見もの・読みもの日記

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関西・秋の文化財めぐり(5):京焼

2006-11-02 23:12:18 | 行ったもの(美術館・見仏)
○京都国立博物館 特別展覧会『京焼-みやこの意匠と技-』

http://www.kyohaku.go.jp/jp/index_top.html

 「京焼」という用語をきちんと覚えたのは、2005年の秋に出光美術館で『京の雅び・都のひとびと』という展覧会を見たときのことだ。京都で作られたやきものを総称して、こう呼ぶ。室町時代にさかのぼるとも言われるが、本格的な作陶の始まりは慶長初年頃らしい。

 初期の京焼については、近年、都市考古学的アプローチによって分かったことが多いそうだ。京都大阪近郊では、江戸初期の地層から、多数の「軟質施釉陶器」が出土している。これは、低火度で焼かれた軟質の陶器で、中国の華南三彩によく似た濃緑色の釉薬を掛けたものだ。三井記念美術館の『赤と黒の芸術 楽茶碗』でも、楽茶碗の祖先として取り上げられていたのが、この華南三彩である。

 ただし、見つかっている「軟質施釉陶器」には、日本式の轆轤(ろくろ)を使った跡がある(ちなみに、楽茶碗は轆轤を使わない。また、中国の轆轤は左回転だが日本のは右回転である)。したがって、黎明期の京焼である「軟質施釉陶器」は、中国系の施釉技術と日本古来の素地成型技術が合体したものであり、楽焼とは、片親を同じくする兄弟と言える。また、華南三彩の濃緑色は、美濃焼の織部や古九谷の青手にも受け継がれている。華南三彩が日本陶器に与えた影響は、意外と広く深いようだ。

 会場には、鳴滝乾山窯跡、京大病院構内、京都御苑(公家町遺跡)など、さまざまな箇所から出土した、膨大な数の京焼(の破片)が展示されている。時代は17世紀から19世紀まで。いずれも実際に使われていた器と思われ、飽きの来ない、しかし日常生活を少しだけ楽しくしてくれそうなデザインが多い。

 「出土品」と並んで、本展が注目するのは「伝世品」である。なぜなら、「いくら遺跡を掘っても、本当に大事にされたものはなかなか出てこない」。昔の人は、大事なものは、たとえ壊れても簡単に捨てないからだ。なるほど。確かに、考古学調査の成果は画期的だが、1つの視点だけに頼っては見えてこないものもある。そこで会場には、多数の名品が集められている。でも、『色絵罌粟文茶壺』は出光美術館蔵だし、『色絵法螺貝香炉』は静嘉堂文庫美術館蔵だし、『色絵月梅図茶壺』は東博だし、いずれも過去に見たことがあった。京焼(野々村仁清)の名品って、意外と東京に集まっているんだなあ。

 福岡市美術館蔵の『色絵吉野山図茶壺』は、たぶん初見。吉野山の遠景なのに、見えるはずのない桜の花が大きく描かれていて、子どもの絵みたいである。華やかで楽しい逸品。

 展示は、西洋の衝撃、大輸出時代を経て、劇的な変化を強いられた近代の京焼をもたどる。あまり感心できないものもあるが、『釉下彩茄子文花瓶』は、アールヌーボーふうの愛らしい作品である。

 このあと、駆け足で常設展をチェック。若冲の『鶏頭蟷螂図』と『竹図』、蘆雪の『岩上猿図』、蕭白の『鍾馗と鬼図』ほか、”奇想”三人衆がまとめて見られて満足であった。かくて長い土曜日は、ようやくおしまい。
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