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見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

2021年10月@九州:太宰府天満宮+海幸山幸(九州国立博物館)

2021-10-13 21:25:22 | 行ったもの(美術館・見仏)

 この夏、九州国立博物館で、仏師・范道生の特集をやっていると知って、見に行きたいと強く思った。しかし緊急事態宣言下で、なかなか遠出に踏み切れない…。と思っていたら、昨年、コロナ禍で延期になった特別展『海幸山幸』が始まるという。そして、なんと10/9-10の週末に行けば、この2つの展示がどちらも見られる!と分かって、とり急ぎ、航空券とホテルを予約してしまった。あとは緊急事態宣言の解除をひたすら天に祈っていた。

太宰府天満宮(福岡県太宰府市)

 九博に来たときは必ず参拝する大宰府天満宮。楼門が、見たこともないド派手な飾りつけをされていて慌てた。太宰府天満宮では、菅原道真が文章博士に任じられた10月18日を特別受験合格祈願大祭と定め、10月1日~31日の間、登龍門の故事になぞらえた「飛龍天神ねぶた」を掲げているのだそうだ。

九州国立博物館 特別展『海幸山幸-祈りと恵みの風景-』(2021年10月9日~12月5日)

 本展は、海と山をめぐるさまざまな事象から、日本人が自然との共生のなかで育んできた思想や美術を新たな視点で紹介し、日本人の原点を見つめなおそうとするもの。展覧会のタイトルは『古事記』『日本書紀』に登場する兄弟神の物語から。この神話、私は幼い頃に児童書で繰り返し読んだ記憶がある。

 会場の冒頭では、この神話を短編ドラマ仕立てのビデオで紹介。次に弥生時代(2~3世紀)の大きな鉄製の釣針がある。福岡県徳永川ノ上遺跡で出土したもので、軸部先端に釣糸をかけるための加工がないことから、儀礼用に製作されたと推定されている。続いて、福井県・明通寺所蔵の『彦火々出見尊絵巻』。平安時代の原本は失われたが、模本が5種類現存しているのだそうだ。明快な色彩に加え、登場人物の顔つきや動きが表情豊かで、とても好き。東博から探幽の『鸕鷀草葺不合尊(うがやふきあえずのみこと)降誕図』も来ていた。

 以上をプロローグとして「海幸」と「山幸」のパートがそれぞれ展開する。考古資料と芸術作品が同居しているのが九博らしくていいなあと思った。それから、文物・芸術作品のどこに「海」「山」を見出すか、意外な作品を発掘してくる選択眼も興味深かった。

 「海幸」の部は、巻貝形の片口土器、貝製品、鹿角製の釣針などで始まる。弥生時代のマダコ壺、イイダコ壺には驚いた。大阪湾東南部沿岸や播磨灘沿岸で、多数のタコ壺が出土しているそうだ。江戸時代の博物図譜『衆鱗図』(香川・高松松平家歴史資料)や、地引網の鯛漁を描いた『肥前国産物図考』(佐賀県博)は、とても珍しいものを見せてもらった。大阪・今宮戎神社の男神像(鎌倉時代)は片足踏み下げの姿勢で、烏帽子をかぶり、両袖を襷でくくった、写実的な男性像である。顔は若々しく、にこやかな笑みを浮かべる。もと吉野の世尊寺(山の中じゃないか!)に伝来したというのが気になる。

 海の信仰について。伝・黒田剛政筆『沖ノ島図』は沖ノ島の地形的特徴をシンボリックに描いたもの。尖った3つの頂が富士山みたいだと思った。広島県・厳島神社に奉納された平家納経の「妙音菩薩品第二十四」の見返しには、雲に乗った小さな如来がたくさん描かれている。マンガみたいで無茶苦茶かわいい。芦雪の『宮島八景図』(文化庁所蔵)は、あまり見たことのない作品で面白かった。厳島神社の全景図、どうしてこんなドローン撮影図みたいに高い位置に視点を持ってくるかなあ。芦雪の『蓬莱山図』は好きな作品で、これも嬉しかった。なかなか見ることの難しい『五天竺図』甲本(法隆寺)もあり。からくり儀右衛門こと田中久重製作の『須弥山儀』にも再会した(前回は龍谷ミュージアムで見たもの)。

 「山幸」の部は、縄文時代のクマ形土製品とイノシシ形土製品から。どちらも青森県出土である。クマは胸元のV字状の模様からツキノワグマと分かると解説にあったので、覗き込んで確かめた。弓や石鏃(せきぞく、やじり)のほか、編み籠(佐賀県)も出土しているのだな。山の恵みは動植物だけではない。鉱物に着目し、大判(金)、古丁銀、丸銅・棹銅が並んでいたのも面白かった。銅の美しいローズレッド(表面の酸化銅の色)に驚く。

 描かれた山では、久保惣記念美術館の『伊勢物語絵巻』(鎌倉時代)の富士山や、谷文晁の怪奇な『彦山真景図』に惹かれた。実は、大阪・金剛寺の『日月山水図屏風』(11/16-12/5)が来ることになっており、図録を見ると『立山曼荼羅』『吉野曼荼羅』など、後期(11/9-)にも気になる作品が数多くあるのだが、贅沢は言えないと思って諦める。

 これでだいたい午前中が終わり、午後から常設展(文化交流展示)を見ることにする。館内のカフェか外のレストランで食事の予定だったが、どちらもなくなっていた。案内の方に聞くと「参道に下りていただかないと…」と申し訳なさそうな口ぶり。あらら残念。

 この日は時間があったので、参道(菖蒲池沿い)の「うぐいす茶屋」で、とりてん+ゆずおろしのうどんでお昼にした。気温が30度を超す真夏日だったので、冷たいうどんが美味しかった。

 食後は戻って常設展へ!(続く)

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