見もの・読みもの日記

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2021年11月関西旅行:曾我蕭白(愛知県美術館)

2021-11-06 17:13:56 | 行ったもの(美術館・見仏)

愛知県美術館 企画展『曾我蕭白 奇想ここに極まれり』(2021年10月8日~11月21日)

 週末関西旅行、正倉院展のほかにも欲張ってたくさん回ってきたので、感想はまとめて書こうかと思ったが、この展覧会は単独で取り上げておきたい。

 特に事前情報もなく、会場に入って驚いた。右を見れば、いきなり強烈な色彩の『群仙図屏風』、その隣りに『柳下鬼女図屏風』、さらに九博の『群童遊戯図屏風』。左を見れば『雪山童子図』。隣りの『唐人物図屏風』(三重・朝田寺)と『富士三保松原図』(個人蔵、湧き上がる黒雲の中で龍が躍っている)は知らない作品だったが大作である。ふつうに考えれば展覧会の後半に置くべきメインディッシュを、初手からドカドカ並べられて、呆気にとられた。しかしこれは、企画者の狙いだったようだ。あらためて図録の「ごあいさつ」を読んだら、「この展覧会では、冒頭で一般的に認知されている蕭白らしい作品をご紹介した後、改めて初期から晩年までの作品を、生涯を追いつつ展示します」とのこと。

 確かにそのあとは、蕭白らしからぬ、淡泊な墨画の小品『笠森おせん図』(大きな鳥居と茶屋で休む人々)や『鶏図』『布袋図』などが並んでいて、逆に珍しかった。高田敬輔『山水図屏風』(滋賀県立美術館)は、てっきり蕭白だと思って近づいたら、作者が違うのでびっくりした。高田敬輔(1674-1755)は蕭白の師と考えられているが、明確な結論は出ていないそうだ。しかしこの山水図は蕭白作品にとてもよく似ている。

 そして次第に蕭白らしい個性的な作品が目立つようになってくる。墨画と彩色が引き立て合って美しい『鷹図』(香雪美術館)。どことなく性格の悪そうな『林和靖図屏風』(三重県立美術館)。仙人の表情が行っちゃってる『塞翁飼馬・簫史吹簫図屏風』(同)。『竹鶴図』(メトロポリタン美術館)が典型だが、蕭白の描く鶴は怖い。恐竜みたいな顔をしている。『月夜山水図襖』(鳥取県立美術館)の醒めた美しさは格別。

 やがて「旧永島家襖絵」という注記のついた一群の作品に行き当たる(全て三重県立美術館所蔵)。ああ、思い出した。蕭白は少なくとも二度、伊勢の地を遊歴しており、三重県多気郡明和町の旧家永島家には、全44面の襖絵が伝えられているのだ。その一部は、2012年に千葉市美術館の『蕭白ショック!!』で見ているが、なんと本展には全44面が展示されている。うお~来てよかった! 雪の夜の『竹林七賢図』は記憶に残っている、好きな作品。『牧牛図』『狼貉図』『禽獣図』には、ヘンな生きものがたくさん描かれていて面白かった。笑うタヌキ(?)とか。

 さらに朝田寺の『唐獅子図』墨画双福は、デカくて迫力満点。朝田寺からは、板地着色の『獏図杉戸』と『鳳凰図杉戸』も来ていたが、獏の大きな金目が怖い。薄暗がりで見たら、絶対子供は泣くと思う。あと作品名だけ挙げておくと、シュッとした美男(蕭白にしては)の『周茂叔愛蓮図』(三重県立美術館)、三歌仙が仲よさげで微笑ましい『定家・寂蓮・西行図屏風』(個人蔵)も気に入った。

 そしてフィナーレは、私の大好きな楼閣山水図の小特集。近江神宮所蔵『楼閣山水図屏風』(月夜山水図屏風)は、定型に従えば、右隻は西湖、左隻は金山寺なのだろうけれど、現実にはありえない光景(城壁のような岩山など)が細部まできっちり描かれており、幻想的というより、SF風味がある。楼閣の赤と梅花(?)の白も効いている。以下、いずれも縦長の画面に奥行のある楼閣山水を収めているのが『山水図』(京都・久昌院)『富嶽清見寺図』(フィッシュベイン&ベンダーコレクション)『真山水図』(熊本・見性寺)『蘭亭曲水図』(福岡・梅林寺)など。一部は蕭白の工房作の可能性もあるというが、それだけ需要があったのだろう。私も欲しい。千葉市美術館の『林和靖図』は横長のおおらかな楼閣山水図で、小さく人物(林和靖)と鶴の姿が見える。これも好き。メトロポリタン美術館のマンガみたいな『石橋図』が、このセクションに混じっていたのは楽しかった。

 出口の直前には、蕭白の書簡二通が展示されており、どちらも簡単な絵が添えられていた。2014年の進出資料で、一通は酒を送ってほしいとねだる趣旨、もう一通は樽酒を貰って大喜びのお礼である。宛名の小西新介は「白雪」で知られる伊丹の酒造(現・小西酒造)の当主とのこと。「円山応挙が、なんぼのもんぢゃ!」以来、こわもての印象だった蕭白の微笑ましい一面を知った。

 2泊3日関西旅行の最初の立ち寄り先だったので、図録は買いたくなかったのだが、この充実した内容では買わざるを得なかった。軽い紙質だったのが幸い。山下裕二先生の論考をはじめ、蕭白評価の変遷についての解説が興味深い。明治期には一定の評価があったが、大正から昭和にかけて急速に忘れ去られていったらしい(あとできちんと読む)。しりあがり寿氏が蕭白の逸話を四コマ漫画に仕立てた「蕭白余話」も楽しくて、お買い得の図録である。

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