見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

さよなら世田谷2/旅立ちの美術(静嘉堂文庫)

2021-06-10 21:16:29 | 行ったもの(美術館・見仏)

静嘉堂文庫美術館 『旅立ちの美術』(2021年4月10日~6月6日※6月13日まで会期延長)

 来たる2022年、美術館展示ギャラリーを丸の内の明治生命館1階に移転することになった同館が、世田谷区岡本で開催する最後の展覧会。所蔵の国宝7件が全て展示される(前期)など、内容も濃い。いろいろあって、展示室に到達するまでの顛末は前記事のとおり。ここからは展示内容について書く。

 展示室の前室には、日中の水墨画、倪元璐筆『秋景山水図』、陳賢筆『老子過関図』、九淵龍賝題『万里橋図』が並ぶ。納得の名品セレクションだと思ったが、実はこの展覧会、「出発」「別れ」「旅(漂泊)」に関係する作品を(ややこじつけも含め)慎重に選んでいるのだ。『老子過関図』は、周の国の衰えを感じ、牛の背に乗って西方に去ろうとする老子の図だから分かりやすい。『万里橋図』は、諸葛孔明が呉の国へ旅立つ使者を送る場面(知らなかった)。『秋景山水図』には「南方へ旅立つ友へ」という説明がついていた。

 展示室に入ると、色鮮やかな御所人形の一組が目を引く。丸平大木人形店の五世・大木平蔵による『宝船曳』『輿行列』だ。唐風の衣装の女性を載せた輿を囲む唐子たちは、小さなウサギのお面をちょこんと額に載せている。宝船の船首もウサギで、船の上の布袋さんも、金のウサギのお面を額に載せている。同様にウサギのお面をつけた恵比寿・大黒・毘沙門天が、ニコニコと宝船を寿ぐ。この楽しい御所人形は、卯年の岩崎小弥太の還暦祝に孝子夫人がつくらせたものだそうだ。この展覧会、同館にしては珍しく子供連れが多く、子供たちもこの作品を気に入っていた。個人的には、その隣の北魏時代の加彩駱駝(座りかけか、立ちかけか)もよかった。

 絵画では、天隠龍沢題『山水図』のくっきりした山影を美しいと思い、陶工としか認識していなかった青木木米の『重嶂飛泉図』『蓬萊山図』に新鮮な印象を受けた。鈴木鵞湖の『武陵桃源図』も好き。日本絵画、いろいろ珍しい作品を見せてもらえて大変よかった。

 あやしいもの好きとしては、室町時代の『十二霊獣図巻』にも惹かれた。白沢、三角獣(角が三本ある)、兕(じ)(緑色の一角獣)の三図が開いていた。磁州窯の『白地鉄絵紅緑彩人物図壺』には木の枝(幹)に座る男が描かれており、槎(いかだ)で黄河を遡って天の河に達した張騫だという。北斗七星が描き添えてある。この伝説、中野美代子先生の本で読んだのだったかしら。

 大作『聖徳太子絵伝』4幅(鎌倉時代)は、愛知県岡崎市の満性寺旧蔵で、修理後初公開。2021年が太子の1400年遠忌にあたることから「絵伝」を見る機会が多いが、これは色が鮮やかで、人物のポーズが分かりやすく、素朴絵のような微笑ましさがある。私は活発に遊ぶ子供たちと、たぶん太子の勝鬘経講義の場面で、降り積もった大きな蓮華の花びらにびっくりしている官人の姿が好き。

 このほか、もちろん曜変天目や、河鍋暁斎の『地獄極楽めぐり図』、『西行物語』の最古級書写本なども見せてもらった。外へ出たのは17時過ぎだったが、外にはまだ長い列ができていた。閉館時間を延長して対応することにしたらしい。ご苦労様です。

 以下、思い出の写真集。静嘉堂文庫(図書館)はこの地に残るらしい。私は、初めて静嘉堂に来たのは学生時代で、美術館ではなく文庫を利用するためだった。それきり、もう何十年もこの建物には入っていない。

 静嘉堂文庫は丘の上にあるので、門をくぐったあと、木立に囲まれた坂道を上がっていく。この木立を見上げるのが好きだった。いつも年末の展覧会では、イチョウが金色に色づいていた。

 バス停から近づいていくとき、視野に入る正門。間違えて、手前の集合住宅の敷地に入り込んでしまったことが何度かある。

 この風景、もう見ることはないのかと思うと寂しい。お世話になりました。

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さよなら世田谷1/旅立ちの美術(静嘉堂文庫)周辺散歩

2021-06-10 21:09:29 | 行ったもの(美術館・見仏)

 世田谷区岡本にある静嘉堂文庫美術館が、丸の内の明治生命館1階に移転することになった。そんな噂は全く聞いていなかったので、いきなり「世田谷岡本での最後の展覧会」という告知が出て、びっくりした。2014~15年に展示室をリニューアルしたばかりではないか!

 ともかく最後の展覧会には行っておこうと思っていたら、緊急事態宣言で休館になってしまった。ハラハラしたが、6月1日から再開し、会期も6月6日までの予定が6月13日まで延長になった。私は、再開情報はチェックしていたが、会期延長には気づかず、最後の週末だと思った土曜日、東京ステーションギャラリーの次はここへ向かった。

 いつものように二子玉川駅からバスに乗り、美術館に到着したのは14時頃だったと思う。建物の周囲は、いつになく人の姿が多く、入口の前でお姉さんが券を配っている。時間指定の入場整理券で、私がもらったのは16:30の券だった。閉館は17時だが状況によっては考慮します、とおっしゃるお姉さん。「今日はやめた。明日の朝早く来よう」と言って帰っていくのはご近所の方だろうか。「ここは遠いんだから、ちゃんと情報発信してよ!」と怒っているお客さんもいた。

 私は観念して2時間半待つことに決めた。静嘉堂文庫には何十年も通っているが、バス停と美術館を往復しかしたことがないので、ちょっと周辺を歩いてみることにした。民家園なら裏門が近いですよ、と職員の方に教えてもらい、初めて裏門の存在を知る。石段を下ると民家園に出る。

民家園(岡本公園民家園)

 旧長崎家主屋と土蔵1棟、椀木門を復原し、江戸後期の典型的な農家の家屋を再現した施設。主屋には管理の方が常駐し、囲炉裏で火を焚いている。前庭には小さな畑もある。のんびり過ごすにはいいところだが、実は、もっと多数の民家を集めた公園だと思っていたので、ちょっと拍子抜けした。

瀬田四丁目旧小坂緑地旧小坂家住宅

 表通りを戻る途中、バス停の向かいに「小坂緑地」という門があることに初めて気づいたので入ってみた。竹林の中、順路に添って坂を上がっていくと「旧小坂家住宅」という建物が現われた。実業家で衆議院議員、戦前の枢密顧問官でもあった小坂順造氏(1881-1960)の別邸である。この一帯は、明治から昭和にかけて財界人の週末別荘が立ち並んでいたが、この建物(1938年竣工)が、現存する近代別荘建築の唯一のものだという。

 中に入れたので、縁側でひとやすみさせてもらった。茶室があるかと思えば、山小屋風の意匠の洋室があったりして面白かった。薪をくべる暖炉は飾りで、実はセントラルヒーティングがあると、管理している方が教えてくれた。

 これでだいたい1時間半ほど時間をつぶし、静嘉堂文庫の前庭に戻って、残りの時間はベンチで本を読みながら待つ。16:00の入館が済んだあと、10分ほどすると「16:30の方、お並びください」と呼ばれた。入館の際に、さらに番号札を貰う。チケットを購入すると、地下の講堂に案内され、静嘉堂文庫の紹介ビデオなどを見ながら待つ。やがて番号順に(10人くらいずつ)呼ばれて展示室に入ることができる。幸い、覚悟していたよりはだいぶ早く、展示室に入ることができた。長くなったので、※展示内容については別記事に続く。

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