〇日本民藝館 特別展『日本民藝館改修記念 名品展II-近代工芸の巨匠たち』(2021年7月6日~9月23日)
大展示室のリニューアルを記念する名品展第2部は、同館創設者の柳宗悦と親しく交流した近代工芸作家の代表作を展示する。通常のテーマ展だと、併設の1部屋か2部屋が近代工芸にあてられているが、全館挙げて近代工芸を特集するのは、かなり稀なことだと思う。玄関ホール、正面の壁には棟方志功の『鐘渓頌』。六曲屏風で、各扇に4枚の版画が貼られており、赤色ベース・青色ベースの神の図が交互に、茶と青の市松模様の屏風に仕立てられている。きれいだなあ、と思っただけで、それ以上何も知らなかったが、調べたら「鐘渓」とは河井寛次郎の窯の名で、河井を称えて作った作品であること、市松模様の屏風に仕立てたのは柳宗悦の発案であったことが分かった。同館の展示は、余計な解説を付けないところがよいのだが、あとで調べて、へえ~と納得することもある。屏風の下には、緑釉に黒で井桁模様を描いたような大皿が飾られていた。濱田庄司の作品である。
大階段下の展示ケースは、向かって左にバーナード・リーチ、右に河井寛次郎の作品を展示していた。ひとくちに「民藝」の作家たちというけれど、それぞれ個性がある。私は、河井の作品は1点だけ見ると、強い個性に惹かれるのだが、たくさん並ぶとちょっと胃もたれがする。リーチの作品はどれも飄々とした味わいが好き。手元に置いて毎日眺めたり、実際に使うならリーチの皿を選びたい。
2階の大展示室は、陶芸を中心に、さまざまな作家の作品を取り合わせて展示している。展示台として使われているのが、朝鮮時代の箪笥だったり、19世紀イギリスの食器棚だったりするのが面白かった。イギリスの食器棚は、観音開きの収納棚の上に大皿を立てかけて「飾る」ための薄い棚がついている。むかし絵本や児童文学の挿絵で見たタイプだ。使いたいときはすぐ取り出せて、実用的かもしれない。この部屋でいちばん欲しいと思ったのは、富本憲吉の『楽焼彫絵柳文ペン立』。日本のやきものには珍しいブルーが美しかった。
大展示室の一番奥には朱塗りの鏡台が鎮座しており、神棚(というか、お社)みたいで存在感があった。黒田辰秋の作品である。実際に使用はされていないのか、ピカピカで傷もなかった。展示室の中央には、やはり黒田の作品で朱塗りの円卓(脚の部分は八角形)も出ていたが、こちらは使われた形跡があるように感じた。それから、展示ケースの中に素っ気ない無地(緑色だったかな)の直方体の箱があり、何かと思ったら「くずきり用器箱」という札がついていた。開けると円筒形の容器が出てくるのかしら?と想像した。
他の展示室では「書物と装幀」の特集が面白かった。芹沢銈介の『絵本どんきほうて』はセルバンテスの原作を日本の武士に置き換え、美しくユーモラスな型染めで表現したもの。川上澄生の『ゑげれすいろは』(ゑげれすいろは静物)は小さな折本形式でアルファベットに単語を添えたもの。単語の選び方と木版の挿絵が独特で楽しい。
また1階には「次代の陶芸家たち」と「次代の染織家」の展示室が設けられており、陶芸では舩木研兒(=船木研児、1927-2015)が印象的だった。鳥やウサギやカタツムリなど、横向きの生きものの、まんまるおめめがかわいい。「布志名焼(ふじなやき)船木窯」は松江の宍道湖畔にあるのだな。染織では、やっぱり柚木沙耶郎(1922-)が素敵。真剣に欲しくなるものがたくさんある展覧会だった。