見もの・読みもの日記

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活版印刷の美学と歴史/ヴァチカン教皇庁図書館展II(印刷博物館)

2015-07-14 23:03:57 | 行ったもの(美術館・見仏)
印刷博物館 企画展示『ヴァチカン教皇庁図書館展II 書物がひらくルネサンス』(2015年4月25日~7月12日)

 最後の週末に駆け込みで行ってきた。ヴァチカン教皇庁図書館所蔵の中世写本、初期刊本、地図、書簡類計21点を中心に、印刷博物館および国内諸機関所蔵の書物を加えた計69点を展示する。意外と日本国内にも(←大学図書館が多い)この時期の貴重書があるんだな、ということが分かったのも面白かった。

 「ヴァチカン教皇庁図書館展II」というのは、2002年に「I」にあたる「書物の誕生:写本から印刷へ」が同館で開催されているためだ。見てるかなあ。正直、あまり記憶にないが、印刷博物館のホームページには当時の情報が残っている。前回展は「写本から活字印刷の始まり」がテーマだったようで、ポスターは、ゴージャスでカラフルな彩色写本(たぶん祈祷書など)の写真で埋められている。それに比べると、今回は限りない富と手間ひまをつぎ込んだ美麗な写本は少なかった。印刷技術が生み出す美の規範は、より合理的で近代的である。

 展示の始まりは、いわゆる「48行聖書」(1462年、明星大学図書館所蔵)。グーテンベルクの印刷所を抵当として差し押さえた実業家フストがシェーファーとともに完成させたもの。赤黒の二色刷+赤色の手彩色装飾。18世紀にグーテンベルクの42行聖書(1456年)が発見されるまで、最古の印刷版聖書と思われていた。しかし、活版印刷技術って、「発明」されたとたんにこんな完成度だったというのが凄い。信じられない。

 それから最初の挿絵入り聖書(1490年、ヴァチカン)。活版印刷に挿絵を組み入れるのは難しかったという説明を読んで、なるほどと思う。それだから日本の近世の出版は、挿絵と共存しやすい木版にこだわって、活字が普及しなかったと聞いたことがある。一方、西洋の出版は活字を洗練させていく。多言語対訳聖書など、なにげに凄い。複数言語の活字セットを持って、それを正しく拾える職人がいたわけだから。

 また、より美しい活字体をつくることにも努力が注がれた。このへんの解説は、さすが印刷博物館で「書籍」を扱い慣れていると思った。ジョフロア・トロリーの『花咲く野』(1529)は書体論で、ローマン体がいかに神聖で優れたものかを論じた書物である。ゴシック体は野蛮とみなされていたのか。そうかー。印刷業者の商標についての解説も面白かった。ヴェネツィアのアルド・マヌーツィオが使用した「錨とイルカ(アナゴのようなイルカが錨に巻きついている)」は「ゆっくりと急げ」を寓意している。

 思わぬ見ものだったのは「ヴァチカン貴重庫でみつけた日本・東アジア」のセクションで、天正少年使節からヴェネツィア共和国政府への感謝状(和文とラテン語?併記、四人の花押とサインがある)に驚いた。さらに、迫害に苦しむ日本のキリシタンに、1619年、教皇から励ましの手紙が届けられ、キリシタンたちがこれに答えた手紙もあった。海原のような青碧色の紙に金箔・金泥を散らした華麗な料紙で、日本語とラテン語が書かれている。署名している12人は、いったいどういう身分・境遇の人びとだったんだろう。日本の歴史には、まだ私の知らないことがたくさんある。イエズス会の日本学林で出版されたキリシタン版(和装、日本語、活字本)がヴァチカン図書館にあるというのも初めて知った。ということは、日本だけでなく、全世界の「布教」関連出版物が収蔵されているのだろうか。また、秀吉や当時の武将たちに関する貴重な史料「イエズス会士日本通信」を見ることができたのも嬉しかった(印刷博物館所蔵)。

 もうひとつ、ヴァチカン図書館の内部をプロジェクション・マッピングで体験するシアターは面白かったが、動きが激しくて、ちょっと立ちくらみしそうだった。ヴァチカン図書館って、書籍だけでなく、イコンや石碑も収蔵しているのだな。どうせ個人利用は簡単にはできないんだろうなと思って、Wikipediaを見たら「図書館情報大学→筑波大学が、バチカン図書館と提携している」って、えっ本当?
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