見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

碁盤の上の姫君/出光美術館

2005-02-28 00:04:54 | 行ったもの(美術館・見仏)
○出光美術館『源氏絵―華やかなる王朝の世界―』

http://www.idemitsu.co.jp/museum/

 源氏物語の世界を視覚化した作品、特に室町~江戸の屏風絵を多数展示している。コマ仕立ての名場面を区切る金泥の雲が美しい。うーむ。しかし私は「源氏物語」って、平安の闇を前提として、初めて成立する物語だと思う。漆黒の夜の闇があってこそ、男は許されざる高貴な女性のもとに忍び入り、時には女性は操を守って逃げおおせ、時には相手の正体も知らないままに相契り、着物の残り香だけを記憶にとどめる。そういう「源氏」の世界と金泥のピカピカした華やかさにはちょっと違和感を覚える。もっとも、狩野探幽の源氏絵屏風では、惜しみなく使われた金泥が、凪の海みたいに渺々とした味わいを醸し出していて、そこがいいのだが。

 「伝・俵屋宗達」の源氏絵残闕が3点出ていた。登場人物の京人形のような顔立ちと、明らかに写実より「デザイン性」を重視した画面構成が、確かに宗達(の周辺)っぽい。その1枚、「葵」と題された画面では、碁盤の上に立った少女の髪を、男(源氏?)が鋏でそごうとしている(出光美術館のサイトに画像あり)。え?こんな場面あったっけ?

 帰ってから「源氏」を読み直してみた。すると確かに葵巻には、源氏が紫上の髪をそいでやる場面がある。「君の御髪は我そがむ」と言って。しかし、碁盤の上に立たせたという記述は原文にはない。

 下記のサイトによれば、長承三年(1134)に行われた恂子内親王・本仁親王の「髪削」(髪の先を切りそろえ、髪が豊かに生えることを願う儀式)に際しては「父役の鳥羽上皇が据えた碁盤の上に本人が上り、母役の太皇太后令子内親王が髪を削いだ」という記事があるらしい。原典は未確認である。

■源氏物語にみる平安時代の生活
http://evagenji.hp.infoseek.co.jp/co-0307-1-7.htm

 後世、この習慣は「髪置」「着袴」など子供の成長を祝う様々な行事と交じり合って、今日の「七五三」に流れ込んでいるようだ。が、とりあえず、葵巻での紫上の整髪は日常の所作であって、特別な儀式ではないので、わざわざ碁盤の上には立たなかっただろう。紫上、もうかなり大人だし。まあ、下記のような図像が穏当なところか。

■風俗博物館「髪削ぎ 紫の君」
http://www.iz2.or.jp/tenji/main_sub_39.htm
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