見もの・読みもの日記

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近代学術のインフラ構想/オルデンバーグ(金子務)

2007-06-17 23:52:01 | 読んだもの(書籍)
○金子務『オルデンバーグ:十七世紀科学・情報革命の演出者』(中公叢書) 中央公論新社 2005.3

 松本典昭氏の『パトロンたちのルネッサンス』で15世紀のヨーロッパを知り、山本義隆氏の『一六世紀文化革命』が面白かったので、次は17世紀。別に狙ったわけではないのだけれど、たまたま、本書の副題が目に飛び込んできたので買ってしまった。

 オルデンバーグ(Henry Oldenburg、1618頃-1677)の名前は、どのくらい日本人に知られているのだろうか。正直なところ、私は本書を目にするまで全く知らなかった。ドイツ生まれでイギリスに渡り、ロンドン王立協会の初代事務総長をつとめ(→詳しくはWikipedia)、現在も続く、最古の学術雑誌「Philosophical Transactions」を創刊した人物であるという。「Philosophical Transactions」! それなら私も知っている。理工系の大学・研究所図書館なら、必ず備えているアイテムである(こんな表紙)。

 「学術雑誌の刊行は17世紀に始まる」というのは、お題目みたいなもので、何度も耳にしていた。しかし、最初の学術雑誌がどんなものだったかは、あまり考えたことがなかった。本書を読んで、初めてその実態が少し窺えたように思う。

 まず必要なものは、郵便制度である(これは第5章「情報ネットワークの構築と郵便事情」で詳述されているが、知らないことばかりで非常に面白かった)。16世紀から17世紀にかけて、商業の発達とともに、ヨーロッパの郵便事情は次第に整備されていった。

 当初、科学者たちは、手紙によって通信しあった。学問や科学に関するレターは、私信と区別され、集会で読み上げられたり、引用されたり、コピーや印刷をされることを当然の前提としていた。オルデンバーグは、彼のもとに寄せられる多くの手紙を読み、若い科学者を励まし、彼らの研究成果を公表する手助けをした。そして、増え続ける情報を制御するため、興味深い報告は「トランザクションズ」に掲載し、印刷の力を借りて、より多くの読者のもとに届けることを始めた。

 オルデンバーグ自身は科学者として特別な成果を上げていないが、ニュートン、ホイヘンス、ボイル、ライプニッツなど、様々な科学者が彼の雑誌に足跡を残していく。注意すべきことは、この「トランザクションズ」は、王立協会の「認可」こそ受けてるけれど、実は資金的にも編集の面でも、オルデンバーグの個人雑誌にほかならなかった。うーむ。今も昔も新しいメディアって、集団知ではなくて、突出した一個人のビジョンから生まれるものなのかも。

 「トランザクションズ」は1664/5年(旧暦=ユリウス暦表記)に発刊されたが、直後にロンドンではペストが発生し、1666年には大火が起きた(この大火でペストは終息)。この2つの災害により、イギリスの書籍業は壊滅的な打撃を受けたという。今後はイギリスの古書を見るときは、この1666年という年号より古いか新しいかに注意しようと思う。

 最後に、オルデンバーグは、アカデミーという「共同研究の場」を確立することにも業績があったことも付け加えておこう。

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