見もの・読みもの日記

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完璧無比/明治の七宝(泉屋博古館分館)

2008-07-24 23:39:37 | 行ったもの(美術館・見仏)
○泉屋博古館分館 夏季特別展『近代工芸の華 明治の七宝-世界を魅了した技と美』

http://www.sen-oku.or.jp/tokyo/index.html

 雑誌『美術手帖』に触発されて、先日、京都にある並河靖之七宝記念館を見てきた。けれども、清水三年坂美術館の『帝室技芸員・並河靖之展』を見られなかったことを残念に思っていたら、なんと同美術館のコレクションを中心とした明治の七宝展が、東京の泉屋博古館分館で始まっているではないか。なんだか、「七宝ブーム」が「来てる」のかしら。

 そもそも七宝とは、金属製の下地の上に釉薬を乗せたものを高温で焼成し、ガラス様あるいはエナメル様の美しい彩色を施す工芸品。日本では、尾張藩士・梶常吉が、古書とオランダ舶載品(中国製品)を参考に、天保4年(1833)独学で完成させたものが、近代七宝の始まりといわれる。へえ~愛知県に「七宝町」という地名があることも、「尾張七宝」と呼ばれる郷土工芸があることも、私は会場のパネルで初めて知った。

 尾張七宝には、小品もあるが、驚くほど巨大な花瓶もある。その広大な表面を飾る、超絶技巧の細密な花鳥文。若冲の遺伝子を感じるなあ。完成度の高さは、清朝の(乾隆盛期の)磁器に匹敵するのではないかと思う。

 一方、2人の帝室技芸員、並河靖之(なみかわやすゆき)と涛川惣助(なみかわそうすけ)の作品は、小ぶりなものが多い。並河靖之は、有線七宝だから、小さな桜の花びら一枚一枚も、銀線で囲って釉薬を流しているんだよなあ。信じられない職人芸である。虫眼鏡で拡大しても、何らの瑕疵も見つけれない。涛川惣助は、釉薬を差したあと、植線を抜いてしまう無線七宝を完成させた。色をぼかしたり滲ませることで、写実的で平明な表現が可能になる。並河靖之の七宝は、ひとつでも持っていたら一生自慢ができると思うが、日々、生活の中で、使ってみたいのは涛川惣助の作品である。

 私は、並河の緑釉(明色~暗色まで何種類かある)が好きだが、一般には黒の美しさに特徴があるといわれる。並河は、明治11年(1978)東京のアーレンス商会で技術指導をしていたドイツ人化学者ワグネルの指導を受け、黒色釉を開発したそうだ。化学者のワグネル? どこかで聞いたような、と思ったら、大学南校(現在の東京大学)や東校(東京大学医学部)で教師をつとめたお雇い外国人のひとりである。日本の近代工芸は、ずいぶん彼のお世話になっているようだ。

 今、三の丸尚蔵館の『帝室技芸員と1900年パリ万国博覧会』展でも、並河・涛川(コンビ名みたい)の七宝が見られそうだ。そのうち行ってみよう。

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