○五島美術館 開館50周年記念特別展『国宝 源氏物語巻』(2010年11月3日~11月28日)
改修休館前の最後の特別展だが、五島美術館所蔵の『源氏物語絵巻』は何度も見たことがあって、あまり気乗りがしなかった。徳川美術館所蔵分も展示されると分かって、それじゃあ行ってみようと腰を上げた。ネットには、待ち時間30分とか1時間とかいう書き込みもあったが、半信半疑だった。
土曜日の夕方、15時過ぎに上野毛に着くと、駅前には「待ち時間0分」の札を掲げた係員。ほんとに入館待ちなんて出るのかしら、と怪しむ。会場は、右から左へ壁に沿ってぐるりと、物語の進行順に(徳川美術館分と五島美術館分を分けずに)詞書→原本絵画→復元模写を展示する。全ての場面に付けられた復元模写が鑑賞の助けになってありがたい。釈文、概要、描かれた人物の注を記したパンフレットも便利である。
見ていくうちに、だんだん引き込まれていくのが自分でも分かった。最初の「蓬生」は、末摘花邸のぼろぼろ振りが、華麗な王朝絵巻の枠をはみ出している。次の「関屋」は、メルヘンのように愛らしい山並みを背景に、峠で行き会った源氏と空蝉一行の様子がこまごまと描かれている。屋外の情景を描いたのはこの1枚のみ(須磨も明石も残ってないので)。一転して「柏木」は屋内描写だが、女房たちの装束の色彩、調度の屏風に描かれた山水画など、細部までよく残っていることに驚く。徳川美術館所蔵分のほうが、五島美術館所蔵分より色の残り方がいいのだろうか。
いや、そうではあるまい。「鈴虫」「夕霧」「御法」と続く五島美術館所蔵分は、どちらかというとプライベートな空間が舞台なので、抒情的だが、登場人物も少なく、衣装や調度の華やかさに欠けるのだ。再び「竹河」「橋姫」は、大勢の女房たちの華麗な衣装を丹念に描き込んだ場面が続く。同工異曲になりそうなところを、作者は画面構成にさまざまな工夫を凝らしている。徳川美術館分のほうが変化に富んでいて面白いなあ。
絵画は『源氏物語』の梗概を知らなくても、おおよそは楽しめる。ただし、たとえば「宿木」では、琵琶を弾く貴公子(匂宮)とそれに耳を傾ける姫君(妻の中君)の、一見親密そうな様子が描かれているが、二人の間に、猜疑と苦悩がわだかまった状態であることを知ってこの絵を眺めると、ずいぶん印象が違うと思う。二人は視線を合わせていない、という解説を読んで、なるほどと思った。
私がいちばん好きなのは「宿木二」。匂宮が、気の進まない結婚をした六の君の姿を初めて見て、その美しさのとりこになる場面である。私は『源氏』を「宇治十帖」の前までしか読んでいないのだけど、いつかはちゃんと最後まで読もうと思った。それと、私はこの『絵巻』をあなどっていた。けっこう人間臭い魅力に富んだ作品であると感じた。今回、両美術館所蔵の20段分(19画面)をまとめて見ることができてよかったと思う。詞書の筆跡が一様でないことも分かった。詞書部分に復元模写はないのだが、展示図録の写真で見ると、料紙がすばらしく美しい。光の当て方次第なのだろうか。
閉館ぎりぎりに展示室を出たら、ロビー左手に「入館待ち」スペースができていて、絵巻の登場人物の拡大写真等が展示されていた。入館待ちが不要だったので、せっかくの工夫を見逃してしまうところだった。
※徳川美術館:企画展案内
「過去の企画展」に『源氏物語絵巻』および復元模写の画像あり。
改修休館前の最後の特別展だが、五島美術館所蔵の『源氏物語絵巻』は何度も見たことがあって、あまり気乗りがしなかった。徳川美術館所蔵分も展示されると分かって、それじゃあ行ってみようと腰を上げた。ネットには、待ち時間30分とか1時間とかいう書き込みもあったが、半信半疑だった。
土曜日の夕方、15時過ぎに上野毛に着くと、駅前には「待ち時間0分」の札を掲げた係員。ほんとに入館待ちなんて出るのかしら、と怪しむ。会場は、右から左へ壁に沿ってぐるりと、物語の進行順に(徳川美術館分と五島美術館分を分けずに)詞書→原本絵画→復元模写を展示する。全ての場面に付けられた復元模写が鑑賞の助けになってありがたい。釈文、概要、描かれた人物の注を記したパンフレットも便利である。
見ていくうちに、だんだん引き込まれていくのが自分でも分かった。最初の「蓬生」は、末摘花邸のぼろぼろ振りが、華麗な王朝絵巻の枠をはみ出している。次の「関屋」は、メルヘンのように愛らしい山並みを背景に、峠で行き会った源氏と空蝉一行の様子がこまごまと描かれている。屋外の情景を描いたのはこの1枚のみ(須磨も明石も残ってないので)。一転して「柏木」は屋内描写だが、女房たちの装束の色彩、調度の屏風に描かれた山水画など、細部までよく残っていることに驚く。徳川美術館所蔵分のほうが、五島美術館所蔵分より色の残り方がいいのだろうか。
いや、そうではあるまい。「鈴虫」「夕霧」「御法」と続く五島美術館所蔵分は、どちらかというとプライベートな空間が舞台なので、抒情的だが、登場人物も少なく、衣装や調度の華やかさに欠けるのだ。再び「竹河」「橋姫」は、大勢の女房たちの華麗な衣装を丹念に描き込んだ場面が続く。同工異曲になりそうなところを、作者は画面構成にさまざまな工夫を凝らしている。徳川美術館分のほうが変化に富んでいて面白いなあ。
絵画は『源氏物語』の梗概を知らなくても、おおよそは楽しめる。ただし、たとえば「宿木」では、琵琶を弾く貴公子(匂宮)とそれに耳を傾ける姫君(妻の中君)の、一見親密そうな様子が描かれているが、二人の間に、猜疑と苦悩がわだかまった状態であることを知ってこの絵を眺めると、ずいぶん印象が違うと思う。二人は視線を合わせていない、という解説を読んで、なるほどと思った。
私がいちばん好きなのは「宿木二」。匂宮が、気の進まない結婚をした六の君の姿を初めて見て、その美しさのとりこになる場面である。私は『源氏』を「宇治十帖」の前までしか読んでいないのだけど、いつかはちゃんと最後まで読もうと思った。それと、私はこの『絵巻』をあなどっていた。けっこう人間臭い魅力に富んだ作品であると感じた。今回、両美術館所蔵の20段分(19画面)をまとめて見ることができてよかったと思う。詞書の筆跡が一様でないことも分かった。詞書部分に復元模写はないのだが、展示図録の写真で見ると、料紙がすばらしく美しい。光の当て方次第なのだろうか。
閉館ぎりぎりに展示室を出たら、ロビー左手に「入館待ち」スペースができていて、絵巻の登場人物の拡大写真等が展示されていた。入館待ちが不要だったので、せっかくの工夫を見逃してしまうところだった。
※徳川美術館:企画展案内
「過去の企画展」に『源氏物語絵巻』および復元模写の画像あり。