見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

水越さん/季刊・本とコンピュータ

2004-05-26 21:58:05 | 読んだもの(書籍)
○「季刊・本とコンピュータ」2004春号

 久しぶりに生協の書籍部に行ったら水越伸さんの表紙を見つけた。奥付を見たら3月10日の発売だった。街の本屋さんでは置いてあることの少ない雑誌なのでつい見逃していた。定期的に購読すると決めているわけではないのだが、目次を見るとおもしろそうなので、つい買ってしまう。

 この雑誌が発刊された当時、「本とコンピュータ」はまだ基本的に別カテゴリーの存在だった。「犬と歯ブラシ」や「カレーライスと洗濯バサミ」くらい結びつきに必然性のないタイトルだったと思う。雑誌の中身も、「本」寄りの記事と「コンピュータ」寄りの記事がただ同居しているだけで、あんまり面白くなかった。それが、この数年、インターネットの普及とともに俄然面白くなってきた。

 さて、今号の白眉は、なんといっても水越伸さんへのインタビュー記事である。「共有地の開拓者たち」という連載記事の第三回に当たる。

 1980年代末、新聞研究所(のちの社会情報研究所)で大学院生として学んでいた当時の回想にハッとする記述がある。

 「同じ頃、都市論が専門で「盛り場」を研究にしている面白い助手がやってきたと話題になった。図書館蔵書の貸出記録から同じ本を何冊も借りていることに気づいて、向こうから声をかけてきたその助手が吉見俊哉だった。」

 えええ~!!である。しかし、最近の若者は、これが何をイミしているか、分かるのだろうか? 

 むかし、図書館の本にはカードポケットという封筒が貼ってあって、そこには縦長の貸出カードが入っていた。図書を借りるときは、貸出カードを抜き出して日付と自分の名前を記入し、図書館に置いていったのである。

 しかし、誰がいつどんな本を読んだかという個人情報が他人の目に触れるのはよろしくないという理由で、公共図書館では、1970年代(たぶん)にこの方式は廃れていく。大学図書館の対応は公共図書館より遅かったと思うが、1980年代の末と言えば、多くの大学が、プラスチックカードの数字やバーコードを瞬時に読み取る自動貸出システムを導入し始めていたはずだ。

 天下の東京大学の図書館サービスが、当時、いかに旧態依然とした、個人情報ダダ漏れ状態であったかを想像するとちょっと同情を禁じ得ない。

 しかしまた、図書の貸出記録という、日付と名前だけのわずかな情報を通して、その向こうに、自分と同じ関心を持つ研究仲間(になるかもしれない人)がいるということを察知し、見つけ出したというのは、大げさすぎるかも知れないが、なかなか感動的である。メディア・スタディーズの旗手、吉見俊哉と水越伸にふさわしすぎて、よくできた都市伝説を聞かされているような気もする。

 社会情報研究所(今年度から大学院情報学環に合併改組)図書室は、すでに自動貸出システムを導入済みであるらしい。したがって、今後、この研究所で学ぶ院生や研究者には、2人のような出会いはもうありえないということだ。ちょっと残念...
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「朝鮮」表象の文化誌 | トップ | 天龍八部/看中国 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

読んだもの(書籍)」カテゴリの最新記事