〇サントリー美術館 リニューアル・オープン記念展III『美を結ぶ。美をひらく。:美の交流が生んだ6つの物語』(2020年12月16日~2021年2月28日)
開催趣旨によれば、同館は、2007年3月、六本木の東京ミッドタウンに移転開館して以来「美を結ぶ。美をひらく。」をミュージアムメッセージに掲げ活動してきたという。「ひらく」「結ぶ」と言われれもよく分からないが、古いものと新しいもの、東洋と西洋という具合に「異なるものが結び、ひらくことは美術の本質であり、絶えることのない交流の中で今なお魅力的な作品が生み出されて」いるという説明は腑に落ちる。本展は17~19世紀の300年間に、国・時代・素材を越えて結び、ひらいた6つの美の物語を紹介する。
その1:古伊万里。これはいちばん分かりやすい。長崎からポルトガルやオランダの船が運んだ日本の古伊万里が、ヨーロッパ諸国の王や貴族を魅了したというのが物語の主軸だが、実はもっと複雑で、中国伝統の文様や器のかたち(花型皿)を日本のやきものが学んだ点もあるし、日本の磁器を模倣して西洋で焼かれたもの、逆に西洋の影響を受けた日本のやきものなど、無名の職人たちがしのぎを削った跡をたどるのは本当に面白い。
その2:鍋島。これはちょっと意外。鍋島のストイックな美しさは「交流」の余地を感じさせない。「白抜き文様」の美しさに注目したところが興味深かった。
その3:琉球の紅型(びんがた)。型紙と、A4サイズくらいの一律の大きさに切り取られた紅型裂のコレクションの展示だった。誰がどうやって蒐集したのだろう? 私が紅型の美しさを知ったのは、日本民藝館のコレクションで、あちらは仕立てられた着物か反物で所蔵しているものが多い(と思う)。蒐集形態の差なのか、着物のかたちで見ると紅型の大胆な美しさにわくわくするが、今回は、そのデザインの繊細さに魅了されてしまった。色使いも豊か。『染分地桜波連山模様裂地』(19世紀)好きだなあ。
その4:和ガラス。同館の和ガラスコレクション、まとまって展示される機会が少ないので嬉しかった。薩摩切子は島津斉彬が海外交易品として育て上げたが、斉彬の死と、薩英戦争で工場が砲撃を受けたことで急激に衰退してしまったという。私は、ゆるい日用品の和ガラスも好きなのだが、輸出品となると技術の精度を極限まで追求してしまうのは日本人のサガなのか。
その5:江戸・明治の浮世絵。特に幕末維新期の、洋風の街並み・洋装の男女を描いた横浜浮世絵・開化絵が多数出ていた。小林清親の「光線画」(光と影を効果的に用いた様式)も展示。
その6:エミール・ガレ。なぜここでガレ?と不思議だったが、パリ万博を通じて、エジプト・イスラム・中国・日本など多くの異国の美術のエッセンスを貪欲に取り入れた作家であるという説明を読んで納得した。
世界的に見ても、17~19世紀は異なる文化の交流が新しい美を生み出すインパクトを持っていたと思う。しかし20世紀以降、大きな差異が失われることにより、逆に交流が成立しなくなっている気がする。