見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

2023年11月関西旅行:明恵上人伝(和歌山県博)、宗達(久保惣美術館)他

2023-11-18 21:25:03 | 行ったもの(美術館・見仏)

和歌山県立博物館 生誕850年記念特別展『紀州・明恵上人伝』(2023年10月14日~11月26日)

 関西旅行3日目は、行けたら行きたいと思っていた展覧会を行きあたりばったりで回る。朝から南海電鉄で和歌山へ。きれいになった和歌山市駅に下りるのは2回目だが、お店が増えて賑わっていてよかった。

 いつものバス路線で和歌山県立博物館へ。見慣れた吉宗騎馬像に近寄ってみたら、享保年間に吉宗公が西洋より馬を輸入したという史実を踏まえて制作された旨の注記が付いていた。へえ!

 特別展の主人公は明恵さん。明恵は、承安3年(1173)、平重国と紀伊の湯浅党の祖・湯浅宗重四女の子として紀伊国有田(ありだ)で生まれた。9歳で両親を失うが、湯浅の一族は生涯にわたって明恵の活動を経済的に支援し、明恵も湯浅の一族のために何度も祈りを捧げた。トリビアな知識だが、『春日権現験記絵巻』で明恵の天竺渡航を止めるため、春日明神が憑依した「橘氏の女」というのは、明恵の叔父である湯浅宗光の妻なのだな。

 湯浅には、明恵が創建した施無畏寺が今も残るほか、明恵が修行した草庵7か所と生誕地を加えた8か所の遺跡は「明恵上人紀州八所遺跡」として、石造の卒塔婆などが残っているという。私はわりと明恵さんファンなのだが、京都・高山寺とのつながりばかり意識して、故郷の紀州のことはあまり考えたことがなかった。近いうちにゆかりの地めぐりをしてみたい(しかしどこも交通が不便そう)。

和歌山県立近代美術館 第2回和歌山県人会世界大会記念特別事業『トランスボーダー 和歌山とアメリカをめぐる移民と美術』(2023年09月30日~11月30日)

 隣の近代美術館にも寄る。本展は、同館がこれまで培ってきた戦前の渡米美術家研究をさらに広げ、和歌山県の移民の歴史と重ねて紹介する。私は、2017年に同館の『アメリカへ渡った二人 国吉康雄と石垣栄太郎』を見て、とても興味深かったことを覚えている。本展でこの二人、特に石垣栄太郎の作品に再会することができて嬉しかった。新たに名前を覚えた画家には、有田川町出身の上山鳥城男(うえやま ときお、1889-1954)がいる。明るい陽光に満ちた海と山、端正な人物画などを描いており、後年はその明るいタッチそのままで、日系人収容所の風景を描き残している。ヘンリー杉本(1900-1990)の描いた収容所風景は、童画のような懐かしさと哀しさを感じさせて、これも好き。アメリカには、全米日系人博物館という施設があることを初めて知った。いつか行ってみたいが、ロサンジェルスかあ。

和泉市久保惣美術館 特別展『宗達-物語の風景 源氏・伊勢・西行-』(2023年9月17日~11月12日)

 久保惣美術館は、むかし一度だけ行った記憶があるのだが、ブログを検索しても出てこないので20年以上前になるのだろう。今回のテーマは私の大好きな宗達で、見逃さないほうがいいという直感が働いたので最終日に駆けつけた。南海の泉大津駅から1時間に1本のバスで向かう。むかし来たときは、陶磁器や古代青銅器、帯鉤コレクションなどを見た覚えがあるのだが、今回は、本館・新館のほぼ全てが特別展の会場になっていた。本展は、俵屋宗達と宗達工房による源氏物語、伊勢物語など物語絵を中心に国内博物館施設、個人コレクターから作品を拝借し展観する。

 まず、源氏物語絵の展示から始まる(新館第1展示室)のだが、入口に、なんだか気になる資料の白黒コピーが積まれていた。次第に理解したところでは、かつて実業家の団琢磨氏が所蔵していた『源氏物語図屏風』六曲一双という作品があった(旧団家本屏風)。宗達とその工房による源氏物語全段を絵画化した屏風だったが、現在は断簡として美術館・博物館や諸家に収蔵されている。本展は、うち21面の出陳を得(展示替えあり)、ほか調査や既存の書物によって10面、計31面が確認できたという(図録、河田昌之氏論文から)。また、参考として、旧藤井家本(旧蔵者について正確な情報が得られていない)として知られる源氏物語図屏風の断簡も出陳されている。どれも明快な色彩世界に、団子に目鼻をつけたような男女がちょこんと置かれていて可愛い。

 第2展示室は伊勢物語絵で、宗達とその工房による作品は59図発見されており、益田家本・団家本・岸家本・MOA美術館本・新出本に分類されているとのこと。源氏絵よりも、構図、背景(草木や建物)、衣装の文様など、手が込んでいる感じがする。大和文華館所蔵の「芥川」は前期展示だったのでパネル写真のみ。出光美術館所蔵の「武蔵野」は見ることができた。「雷神」(個人蔵)や「渚の院の桜」(個人蔵)もよかった。これは展示図録を買わないわけにはいかないと思い、2泊3日で計4冊、担いで帰ることになってしまったが後悔はしていない。

 『西行物語絵巻』は、諸本・諸系統があるが、本展に出ていたものは、どれも絵画的に美しかった。ほか、岩佐又兵衛の作品や、相国寺の『蔦の細道図屏風』、醍醐寺の『扇面貼付屏風』も堪能。贅沢な展覧会だった。久保惣美術館、またすぐ行きたい!と思ってホームページを見たら、何とこの特別展が終わった翌日から2024年4月まで施設等改修工事のため長期休館するというお知らせが掲載されていた。あらら、気長に待ちましょう。帰りは和泉府中からJRで新大阪に出て、新幹線で帰京した。

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