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見もの・読みもの日記

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違いと共通点/誤解しないための日韓関係講義(木村幹)

2022-03-05 22:30:27 | 読んだもの(書籍)

〇木村幹『誤解しないための日韓関係講義』(PHP新書) PHP研究所 2022.3

 木村幹先生の本『韓国愛憎』が分かりやすくて面白かったので、もう1冊。こちらは学生さんの「オンライン研究室訪問」のかたちをとって、日韓関係と韓国の政治・経済・社会事情について、多くの日本人が感じている疑問に丁寧に答えたものである。

 はじめに、韓国の政治経済の危機を煽り続ける日本メディアの認識を否定し、各種統計から、リアルな韓国の姿を確認する。日本国内における韓国経済「危機」説は、1990年代のアジア通貨危機の状況を念頭に置いている。しかし韓国経済は、すでに20年以上、一貫して経常収支黒字の状態にある。日本社会があまりにも変わらないので、他国の状況を同じように考えてしまいがち、という指摘に苦笑した。

 政治面では、退任後の大統領が次々逮捕されるなど不安定に見えるが、1987年の民主化以後、制度的な変化はなく、「安定」しているとも言える。大統領が好ましくない末路に直面したのは(朴槿恵を除き)退任後のことであり、大統領の「弾劾」は、議員内閣制の首相の「不信任」よりずっとハードルが高い。続けて、いまの韓国社会は、保守派が3割、進歩派が3割、どちらでもない人が3割で安定しており、保守派と進歩派ではあまりにも政策や理念が異なるので、一足飛びに支持政党を変えるのは難しい、という分析を興味深く読んだ。日本の政治状況とはずいぶん違うと感じた。

 日本人が、現実に反したステレオタイプな認識で韓国を見てしまうのは、親が子供をいつまでも子供扱いするようなものだという。かつて日本と韓国には、大人と子供ほどの力の差があった。しかしそれは遠い昔のことで、いまの韓国は、すでに一人当たりGOPや実質平均賃金で日本を超えている。GDPの増加は結果的に軍事費の増大につながり、国際社会における韓国の存在感も大きくなっている。

 次に過去の植民地支配をめぐる問題について。まず、日本の朝鮮半島や台湾における支配は植民地支配ではない(そんな主張があるのか)という妄言は、はっきり否定される。では、なぜ日韓には今なお議論が存在するのか。著者はこれを、上司と部下の酒席での喧嘩に置き換えて考えさせる。力の差があるものの間のトラブルは、その場で何らかの手を打たなければうやむやになる。これは後によい結果をもたらさない、というのは常識的によく分かる。重要なのは、本人や目撃者の記憶が明らかなうちに、できるだけ早く解決の手続きに入ることだという。

 まあそうなんだけど、今それを言われても、と思って読み進んだら、朝鮮半島における日本の植民地支配の終焉は、日本の敗戦と、連合国の要求による朝鮮半島放棄の結果として達成されたため、「日本人と朝鮮半島の人々が直接向かい合い、お互いの利益関係をその場で整理し、清算する機会は失われることになった」と書かれていた。もう関係改善の途はないということか。

 しかし(韓国国民の心情はともかく)韓国の歴代政府は、慰安婦問題を含む過去の請求権問題は全て解決済みという立場を1992年まではとっていた。それは、アジア唯一の経済大国である日本に韓国が一方的に依存する関係だったことが大きい。90年代以降、日本の重要性は急速に失われ、人々は日韓関係の維持に努力を払わなくなった。過去と現在の大きな違いは「火種」の有無ではなく、消火活動のインセンティブの有無である、という説明は腑に落ちた。私は、日本が世界のフロントランナーでなければならないとは思わないので、日本の凋落による状況の変化は、まあ仕方ないかな、という気持ちである。あとは身の程をわきまえて、遠い国とも近い国とも仲良くしていける母国であってほしい。

 もちろん韓国社会に問題がないわけではない。大統領の支持率に最も大きな影響を与えているのが「不動産問題」(ソウル首都圏の不動産価格の高騰)であることは初めて知ったが、若年層の雇用不安、経済格差、少子高齢化などは、日本とも共通する問題である。韓国では、1990年代のアジア通貨危機を乗り切るため、経済効率を最優先し、グローバル化に適応する大改革が実行された。その重点項目のひとつが雇用の流動性強化だった。結果として、マクロに見た韓国の経済は成長を続けているが、国内では不安定な非正規労働者が(特に若年層に)増大し、問題となっている。ううむ、日本の場合、経済のグローバル化対応が不十分だったことが、長期の経済停滞を生んでいるわけだが、これでも韓国よりは雇用が守られたということだろうか。なんだか、どっちの社会も悩ましい。

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