見もの・読みもの日記

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2018年9月@関西:光悦考(楽美術館)+高麗美術館特別展

2018-09-19 23:42:38 | 行ったもの(美術館・見仏)

楽美術館 開館40周年 秋期特別展『光悦考』(2018年9月2日~12月9日)

 今回の関西旅行の目的の第一は見仏、第二は陶芸である。本展は、本阿弥光悦(1558-1637)が、楽家二代常慶、三代道入との交流の中で生み出した光悦楽茶碗を紹介する。私は楽茶碗も光悦も大好きなので、わくわくする。

 しかし展示室に入ると、すぐ目に飛び込んできたのはケレンのない落ち着いた黒楽茶碗。え?これは?と思ったら、長次郎の『萬代』だった。上から覗き込むのもいいが、真横から見ると無駄のない形の美しさに舌を巻く。アスリートの肉体みたい。「光悦考」と言っても、光悦茶碗だけで展覧会ができるわけではないので、ほかの茶碗も取り交ぜているのだ。多くは楽家歴代の茶碗だが、光悦と同時代の瀬戸黒茶碗「有明」や織部茶碗が出ていたのも面白かった。

 ちなみに本展で見ることができた光悦茶碗は、黒楽茶碗の『雪沓』『朝霧』『水翁』『東(あずま)』『村雲』。赤の『弁財天』『志くれ』『乙御前』。飴釉の『何似生(かじせい)』『立峯(追銘、五月雨)』『紙屋』。白の『冠雪』。一部展示替えがあり、11/10から赤『加賀』が見られる。光悦の代表作の全てではないけれど、かなり網羅されているのではないか。

 比較的初期の頃、同じような黒楽茶碗をいくつも制作しているのが興味深かった。その中では『朝霧』のかたちがいい。『東』は漆黒の闇に白い花吹雪が散るような肌合い。道入が好んだ「蛇蝎釉」の効果である。のちの黒楽茶碗『村雲』はシャープで思い切りがよくて、口まわりに全く釉薬をかけず、岩壁のような素肌が屹立している。

 白楽茶碗の『冠雪』の側面は、口のまわりがモカクリームのような薄茶色、その下がミルクのような白、底に近いあたりは少し青みがかっていて、三色アイスクリームを思い出した。赤楽茶碗『乙御前』はかわいい。底のふくらみが少しふくらみ過ぎて、高台が浮いてしまっているのさえ、愛嬌があって可愛い。極楽浄土の蓮の花のようでもある。中から福々しい童子が姿をあらわしそう。造形が大胆すぎて開いた口がふさがらないのは飴釉茶碗『紙屋』。いや茶碗としてデカすぎだろう、これ。

 本展のタイトル「光悦考」は、御当代・15代吉左衛門が3年がかりで執筆し出版した著書の書名でもある。光悦茶碗のキャプションには、その一節が引用されているのだが、『紙屋』を譬えて、平仮名の「ぬ」というのに笑ってしまった。光悦茶碗はどれも一目見て光悦だと分かる特徴を持っているのだが、15代吉左衛門の『猫割り手』(野良猫が割ってしまった茶碗を継いだもの)は、遠目に見たとき、絶対光悦だと思い、近寄ったら違っていた。

高麗美術館 高麗美術館30周年記念特別展『鄭詔文と高麗美術館』(2018年9月1日~12月11日)

 開館30周年を記念し、初代館長である在日コリアン一世の実業家である鄭詔文(チョン・ジョムン、1918-1989)氏と熱き友情で結ばれた日本の人々との物語を紹介する。この日は学芸員によるギャラリートークがあると分かっていたが、間に合わないだろうと思っていたら、トークの最中に割り込むかたちになってしまった。ちょうど陶磁器の話をしていて、この旅行の最終日に大阪東洋陶磁美術館の『高麗青磁』に行くつもりだったので、いい予習になった。

 高麗(918-1392)というのは戦乱の時代で、契丹に攻められ、金に攻められ、モンゴルに攻められる。その後、李氏朝鮮(1392-1910)になって、豊臣秀吉の壬辰倭乱が起きるわけだが、別に国際戦争はそれだけではないという話が記憶に残った。壬辰倭乱を軽く見てはいけないが、過度に重視するのもやめたほうがいい。

 辰砂で赤色を出すのは(窯の温度調節が)難しく、辰砂で絵を描いた壺は特別な意味を持っていたこと、回青という釉薬で秋草を描く場合、わざと不純物を入れて絵具の明度を下げていたらしい(わび・さびの効果)などの解説も面白かった。展示は、書画も陶芸・工芸品も、とっておきの名品をかなり惜しげもなく出している。

 学芸員の方が「父は」「父は」とおっしゃることに途中で気がついた。鄭詔文氏の長男であり、同館学芸部長の鄭喜斗さんだったのである。同館の基礎となった鄭詔文さんのコレクションは、全て日本で蒐集したものだという解説が印象的だった。「父としては、買い戻すような気持ちだったんでしょうねえ」みたいなことをおっしゃっていたと思う。


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