■桂光山敬信院 西福寺(京都市東山区)
この週末は、ちょうど「京都非公開文化財特別公開事業」の期間だったので、1箇所くらい寄ってみようと思っていた。あまり目新しい公開寺院がない中で「初公開」(この事業では)の西福寺という名前に目が留まった。拝観したことはないはずだが、なんとなく名前に覚えがある。地図をたよりに訪ねてみて、ここか~と思い当たった。
東大路通から松原通を西に進んで六波羅蜜寺を目指すと、たどりつくお寺なのだ。写真の左端の白い壁の先が六波羅蜜寺である。六波羅蜜寺には何度も参拝しているので、当然、この風景は何度も見ている。しかし西福寺に参拝したことは一度もなかった。卍印のちょうちんが下がった門を入ると、子育て地蔵尊のお堂があり、その右奥に本堂がある。拝観料を払って玄関に上がると、三間続きで、手前の座敷には江戸後期の『洛中洛外図屏風』(六曲一双、東山を描く一隻のみ展示)。かなり高い視点からの「鳥瞰図」なのが新しい。たぶん京都文化博物館の『京(みやこ)を描く』展で見たなあと思い出す。
次の座敷は仏間。ご本尊は落ち着いた感じの阿弥陀如来坐像だったが、遠くてよく見えなかった。奥の座敷には、海北友松の『布袋図』などを展示。檀林皇后ゆかりの『九相図』は江戸ものらしい。江戸時代に刊行された世界地図『南瞻部洲万国掌菓之図』も面白かった。
■泉屋博古館 特別展『フルーツ&ベジタブルズ-東アジア 蔬果図の系譜』(2018年11月3日~12月9日)
「描かれた野菜・果物」をテーマに、日本をはじめとする東アジア絵画の一面に光をあてる。前回展に来たとき、この展覧会のチラシを見て「これはよい企画!」と思ったのだが、期待をはるかに上回って面白かった。冒頭から見たことのある絵が出ていると思ったら、東博の『草虫図』(元時代)だった。この間、特集陳列『中国書画精華』に出ていたもの。さらに根津美術館の『林檎鼠図』(室町時代)、高麗美術館や栃木県立博物館からも、日本・朝鮮・中国の草虫画や蔬果図の名品が集まっていて、テンションが高まる。
若冲の『菜蟲譜』が佐野美術館から来ていることはポスターを見て気づいていたのだが、さりげなく八大山人の『安晩帖』が出ているのを見つけたときは、意表を突かれて驚いた。「冬瓜鼠図」は、昨年、泉屋博古館分館(東京)の『典雅と奇想』でも見たもの。本展のキャプションは「瓜鼠図」になっている。朝鮮の墨画『瓜に鼠』(高麗美術館)は白ネズミと黒ネズミが並んでいて可愛かった。雪村の『蕪図』「元信」印『蕪菁図』には、これらのもととなった伝・牧谿の『蘿蔔蕪菁図』という作品が三の丸尚蔵館にあることを知った。見てみたいが、いま検索すると、同作品の保存修理の競争公告がヒットするので、1年くらい公開はなさそうだ。
若冲の『菜蟲譜』は冒頭から茄子が描かれたあたりまで。会期後半に巻替えの予定がある。薄墨色の背景に浮かび上がる野菜と果物の、宝石のように艶やかで美味しそうなこと。そして魂と感情が宿った生きもののように、もの言いたげに見える。江戸絵画は、鶴亭、呉春、応挙など個性の競演。『桃果綬帯鳥図』の作者・戸田忠翰は知らなかったけど、印象に残った。富岡鉄斎の『野菜涅槃図』は、あると聞いていたけど初めて見た。若冲と違って墨画淡彩なので、野菜らしさが勝って涅槃図に見えにくい。若冲の『果蔬涅槃図』も会期後半には展示される予定。うーむ、もう1回見に来たい。若冲の『蔬菜図押絵貼屏風』も出ていて、どの絵も好きだが、特に大根を大胆な構図で超アップに描いた1枚が好き。
岸田劉生は、ほのぼのした南画ふうの『四時競甘図』や『塘芽帖』(コロンとした茄子)もよいのだが、油彩の『冬瓜葡萄図』がよかった。小さな葡萄の房は焦茶色の背景にほぼ沈み込んでいて、白っぽい緑色の大きな冬瓜が、まるで宇宙に浮かぶ地球のように存在感を際立たせている。たいへん楽しい企画で、コンパクトサイズの図録は可愛いし、荷物にならないのでありがたかった。ただ、変型判の図録は保存に苦労するのだ…。
この週末は、ちょうど「京都非公開文化財特別公開事業」の期間だったので、1箇所くらい寄ってみようと思っていた。あまり目新しい公開寺院がない中で「初公開」(この事業では)の西福寺という名前に目が留まった。拝観したことはないはずだが、なんとなく名前に覚えがある。地図をたよりに訪ねてみて、ここか~と思い当たった。
東大路通から松原通を西に進んで六波羅蜜寺を目指すと、たどりつくお寺なのだ。写真の左端の白い壁の先が六波羅蜜寺である。六波羅蜜寺には何度も参拝しているので、当然、この風景は何度も見ている。しかし西福寺に参拝したことは一度もなかった。卍印のちょうちんが下がった門を入ると、子育て地蔵尊のお堂があり、その右奥に本堂がある。拝観料を払って玄関に上がると、三間続きで、手前の座敷には江戸後期の『洛中洛外図屏風』(六曲一双、東山を描く一隻のみ展示)。かなり高い視点からの「鳥瞰図」なのが新しい。たぶん京都文化博物館の『京(みやこ)を描く』展で見たなあと思い出す。
次の座敷は仏間。ご本尊は落ち着いた感じの阿弥陀如来坐像だったが、遠くてよく見えなかった。奥の座敷には、海北友松の『布袋図』などを展示。檀林皇后ゆかりの『九相図』は江戸ものらしい。江戸時代に刊行された世界地図『南瞻部洲万国掌菓之図』も面白かった。
■泉屋博古館 特別展『フルーツ&ベジタブルズ-東アジア 蔬果図の系譜』(2018年11月3日~12月9日)
「描かれた野菜・果物」をテーマに、日本をはじめとする東アジア絵画の一面に光をあてる。前回展に来たとき、この展覧会のチラシを見て「これはよい企画!」と思ったのだが、期待をはるかに上回って面白かった。冒頭から見たことのある絵が出ていると思ったら、東博の『草虫図』(元時代)だった。この間、特集陳列『中国書画精華』に出ていたもの。さらに根津美術館の『林檎鼠図』(室町時代)、高麗美術館や栃木県立博物館からも、日本・朝鮮・中国の草虫画や蔬果図の名品が集まっていて、テンションが高まる。
若冲の『菜蟲譜』が佐野美術館から来ていることはポスターを見て気づいていたのだが、さりげなく八大山人の『安晩帖』が出ているのを見つけたときは、意表を突かれて驚いた。「冬瓜鼠図」は、昨年、泉屋博古館分館(東京)の『典雅と奇想』でも見たもの。本展のキャプションは「瓜鼠図」になっている。朝鮮の墨画『瓜に鼠』(高麗美術館)は白ネズミと黒ネズミが並んでいて可愛かった。雪村の『蕪図』「元信」印『蕪菁図』には、これらのもととなった伝・牧谿の『蘿蔔蕪菁図』という作品が三の丸尚蔵館にあることを知った。見てみたいが、いま検索すると、同作品の保存修理の競争公告がヒットするので、1年くらい公開はなさそうだ。
若冲の『菜蟲譜』は冒頭から茄子が描かれたあたりまで。会期後半に巻替えの予定がある。薄墨色の背景に浮かび上がる野菜と果物の、宝石のように艶やかで美味しそうなこと。そして魂と感情が宿った生きもののように、もの言いたげに見える。江戸絵画は、鶴亭、呉春、応挙など個性の競演。『桃果綬帯鳥図』の作者・戸田忠翰は知らなかったけど、印象に残った。富岡鉄斎の『野菜涅槃図』は、あると聞いていたけど初めて見た。若冲と違って墨画淡彩なので、野菜らしさが勝って涅槃図に見えにくい。若冲の『果蔬涅槃図』も会期後半には展示される予定。うーむ、もう1回見に来たい。若冲の『蔬菜図押絵貼屏風』も出ていて、どの絵も好きだが、特に大根を大胆な構図で超アップに描いた1枚が好き。
岸田劉生は、ほのぼのした南画ふうの『四時競甘図』や『塘芽帖』(コロンとした茄子)もよいのだが、油彩の『冬瓜葡萄図』がよかった。小さな葡萄の房は焦茶色の背景にほぼ沈み込んでいて、白っぽい緑色の大きな冬瓜が、まるで宇宙に浮かぶ地球のように存在感を際立たせている。たいへん楽しい企画で、コンパクトサイズの図録は可愛いし、荷物にならないのでありがたかった。ただ、変型判の図録は保存に苦労するのだ…。