見だったのは、岩崎彌之助も愛好したという「水石」の楽しみ。卓上に飾れるほどの大きさの石に、自然の山水美を感得するものである。今回、展示されていた『伊予石(銘・峨眉山)』は「日本三大名石」のひとつだそうだ。炭を固めたような岩肌。起伏に富んだ広がりは、なるほど峨眉山(のイメージ)を思わせる。文人って、何にでも楽しみを発見できる人たちだなあ。世の中には、日本水石協会なる団体があることも初めて知った。

 ほか、払子(ほっす)、如意、玉器など。絵画は、水辺の風景を描いた王問『漁楽図』が、不思議な雰囲気でいい味。書は趙子昴筆『与中峰明本尺牘』(国宝・元代)が文句なく魅力的だった。

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