見もの・読みもの日記

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2024年1月展覧会拾遺(東京の展覧会から)

2024-01-25 22:31:06 | 行ったもの(美術館・見仏)

正月以降、見てきた展覧会をまとめて。

静嘉堂文庫美術館 『ハッピー龍(リュウ)イヤー!〜絵画・工芸の龍を楽しむ〜』(2024年1月2日~2月3日)

 初春にふさわしく、今年の干支・龍をモチーフとする絵画・工芸を集める。刀装具、印籠、茶釜など、さまざまなジャンルの作品が並ぶが、やはり見どころは、龍の本場である中国の工芸品だろう。景徳鎮官窯の青花や五彩の大皿や大瓶、螺鈿や堆朱も、旧蔵者の財と権力を想像させる、堂々とした姿のものが多かった。面白かったのは『紺地龍"寿山福海"模様刺繍帳』で、清朝皇帝の龍袍を、茶室の入口に掛ける帳(とばり)に仕立てたものだという。同様のリフォーム品には『紫地龍文錦卓掛』(色合いが好き、ビロードふうの蝦夷錦)や『紅地龍獅子楼閣模様金入錦帳』(短足で豚鼻の獅子がかわいい)もあった。また「文庫」ゆかりの美術館らしく、南宋刊本『説文解字』の「龍」の箇所が展示されていた。龍は「春分にして天に登り、秋分にして淵に潜む」のか。宇宙の根底みたいな存在なのだなあ。『大漢和辞典』の記述もパネルで紹介されており、「龍×2」「龍×3」「龍×4」(64画)という漢字があることも初めて知った。

山種美術館 特別展『癒やしの日本美術-ほのぼの若冲・なごみの土牛-』(2023年12月2日~2024年2月4日)

 「心が温かく、優しい気持ちになれる日本美術で、癒しのひとときを」というコンセプトの展覧会。江戸時代の「ゆるかわ」を代表するのは若冲と芦雪。それぞれ5件ずつ出ていたが、同館の所蔵品は、若冲『伏見人形図』と伝・芦雪『唐子遊び図』だけで、あとは個人蔵だった。近年、芦雪わんこ図のファンが増えていて、うれしい。風景では小野竹喬『春野秋渓』の明朗な色彩、動物では奥村土牛の『兎』(耳の長いふわふわの白ウサギ3匹)が気に入った。河童になつかれているおじさんの図があって、小川芋銭の作品かな?と思ったら、山口晃画伯による『肖像画 小川芋銭』だったのには笑ってしまった。

印刷博物館 企画展『明治のメディア王 小川一眞と写真製版』(2023年11月18日~2024年2月12日)

 明治期に活躍した写真師、小川一眞(小川一真、1860-1929)を紹介する。ただし写真そのものよりも、小川が導入した2つの写真製版技術、コロタイプ印刷と網目版印刷に着目し、写真入りの印刷物が明治時代のメディアで果たした役割を考えるところが、同館らしい新機軸である。展示会場の壁(パネル)が、拡大した写真(印刷物からの複製)でびっしり隙間なく埋まっていて驚いた。ふつうの展覧会なら、もう少し文字による説明パネルとか、おしゃれな飾り空間があってよさそうだが、とにかく妥協なしに写真だらけ。ただし写真の素材は、人物(貴顕、議員、文士、芸者など)、名所風景、神社仏閣、西洋建築、皇室、地震、戦争、鉄道、文化財…と多種多様で全く飽きない。議員名鑑は、ひとりずつ名前を確認しながら眺めてしまった。

東京国立博物館・本館特別1室 特集『博物館に初もうで 謹賀辰年-年の初めの龍づくし』(2024年1月2日~1月28日)他

 今年も恒例の干支づくし展示。正月から康熙帝の楷書四字軸『龍飛鳳舞』を見ることができて、身が引き締まるような気持ちになった。伝・陳容筆『中国五龍図巻』は久しぶりに見た。国宝室は正月恒例『松林図屏風』だが混んでいたのでさらりと流す。続く「仏教の美術(平安~室町)」には、平安時代の『仏涅槃図』や『十六羅漢図』2件が出ていて足が止まった。『仏涅槃図』は素朴さと華麗さが同居したような、魅力的な作品。横たわる釈迦の、黒髪・山形の眉・赤い唇が印象深い。

松岡美術館 『アメイジング・チャイナ 深淵なる中国美術の世界』(2023年10月24日〜2024年2月11日)他

 チラシの写真が『翡翠白菜形花瓶』なので、工芸だけの展覧会かと思っていたら、私の好きな明清時代の画冊・画巻の逸品がずらずら並んでいて、正直驚いた。あとで同館のホームページを見たら「昨年、広くご紹介した館蔵の明清絵画より、今回はとくに板倉聖哲東京大学東洋文化研究所教授による監修のもと画冊と画巻の優品を選りすぐり、前期に明代、後期に清代の作品をご覧いただきます。前回かなわなかった題字や跋文も可能な限り展観し、明清時代の画家と文化人との交流も映し出します」という丁寧な説明があった。見落としていて、すみませんでした。

 私が行った後期に見ることができた画家は、張宏、武丹、曹澗、査士標、朱文震、張崟(ちょういん)、銭杜、任伯年。張宏は、昨年も同館の『館蔵中国明清絵画展』で見て、大和文華館で見た名前だ、と思った人。曹澗は、ちょっと奇想っぽい風景の図があって、いいなと思った。張崟の『仿古山水画冊』は童画みたいなおおらかさがあって好き。前期しか展示されない画家もあって、惜しいことをした。多くの作品に「王南屏旧蔵」という注記がついていたことをメモしておく。金銅仏、漆器、陶磁器、玉器なども眼福だった。特に玉器(翡翠、白玉など)は、中華圏のセレブが持っていそうな精緻で華麗な工芸品のオンパレード。しかし日本には、あまりコレクターがいないのではないかと思う。緑色に墨を流したような色の石を「碧玉」と呼ぶことを初めて知った(調べると、全く違う色の「碧石」もあり)。「崇禎欽賞」銘の入った『碧玉盤』が出ていたが、縁起が悪いとかコレクターに嫌われることはないのかな。

早稲田大学演劇博物館 2023年度秋季企画展『没後130年 河竹黙阿弥-江戸から東京へ-』(2023年10月2日~2024年1月21日)

 会期末ぎりぎりに慌てて見て来た。幕末から明治に活躍した歌舞伎作者の河竹黙阿弥(1816-1893)の回顧展。幕末には、それまであまり歌舞伎と縁のなかった寄席芸の演目を取り上げたり、明治以降は、開化や西洋の風俗を取り入れ、民衆の教化に資する高尚な芝居をという「演劇改良運動」に対応したり、とにかく変化の多い時代を生きた人だということがよく分かった。そして娘の糸女が父の功績と資料を後世に伝えたこと。本所深川の家で関東大震災に遇ったときは、貴重な資料を入れた葛籠(つづら)を背負って逃げたそうで、その葛籠が展示されていたのが生々しかった。あと、黙阿弥作品に登場する地名をマッピングした『黙阿弥江戸芝居地図』が面白かった。我が家の近所(門前仲町~木場)はけっこう多いので、調べながら歩いてみたい。


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