日付は11月16日。この日もホテルを早立ちして、ニューヘブンからアムトラックでニューヨークに向かう。朝食は駅のベンチでダンキンドーナッツとコーヒー。
2時間ほどで、マンハッタンのペンステーション(ペンシルバニア・ステーション)に到着。ホテルに荷物を置き、11:00から始まるニューヨーク公共図書館の館内ツアーに出かける。エントランスホールのキャンドルスタンドの下で待っているよう、案内されたときは、参加者は私たちだけ?と思ったが、次第に人が集まってきて、10人ほどの団体になった。案内役は紳士然とした初老のおじさん。参加者は老人から高校生くらいの若者グループまで、さまざまである。
同館の活動ぶりについては、今のところ、菅谷明子さんの『未来をつくる図書館』にまさるレポートはないと思う。館内の写真は、ボストンと同様、安立清史研究室のサイトから借用しよう。
■図書館の夜:幻想図書館(2)
http://www.lit.kyushu-u.ac.jp/~adachi/Library/NYPL/NYPL.html
正確には「ニューヨーク公共図書館」は、5つの中央館と80余の分館からなる。うち4ヶ所が貸出を行わない研究図書館であり、他は貸出を行う図書館である。私たちが訪ねたのは、5th Avenue and 42nd Streetの交差点に建つ、石のライオン像で有名な、人文社会科学系の研究図書館(Humanities and Social Sciences Library)だ。映画「ゴースト・バスターズ」や「デイ・アフター・トゥモロー」にも登場しており、ニューヨークのランドマークの1つと言っていいだろう。
館内ツアーは、まず、図書館の維持管理に莫大なお金がかかること、にもかかわらず、多くの有益な情報資源が市民に無償で提供されていること、そのわけは、図書館の経営が篤志家の寄付によって成り立っていることの説明から始まった。ふーむ。日本では、見学者にこういう説明ってしないだろうなあ、と思って興味深かった。
いちばん感激したのは、やはり大閲覧室である。むかしは(戦争中?)窓が全て塞がれていて、天井も黒一色だったそうだ。カタログルームにあったカード目録は全て片付けられて(コピーして出版された冊子体目録が周囲の書架に並んでいる)検索端末に置き換わっている。今回見てまわった図書館は、どこも非常にリノベーション(改造)が上手いと思った。創建当初の基本コンセプトを活かし、むしろそれを強調しながら(重厚で上品な雰囲気の提供もサービスのうち)、きちんと現代的な図書館に生まれ変わっている。
リノベーションの典型的な事例は、中庭の転用である。イエール大学では、スターリング記念図書館の中庭を転用して、音楽図書館が新設されていたが、ここ、ニューヨーク公共図書館でも、中庭(South Court)に、ビデオシアターやレクチャールームがつくられていた。一見、別棟の建物のようだが、回廊部分がガラス天井で覆われているので、雨風の心配はない。しかも、外光を取り入れることで、中庭の快適な開放性も残している。
3階の展示ホールでは「History of Men's Wear」の展示が行われていて、本以外に多数の絵画(肖像画)が飾られていた。中央のケースにはグーテンベルクの聖書があった(これは常設展示かと思ったら、そうでもないみたい。→NYPL展示案内のページ)。興味深かったのは、この場で案内役のおじさんが、「印刷術の発明まで、本は少数の人々しか持つことができなかった。しかし、グーテンベルクの画期的な発明によって、多くの人々が本(知識、情報)を持てるようになった。それは、ちょうど今、インターネットによって起きている革命のようなものである」という趣旨の解説をしていたこと(意訳と要約しすぎもしれないけど)。真剣に聞き入る若者たちの表情が印象的だった。そう、本来、貴重書(rare books)が貴重なのは、「古いから」「他に残っていないから」あるいは「高価だから」ではなくて、ちゃんと歴史的意義があるからなんだよな。そんなことを考えていた。
約1時間のツアー終了後、上司と私は、飽きずに館内をうろうろする。1階のギャラリーでは「Ehon(絵本)」と題した、日本の出版文化に関する大規模な展覧会が行われていた。主な展示作品は、近世から近現代の絵入り出版物である。歌麿、北斎はもとより、伊藤若冲の画巻『乗興舟』がある。神坂雪佳の『百々世草』がある。耳鳥斎(にちょうさい)の俳諧味あふれる戯画(かつて伊丹市美術館まで見にいった)も多数。アメリカ出張の思わぬ余得に、私は大はしゃぎしてしまった。
最後にギフトショップに寄ると、ここがまた、時間を忘れるくらい、楽しい。品揃えの充実ぶりは、サイトで確かめられたし。今、見ていたら、これが欲しくなってしまった...
それから外に出て、図書館の外観(もちろんライオン像も)を写真に撮る。そして、おそい昼食を食べに行くはずだったのだが、通りを渡って、南に少し歩いていくと、また、ニューヨーク公共図書館の旗を下げた建物に行き当たった。2階の窓から見える室内には、本のつまった書架の列が並んでいる。「あれ?ここも図書館じゃない?」と言い合って、つい、素通りできずに中に入ってしまう。ここは、Mid-Manhattan Library という、貸出図書館の1つ。就職情報・医療情報の提供など、より市民生活に密着したサービスを行っていることは、菅谷明子さんの本に詳しい。しかし、それだけでなく、けっこう専門的な学術雑誌や参考図書も揃えていることに、感心してしまった。
こうして、ようやく図書館を離れたのは、14:00近かったのではないかと思う。手近の中華レストランで簡単な昼食(大雑把な味)。あとは夜まで、最後のフリータイムを楽しむことにした。
2時間ほどで、マンハッタンのペンステーション(ペンシルバニア・ステーション)に到着。ホテルに荷物を置き、11:00から始まるニューヨーク公共図書館の館内ツアーに出かける。エントランスホールのキャンドルスタンドの下で待っているよう、案内されたときは、参加者は私たちだけ?と思ったが、次第に人が集まってきて、10人ほどの団体になった。案内役は紳士然とした初老のおじさん。参加者は老人から高校生くらいの若者グループまで、さまざまである。
同館の活動ぶりについては、今のところ、菅谷明子さんの『未来をつくる図書館』にまさるレポートはないと思う。館内の写真は、ボストンと同様、安立清史研究室のサイトから借用しよう。
■図書館の夜:幻想図書館(2)
http://www.lit.kyushu-u.ac.jp/~adachi/Library/NYPL/NYPL.html
正確には「ニューヨーク公共図書館」は、5つの中央館と80余の分館からなる。うち4ヶ所が貸出を行わない研究図書館であり、他は貸出を行う図書館である。私たちが訪ねたのは、5th Avenue and 42nd Streetの交差点に建つ、石のライオン像で有名な、人文社会科学系の研究図書館(Humanities and Social Sciences Library)だ。映画「ゴースト・バスターズ」や「デイ・アフター・トゥモロー」にも登場しており、ニューヨークのランドマークの1つと言っていいだろう。
館内ツアーは、まず、図書館の維持管理に莫大なお金がかかること、にもかかわらず、多くの有益な情報資源が市民に無償で提供されていること、そのわけは、図書館の経営が篤志家の寄付によって成り立っていることの説明から始まった。ふーむ。日本では、見学者にこういう説明ってしないだろうなあ、と思って興味深かった。
いちばん感激したのは、やはり大閲覧室である。むかしは(戦争中?)窓が全て塞がれていて、天井も黒一色だったそうだ。カタログルームにあったカード目録は全て片付けられて(コピーして出版された冊子体目録が周囲の書架に並んでいる)検索端末に置き換わっている。今回見てまわった図書館は、どこも非常にリノベーション(改造)が上手いと思った。創建当初の基本コンセプトを活かし、むしろそれを強調しながら(重厚で上品な雰囲気の提供もサービスのうち)、きちんと現代的な図書館に生まれ変わっている。
リノベーションの典型的な事例は、中庭の転用である。イエール大学では、スターリング記念図書館の中庭を転用して、音楽図書館が新設されていたが、ここ、ニューヨーク公共図書館でも、中庭(South Court)に、ビデオシアターやレクチャールームがつくられていた。一見、別棟の建物のようだが、回廊部分がガラス天井で覆われているので、雨風の心配はない。しかも、外光を取り入れることで、中庭の快適な開放性も残している。
3階の展示ホールでは「History of Men's Wear」の展示が行われていて、本以外に多数の絵画(肖像画)が飾られていた。中央のケースにはグーテンベルクの聖書があった(これは常設展示かと思ったら、そうでもないみたい。→NYPL展示案内のページ)。興味深かったのは、この場で案内役のおじさんが、「印刷術の発明まで、本は少数の人々しか持つことができなかった。しかし、グーテンベルクの画期的な発明によって、多くの人々が本(知識、情報)を持てるようになった。それは、ちょうど今、インターネットによって起きている革命のようなものである」という趣旨の解説をしていたこと(意訳と要約しすぎもしれないけど)。真剣に聞き入る若者たちの表情が印象的だった。そう、本来、貴重書(rare books)が貴重なのは、「古いから」「他に残っていないから」あるいは「高価だから」ではなくて、ちゃんと歴史的意義があるからなんだよな。そんなことを考えていた。
約1時間のツアー終了後、上司と私は、飽きずに館内をうろうろする。1階のギャラリーでは「Ehon(絵本)」と題した、日本の出版文化に関する大規模な展覧会が行われていた。主な展示作品は、近世から近現代の絵入り出版物である。歌麿、北斎はもとより、伊藤若冲の画巻『乗興舟』がある。神坂雪佳の『百々世草』がある。耳鳥斎(にちょうさい)の俳諧味あふれる戯画(かつて伊丹市美術館まで見にいった)も多数。アメリカ出張の思わぬ余得に、私は大はしゃぎしてしまった。
最後にギフトショップに寄ると、ここがまた、時間を忘れるくらい、楽しい。品揃えの充実ぶりは、サイトで確かめられたし。今、見ていたら、これが欲しくなってしまった...
それから外に出て、図書館の外観(もちろんライオン像も)を写真に撮る。そして、おそい昼食を食べに行くはずだったのだが、通りを渡って、南に少し歩いていくと、また、ニューヨーク公共図書館の旗を下げた建物に行き当たった。2階の窓から見える室内には、本のつまった書架の列が並んでいる。「あれ?ここも図書館じゃない?」と言い合って、つい、素通りできずに中に入ってしまう。ここは、Mid-Manhattan Library という、貸出図書館の1つ。就職情報・医療情報の提供など、より市民生活に密着したサービスを行っていることは、菅谷明子さんの本に詳しい。しかし、それだけでなく、けっこう専門的な学術雑誌や参考図書も揃えていることに、感心してしまった。
こうして、ようやく図書館を離れたのは、14:00近かったのではないかと思う。手近の中華レストランで簡単な昼食(大雑把な味)。あとは夜まで、最後のフリータイムを楽しむことにした。