見もの・読みもの日記

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新春は日本画で/日本の風景を描く(山種美術館)

2023-01-11 00:26:50 | 行ったもの(美術館・見仏)

山種美術館 特別展『日本の風景を描く-歌川広重から田渕俊夫まで-』(2022年12月10日~2023年2月26日)

 先月から始まっていた展覧会だが、なんとなく年初めに見たいと思ってお預けにしていた。そして計画どおり正月休みに見てきた。江戸時代から現代までの風景画の優品を紹介する特別展である。

 江戸時代の作品は、広重の『東海道五拾三次』『近江八景』の一部(展示替えあり)のほか、酒井抱一、池大雅、谷文晁などが出ている。椿椿山の『久能山真景図』は、遠くの山の嶺とか木立とか伝統的な山水画の様式と、それを裏切る部分(広すぎる登り坂とそれを進みゆく二人の人物)が同居しているところが、エモくて好き。椿山はむかしから私の推しなので、今春、板橋区立美術館で開催予定の『椿椿山展』をとても楽しみにしている。

 山種美術館といえば「日本画専門美術館」だと思っていたが、正確には、開館当初の理念が「日本画専門美術館」だったというのが正しいのかもしれない。本展には、黒田清輝、安井曽太郎、佐伯祐三など洋画家の油彩や水彩の風景画(同館コレクション)も出品されていた。

 本展の見どころの一つは、石田武の大作『四季奥入瀬』(1985年制作、全て個人蔵)全4点である。春を描いた『春渓』と夏を描いた『瑠璃』の展示は37年ぶりとのこと。美術作品って、制作と同時代に生きていても見る機会があるとは限らないのだな。『春渓』は瀬から淵へ流れ下る水量豊かな渓流を描き、白く波立つ水面が画面いっぱいに広がっている。灰緑色の淵の深さと白い波頭は、同じ作者・石田武の『鳴門海峡』を連想させた。『瑠璃』は空気まで青に染まった深い森の中、視界を遮るのは水辺に枝を広げた大木。鮮やかな瑠璃色のカワセミが水上を横切っていく。『秋韻』は色調が一転し、黄茶色の木立の中を白く泡立つ急流が流れる。『幻冬』は全ての葉が落ち、雪に閉ざされた冬景色に横たわる黒い河。水墨画のようなモノクロの世界。

 このほか印象に残った作品には、速水御舟の『灰燼』がある。関東大震災後の風景を描いた小品で、ピンク色の瓦礫がころがる中に、崩れ残った建物が黄色と白と黒でスケッチふうに表現されている。灰色の静かな空。人の姿はない。未発表のまま画室に残され、没後に発見されたという。御舟はあまり好きではないので、積極的に見てこなかったが、この1枚はとてもいいと思った。安田靫彦の『富嶽』はいいなあ。富士山をこんなに清々しく描ける人は、なかなかいないと思う。小野竹喬『冬樹』と山田申吾『宙』は以前にも見たことがあって、好きな作品。田淵俊夫『輪中の村』は、田園の遠景に巨人のような鉄塔がぼんやりと描かれている。現代の農村の実景なのだろうが、どこか幻想的でもある。


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