見もの・読みもの日記

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2024年5月関西旅行:雪舟伝説(京都国立博物館)

2024-05-22 23:40:58 | 行ったもの(美術館・見仏)

京都国立博物館 特別展『雪舟伝説-「画聖(カリスマ)」の誕生-』(2024年4月13日~5月26日)

 「※『雪舟展』ではありません!」というチラシの注意書きが話題を呼んでいるという記事を見た。そんな注意書きあったっけ?と思ったら、確かに裏面に書いてある。しかしオモテ面には平然と「みんなの憧れ、みんなのお手本」「大好き!雪舟先生!」とあるのだから、相変わらず京博の宣伝は巧い。

 本展は、主に近世における雪舟受容の様相を辿ることで「画聖」と仰がれる雪舟への評価がいかにして形成されてきたのかを検証する。雪舟の国宝6件(通期展示)を含め、雪舟筆/伝・雪舟筆作品が20件(展示替え有)、しかし本展の4分の3以上は、雪舟に影響を受けた後世の画家たちの作品で構成されているのだ。

 土曜の8:30頃に行ったら、入場待ち列がどんどん伸びている状態で、私は駐車場の入口付近に並んだ。9:00に開門したが、東博の友の会カードを提示して団体割引チケットを購入するには1つしかない窓口に並ばなければならず、けっこう手間取った(これ改善してくれないかなあ)。

 3階は混雑していそうだったので、順路を無視して1階から見ることにする。いつも仏像が展示されている大展示室は、今期は完全に特別展仕様になっていて、国宝『四季山水図巻』の各種模本が並んでいた。お~そうだよねえ、雪舟といえば『四季山水図巻』だねえ、と思いながら(展示構成が分かっていなかったので)この展示室に本物はないのかあ、と残念に思う。この展示室なら、あの長尺図巻も一気に公開できると思ったのだ。探幽や常信による雪舟の模写と学習の記録もあり。1階は大展示室だけ見て2階に上がった。

 2階は、第1室に雪舟筆/伝・雪舟筆作品を展示したあと、中世~近世初期に、雲谷派・長谷川派・狩野派によって「学ばれた雪舟」を検証する。雪舟作品は、だいたい見たことがあると思ったが、『富士美保清見寺図』(永青文庫)は覚えがなかった。現在は雪舟筆ではなく、その古模本と見做されている。しかし、この構図、雲の上に純白の山頂を見せる富士の姿は、多数の「後継作品」を生み出していく。『西湖図』(静嘉堂文庫)も記憶になく、やはり古模本と考えられているもの。解説によれば、入明した雪舟が西湖を訪れたという確証はないが、実体験に裏打ちされたものと理解され、尊重されたという。こういう「伝説」を笑ってはいけない。『琴棋書画図屏風』(永青文庫)は、農村に暮らす人々の趣味生活を生き生きと描いており、え?これが雪舟?(違うだろ)と思うのだが、後世には大きな影響を与えた。東博の『梅潜寿老図』(寿老人図)は妖しくて大好きな作品。なんだか京都まで来て、東京の博物館・美術館所蔵の作品に次々に感心している。

 続いて、さまざまな「後継作品」が展示されているが、雪舟を学んだとすぐ分かるものもあれば、分からないものもある。狩野探幽の『富士山図』や狩野山雪の『富士三保清見寺図屏風』は、先行する雪舟作品の存在を知ることで、なるほどと納得がいくが、久隅守景の『四季山水図屏風』は、すっかり守景の山水に換骨奪胎されているように思う。

 このあと、3階の様子を見に行く。特に混んでいたのは最初の第1室だが、実は『秋冬山水図』2幅、『四季山水図』4幅など、東京人なら東博で見る機会のある作品が多かった。一番混んでいたのは、毛利博物館の『四季山水図』の前で、3期に分けた巻替えは、巻末の展示だった。第2室は『天橋立図』『四季花鳥図屏風』『慧可断臂図』の展示で、やや空いているのがありがたく、私はこっちの部屋に長居をした。

 それから再び2階を回遊し、1階に下りて、未見の展示室に進む。江戸時代、雪舟を源流とする富士山図は多数の画家が描いている。鶴亭、蕭白、原在中、狩野永岳。司馬江漢にもあったな、と思ったら『駿河湾富士遠望図』がちゃんと来ていた。そして蕭白の『月夜山水図屏風』(近江神宮)。そうかー雪舟の「後継」と言われればまあそうだなあ…と、肯定と否定の入り混じった気持ちで眺めた。若冲の鶴を描いた作品のいくつかが、雪舟『四季花鳥図屏風』の鶴と類似するという指摘もおもしろかった。解説によれば、若冲が雲谷派の作品を通して雪舟を受容したことは考えられるという。

 さらに光琳や北斎が雪舟の山水図を写していたり、近代に至っても狩野芳崖が妖しげな『寿老人図』を描いていたりする。雪舟に学ぼうとする画家の系譜は、かくも広く長い。あるいは、我々鑑賞者の眼が「雪舟図様を刷り込まれた」結果として、何を見ても雪舟の影響下に見えるのかもしれない、という最後の問題提起には、苦笑しながら考えさせられた。


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