見もの・読みもの日記

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近代文学の揺籃/上海物語

2005-03-01 00:02:37 | 読んだもの(書籍)
○丸山昇『上海物語:国際都市上海と日中文化人』(講談社学術文庫)講談社 2004.7

 上海の誕生、歴史への登場から筆を起こしたイントロ部分は、短いが、けっこう「ほほう」と思う新知識が詰まっていた。上海は現在の中国の大都市としては、異常に短い歴史しか持たないとか(そうだよな、南京とか北京の古さに比べれば)。上海の別称「滬」「申」の由来とか。「浜」はこの地方の方言で小河を指すとか(以前、上海に「○浜」という地名表記板があることについて、この字は中国の繁体字にも簡体字にもないから、これは日本統治時代の遺物か?という議論を見たことがある)。

 本論は、1920年代の「上海文壇事始め」から、日中戦争、太平洋戦争を経て終戦までの上海を、魯迅、茅盾、郭沫若などの文学者を中心に描く。もっとも、日本の近代文学史はほとんど政治史とクロスしないが、中国の文学者たちの生きた軌跡は、そのまま政治動乱史である。むかし、国文科に在籍していた私は、興味本位で「中国近代文学史」の授業を聴きにいって、政治史とのごたまぜぶりにびっくりしたことがある。

 近代初期の中国の文学者は日本に留学した人が多い。また、戦前は日本から上海に渡るのにビザが要らなかった(初耳!)こともあり、上海を訪れた日本の文壇人も数多い。しかし、残念ながら、両国の文学者の間には、儀礼的なつきあい以上の交流は実現しなかったように思われる。日本の”文学研究者”には、魯迅や郭沫若の愛好者がそれなりにいるけれど、彼らに影響を受けた日本の”作家”って、いないと思うのだが?

 中国の文学者との交流で、むしろ異彩を放つのは内山書店の主人である。日中戦争のさなかに出版されたという『上海漫談』そのほかのシリーズをぜひ読んでみたいと思った。親交のあった魯迅が「アンタの漫談はあまりに支那の優点ばかりを書くからイケナイ。それでは支那人の自惚れ根性を増長させるだけでなく革命を後退させるからイケナイ」と評したというのは、ちょっと哀しいけどいい話である。
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