■東京国立博物館・平成館 『クリーブランド美術館展-名画でたどる日本の美』(2014年1月15日~2月23日)
正月からずっと、東京に帰る機会がなかったので、この展覧会は最終日に駆け込み観覧になってしまった。やれやれ、なんとか間に合ってよかった。全米屈指の規模と質を誇るクリーブランド美術館から、選りすぐりの日本絵画約40件に、西洋絵画を加えて総数約50件を紹介する展覧会。どこかで見た記憶のある作品も多かった。
その筆頭は、特別出品の『釈迦如来像』。あれ、若冲の…いや静嘉堂文庫の…と記憶が混乱したが、もと東福寺に「釈迦文殊普賢」三幅として伝来し、三幅とも岩崎家に入ったが「いつの頃か釈迦如来像のみがクリーブランド美術館に収蔵されるようになった」(図録の解説)ものである。若冲が相国寺に寄進した「釈迦三尊像」の原本と考えられてもいる。制作地は「高麗か元か」で議論されてきたが、近年は元(中国)と考えられているそうだ。ブログ検索をかけたら、板倉聖哲先生が、朝鮮絵画と中国絵画と若冲の話をされたときの記録が出て来たので、リンクを貼っておく。→東洋文化研究所 第10回公開講座。
武闘派っぽい『文殊菩薩及び眷属像』。赤い唇が妖艶な、踏み割り蓮華に乗った『地蔵菩薩像』。どちらも鎌倉時代の優品仏画だが、やけに人間臭い表情と肉体を感じさせる。先入観かもしれないけれど、やっぱり西洋人の好む東洋美術には、日本人の趣味とはズレたところがあて、そこが面白い。風景(山水)画も、日本人の好みより立体的で、明確な奥行きのある作品が多いように感じた。
「どこかで見たことのある作品が多い」と書いたが、調べてみると、必ずしもクリーブランド美術館の所蔵品が、頻繁に来日しているわけではないらしい。上畳本三十六歌仙図の『平兼盛』は、見たことがあると思ったが、調べたら佐竹本(MOA美術館)とそっくりだった。『福富草紙』も、私が知っているのは、京都・妙心寺所蔵(重文)のほうかもしれない。河鍋暁斎の『地獄太夫図』はよいなあ。これも骸骨が舞い踊る類似作品があって、本作は一種のパロディなのだろうか。
■東京国立博物館・平成館 日本伝統工芸展60回記念『人間国宝展-生み出された美、伝えゆくわざ-』(2014年1月15日~2月23日)
平成館2階では、もうひとつの特別展を開催中だった。ここで「パスポート」のスタンプ欄を2つ消費してしまうのは惜しい気がしたが、せっかくなので見て行く。歴代人間国宝(重要無形文化財保持者)104人の名品を紹介。それだけではなく、「古典」と「新作」(人間国宝の作品)を並べて見せる展示もあって、8世紀の奈良三彩壺や仁清の『色絵月梅図茶壺』が出ているかと思えば、正倉院御物の複製があったりする(これは「古典」として展示)。
意外とハマってしまったのが着物。白地の縮緬地友禅訪問着『歓喜』(昭和29年、上野為二)は、若冲の絵画をモチーフにしているように見えた。裾の群鶏はもちろん、肩から背中に散らした梅花(?)が、『動植綵絵』の菊そっくり。欲しいと思ったのは『藍朧型印金芦文「瑲」紬長着』(昭和39年、鎌倉芳太郎)。玲瓏と響く音を思い浮かべた。
■東京国立博物館・平常展(総合文化展)
国宝室は雪舟の『秋冬山水図』の最終日(~2/23)だった。隣りの「仏教の美術-平安~室町」は肖像画・肖像彫刻のミニ特集らしく、まず鎌倉国宝館でおなじみの『伝源頼朝坐像』(彫刻)が来ていた。ふだんより低い展示位置なので、膝においた手先の細やかな写実に注目したり、背後の折り畳んだ下襲の裾(?)を面白がったりできる。2種類の『玄奘三蔵像』、神護寺の『文覚上人像』もあり。大好きな『真如法親王像』も。「みこ!」と呼びかけたくなるのは、私が澁澤龍彦ファンだからです。『拾遺古徳伝絵巻』は、法然が後白河法皇に往生要集を講義する場面。ただし、後白河法皇の姿は描かれていない。
残念だなあ~と思っていたら、続きの「宮廷の美術-平安~室町」に、京都・妙法院蔵の『後白河法皇像』が来ていた。でっぷりと貫録あるシルエット。劣化のため、顔立ちはほとんど見えないが、大きな黒目と意志的な唇が、わずかに判別できる。背後に牡丹・花鳥を描いた唐風の襖。さらに、新しめだけど「神護寺三像」が来ている?!と思ったら、これは冷泉為恭による模写だった。なお現在は、国宝室でホンモノの「神護寺三像」の一幅『伝藤原光能像』を展示中(2014年2月25日~3月23日)の筈である。『天子摂関大臣影』の「天子巻」「大臣巻」も江戸時代の模本だが、なかなか見ることができない作品なので、模本でもうれしい。重盛と宗盛の表情の違いが笑える~。(※国宝の『伝藤原光能像』を見たと書いて、一度ブログUPしてしまったのは記憶違い。すみません)
なお、『支倉常長像と南蛮美術-400年前の日欧交流-』(2014年2月11日~3月23日)も開催中。これ、平常展(総合文化展)料金で見られるけど「特集陳列」でなくて「特別展」なのか。どうでもいいが、分かりにくいなあ。私は、この華麗な『支倉常長像』を見たことがある。仙台市博物館の『支倉常長像』(これは黒の僧服のバストショット)と混同していたが、そうではなくて、2010年に東京都美術館の『ボルゲーゼ美術館展』で見たのだった。
正月からずっと、東京に帰る機会がなかったので、この展覧会は最終日に駆け込み観覧になってしまった。やれやれ、なんとか間に合ってよかった。全米屈指の規模と質を誇るクリーブランド美術館から、選りすぐりの日本絵画約40件に、西洋絵画を加えて総数約50件を紹介する展覧会。どこかで見た記憶のある作品も多かった。
その筆頭は、特別出品の『釈迦如来像』。あれ、若冲の…いや静嘉堂文庫の…と記憶が混乱したが、もと東福寺に「釈迦文殊普賢」三幅として伝来し、三幅とも岩崎家に入ったが「いつの頃か釈迦如来像のみがクリーブランド美術館に収蔵されるようになった」(図録の解説)ものである。若冲が相国寺に寄進した「釈迦三尊像」の原本と考えられてもいる。制作地は「高麗か元か」で議論されてきたが、近年は元(中国)と考えられているそうだ。ブログ検索をかけたら、板倉聖哲先生が、朝鮮絵画と中国絵画と若冲の話をされたときの記録が出て来たので、リンクを貼っておく。→東洋文化研究所 第10回公開講座。
武闘派っぽい『文殊菩薩及び眷属像』。赤い唇が妖艶な、踏み割り蓮華に乗った『地蔵菩薩像』。どちらも鎌倉時代の優品仏画だが、やけに人間臭い表情と肉体を感じさせる。先入観かもしれないけれど、やっぱり西洋人の好む東洋美術には、日本人の趣味とはズレたところがあて、そこが面白い。風景(山水)画も、日本人の好みより立体的で、明確な奥行きのある作品が多いように感じた。
「どこかで見たことのある作品が多い」と書いたが、調べてみると、必ずしもクリーブランド美術館の所蔵品が、頻繁に来日しているわけではないらしい。上畳本三十六歌仙図の『平兼盛』は、見たことがあると思ったが、調べたら佐竹本(MOA美術館)とそっくりだった。『福富草紙』も、私が知っているのは、京都・妙心寺所蔵(重文)のほうかもしれない。河鍋暁斎の『地獄太夫図』はよいなあ。これも骸骨が舞い踊る類似作品があって、本作は一種のパロディなのだろうか。
■東京国立博物館・平成館 日本伝統工芸展60回記念『人間国宝展-生み出された美、伝えゆくわざ-』(2014年1月15日~2月23日)
平成館2階では、もうひとつの特別展を開催中だった。ここで「パスポート」のスタンプ欄を2つ消費してしまうのは惜しい気がしたが、せっかくなので見て行く。歴代人間国宝(重要無形文化財保持者)104人の名品を紹介。それだけではなく、「古典」と「新作」(人間国宝の作品)を並べて見せる展示もあって、8世紀の奈良三彩壺や仁清の『色絵月梅図茶壺』が出ているかと思えば、正倉院御物の複製があったりする(これは「古典」として展示)。
意外とハマってしまったのが着物。白地の縮緬地友禅訪問着『歓喜』(昭和29年、上野為二)は、若冲の絵画をモチーフにしているように見えた。裾の群鶏はもちろん、肩から背中に散らした梅花(?)が、『動植綵絵』の菊そっくり。欲しいと思ったのは『藍朧型印金芦文「瑲」紬長着』(昭和39年、鎌倉芳太郎)。玲瓏と響く音を思い浮かべた。
■東京国立博物館・平常展(総合文化展)
国宝室は雪舟の『秋冬山水図』の最終日(~2/23)だった。隣りの「仏教の美術-平安~室町」は肖像画・肖像彫刻のミニ特集らしく、まず鎌倉国宝館でおなじみの『伝源頼朝坐像』(彫刻)が来ていた。ふだんより低い展示位置なので、膝においた手先の細やかな写実に注目したり、背後の折り畳んだ下襲の裾(?)を面白がったりできる。2種類の『玄奘三蔵像』、神護寺の『文覚上人像』もあり。大好きな『真如法親王像』も。「みこ!」と呼びかけたくなるのは、私が澁澤龍彦ファンだからです。『拾遺古徳伝絵巻』は、法然が後白河法皇に往生要集を講義する場面。ただし、後白河法皇の姿は描かれていない。
残念だなあ~と思っていたら、続きの「宮廷の美術-平安~室町」に、京都・妙法院蔵の『後白河法皇像』が来ていた。でっぷりと貫録あるシルエット。劣化のため、顔立ちはほとんど見えないが、大きな黒目と意志的な唇が、わずかに判別できる。背後に牡丹・花鳥を描いた唐風の襖。さらに、新しめだけど「神護寺三像」が来ている?!と思ったら、これは冷泉為恭による模写だった。なお現在は、国宝室でホンモノの「神護寺三像」の一幅『伝藤原光能像』を展示中(2014年2月25日~3月23日)の筈である。『天子摂関大臣影』の「天子巻」「大臣巻」も江戸時代の模本だが、なかなか見ることができない作品なので、模本でもうれしい。重盛と宗盛の表情の違いが笑える~。(※国宝の『伝藤原光能像』を見たと書いて、一度ブログUPしてしまったのは記憶違い。すみません)
なお、『支倉常長像と南蛮美術-400年前の日欧交流-』(2014年2月11日~3月23日)も開催中。これ、平常展(総合文化展)料金で見られるけど「特集陳列」でなくて「特別展」なのか。どうでもいいが、分かりにくいなあ。私は、この華麗な『支倉常長像』を見たことがある。仙台市博物館の『支倉常長像』(これは黒の僧服のバストショット)と混同していたが、そうではなくて、2010年に東京都美術館の『ボルゲーゼ美術館展』で見たのだった。