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見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。
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熱血少年マンガと見せかけて/中華ドラマ『虎鶴妖師録』

2023-10-22 22:15:05 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『虎鶴妖師録』全36集(愛奇藝、2023年)

 試しに見てみたら面白くて、けっこうハマってしまった。原作は中国の少年マンガだという。調べたら2013年に始まり現在も連載中(雑誌ではなくネットで)というから長い。はじめ物語がどこに着地するのかよく分からなかったり、やたら登場人物が多いのも、そういう事情を知っていると納得できる。「熱血少年マンガ」というのが売り文句だが、実は登場人物がどんどん死んでいく冷血無比の展開で、かなりつらい。しかしどの登場人物も大事に扱われていて、それぞれ見せ場があるのは好ましかった。

 500年前、海の彼方の大陸に「妖」(異類のものたち)が現れ、人々に災いを為していた。伝説によれば、正義の士である祁無極が巔峰谷に住む妖帝を斬り殺したが、妖帝の血が死の海・冥海を生み出した。以来、伏龍国は海岸に聖なる赤珠を祀り、冥海による浸食を食い止めていたが、あるとき、その赤珠のひとつが破壊されてしまう。

 伏龍国の妖師(妖と戦い、人々を守る戦士)祁暁軒は、新しい赤珠を求める旅に派遣される。その途中で出会ったのは、こそ泥稼業の孤児の虎子と、長槍の使い手で男装女子の趙馨彤。虎子は誤って赤珠を吞み込んでしまう。その赤珠を取り出すため、祁暁軒らは一眉仙子という女流の仙術使いを訪ねる。無事に赤珠は取り出したものの、虎子の母親は九尾の虎妖であり、彼の体には虎妖の尾一本が埋め込まれていることが分かる。一眉は、妖尾の暴走を鎮めるため、虎子に金剛橛(金剛杵)を授ける。

 伏龍国にやってきた虎子と趙馨彤は、国御妖師の選抜試験を受けることになり、千羽国から来た王羽千など、受験生たちと親交を深める。しかし最終試験で合格を勝ち取りかけた虎子を、冷酷に突き落としたのは祁暁軒だった。実は、祁家には500年前からある呪いがかけられていた。祁家の子女は1つの身体に2つの元神(人格)を持って生まれ、成長の過程でどちらかを選ばなければならなかった。現在の暁軒(乾)はもうひとりの自分(炎)を封印していたが、なぜか炎がよみがえり、逆に乾を別の世界に封印したのである。裏で糸を引いていたのは一眉だった。

 一眉は炎を連れて冥海を渡り、巔峰谷に飛ぶ。虎子、趙馨彤、王羽千らは、暁軒の身体を取り戻し、荒れ狂う冥海を鎮めるため、伏龍国・千羽国・巨輪国の勇士たちとともに巔峰谷に渡る。そして、祁家の始祖である祁無極そのひとに会い、虎子の母の白虎にも会って、500年前のできごとの真実を知る。

 【ネタバレ】を簡単に書いておくと、祁無極には無双という脚の悪い弟がいた。二人は仲のよい兄弟だったが、兄に裏切られたと誤解した無双は祁無極の身体を乗っ取って妖帝となり、祁家の子孫に「双生元神」の呪いをかける。しかし暁軒の身体を得た炎は、乾が苦しみながら生きていたことを知り、自らの存在を葬って身体を乾に返す。この自己犠牲によって呪いは消え去る。一眉は、妖帝・祁無極(無双)に強いられて、炎を巔峰谷に連れてきたのだが、彼女の正体は、夜箜鳴という女子が可愛がっていた布人形だった。巔峰谷に眠る亡き主人にただ一目会うために、一眉は多くの悪事と殺生を繰り返していたのである。

 本作では、いちおう虎子と馨彤は両想いカップルで、暁軒は序盤で花妖の牡丹姑娘と淡い思いを寄せ合う。だが強く印象に残るのは、一眉から夜箜鳴への一途な思慕や、祁無極・無双の骨がらみの兄弟愛である。他にも主従・親子・同志の間の、愛情・嫉妬・報復・許しなど、涙を誘う熱い関係がたくさん描かれていて、よくも悪くも人間世界を動かすのはこういう感情なんだな、と思った。

 戦いを終えて、序盤で憎らしかった成済年(劉耀元)が、巨輪国の女戦士を嫁に迎えて幸せになったのはちょっと嬉しかった。烏里丹がかつての仇敵を弔う姿には泣けた。虎子の蒋龍と趙馨彤の王玉雯は別の作品で知っていた俳優さんだが、どちらもよかった。蒋龍くん、今時の中国ドラマで求められるイケメン路線ではないのだけれど、そこが好き。祁暁軒の張凌赫と王羽千の陳宥維はこの作品で覚えた。張凌赫くん、ホワイト乾とブラック炎を丁寧に演じ分けていて、二人(一人二役)の対決シーンも引き込まれた。陳宥維くんは声がいいね。一眉仙子を演じた何藍逗さんは、幼げな丸顔にぼんやりした目鼻立ちで、キラキラした美人ではないのだけれど、布人形が生命を得たという設定に納得感があり、激しい立ち回りもカッコよかった。

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奇妙な連続殺人/中華ドラマ『塵封十三載』

2023-10-06 22:28:11 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『塵封十三載』全24集(愛奇藝、2023年)

 「当たり年」の感のある今年のドラマの中でも、比較的高い評価を得ていると聞いて見てみた。若い女性を狙った猟奇連続殺人を題材にした犯罪ミステリードラマである。

 2010年のある日、南都市の家具展示場で、奇妙なポーズをつけられた若い女性の全裸遺体が発見される。現場にはHBの鉛筆が残されていた。捜査に当たった刑事の陸行知は、13年前の1997年、警察に就職した最初の日に出会った事件を思い出す。老街のうらぶれた写真館で、やはり奇妙なポーズの女性の遺体が発見され、そこにもHB鉛筆が残されていた。ここからドラマは、1997年と2010年の2つの時間軸で動き始める。

 1997年の新人刑事・陸行知は、ベテラン刑事の老衛(衛峥嵘)とともに捜査に着手するが、すぐに第二の事件が起きる。第二の被害者・杜梅は、女手一つで育てていた幼い娘の安寧と一緒にいるところを襲われ、安寧は衣装箪笥の中に隠れて命を助かった。陸行知と妻の楊漫は、孤児となった安寧を引き取り、養女とすることに決める。陸行知は幼い安寧の挙動から、犯人がなぜか安寧のイチゴのぬいぐるみを持ち去ったことを知る。また、フクロウの面で顔を隠した人物を見たという証言を得るが、謎めいた断片的な証言ばかりで犯人の正体はつかめない。

 刑事の老衛は、むかし白暁芙という女性と将来を約束していた。不治の病に犯されたと信じた老衛は白暁芙のもとを去り、彼女は別の男性と結婚して息子の張山山が生まれた。けれども白暁芙の結婚生活はうまくいかず、彼女は老衛に思いを寄せ続けていた。あるとき、白暁芙は連続殺人犯に襲われかけ、必死で逃げようとして車に跳ねられ、命を落としてしまう。冷静さを失った老衛は、容疑者のチンピラを執拗に追及し、かえって警察の信用を落とす結果となる。老衛は犯罪捜査から身を引き、警察の図書室で静かに暮らすことを選ぶ。その後、新しい事件は発生しないまま、月日が流れていった。

 2010年の事件発生後、陸行知は「師父」老衛に協力を依頼する。二人は13年前の関係者を訪ね、再度、彼らの証言や関係を洗い出していく。2010年にも第二、第三の殺人事件が起きるが、犯人のやりくちが1997年の連続殺人と異なり、粗雑で暴力的であると二人は感じる。13年の歳月は警察の捜査方法を大きく進歩させていた。大学の研究員であった白暁芙が保存していた1997年の犯人の遺留物と、2010年の遺留物をDNA鑑定した結果、両者は別人であること、しかし非常に類似性が高く、おそらく親子ではないかという推定が下る。

 【ネタバレ】1997年の犯人は白暁芙の夫・張司城であり、2010年の犯人は、父親に虐待され、残虐性を植え付けられた張山山だった。張山山は、自分と同じように家族に見捨てられた少女たちを、この世の責苦から解放するために殺害していた。老衛は、最愛の女性の忘れ形見を自らの手で葬り去る。

 だが、本作の謎解きの真骨頂は、犯人が誰かよりも、なぜイチゴのぬいぐるみとか鳥のお面とか、奇妙な道具立てが必要だったかだろう。呉嘉(張山山の偽名)のパソコンからは「人間楽園」と題した絵画が発見される。ヒエロニムス・ボスの「快楽の園」だ。そこには、巨大なイチゴ、フクロウ、さらにサクランボの髪飾りなど、事件の鍵が全て描き込まれていた。そしてヒエロニムス・ボス(Hieronymus Bosch)がHBの正体だったのである。うわーこれはやられた!と思った。ただ、ドラマではヒエロニムス・ボスが別の名前に差し替えられていたのが不思議だった。何か実在の画家の名前を出せない事情があったのかもしれない。 

 本作は、犯罪ミステリーに加えて、陸行知と老衛それぞれの家族の物語、被害者の女性をとりまく男たちの欲望や葛藤が、13年の歳月の厚みとともに描かれており、人間ドラマとしても見応えがあった。陸行知の陳暁、古装ドラマの貴公子でしか見たことがなかったけど、洒落っ気の片鱗もない刑事役もなかなかいける。妻の楊漫は啜妮さん。『無間』の藍冰が好きだったので、また会えて嬉しい。1997年の映像は全体に冬服、2010年は夏服で変化を付けていたのは、視聴者の混乱を防ぐための工夫だろうか。なお、架空の南都市のロケ地となったのは重慶。重慶の風景は実にミステリーが似合う。

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友情、努力、勝利とその後/中華ドラマ『蓮花楼』

2023-10-01 01:23:50 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『蓮花楼』全40集+番外編(愛奇藝、2023年)

 この夏、中国で大ヒットしたドラマである。「美男三人武侠サスペンス」と聞いて、私の趣味ではないかもしれないと思ったのだが、見てみたら、けっこうハマった。時代は架空の王朝「大煕」の設定。武芸の天才・李相夷は20歳にして正派の武門・四顧門の門主となった。しかし邪派・金鴛盟の盟主・笛飛声は、李相夷の師兄・単孤刀を呼び出して殺害し、李相夷に決戦を挑んできた。李相夷と笛飛声は嵐の海で激闘を繰り広げ、相討ちとなって姿を消した。

 そして10年後、「神医」李蓮花が世に現れる。彼は四頭立ての馬に引かせた移動式住宅「蓮花楼」で愛犬・狐狸精とともに気ままな旅暮らしをしていた。李蓮花の正体は李相夷、「東海一戦」の直前、何者かに「碧茶」の毒を盛られたが、無了和尚に救われ、別人・李蓮花として生きることに決めたのである。しかし彼の余命は持って10年と予言されており、その年限も尽きようとしていた。李蓮花の最大の心残りは、師兄・単孤刀の遺体の行方が分からないことだった。

 そこに現れたのは、四顧門の刑堂・百川院の一員になることを目指す若き武芸者・方多病。幼い頃に李相夷から武芸の手ほどきを受けたことが自慢で「李相夷の弟子」を名乗っている。しかも話を聞くと、単孤刀の実の息子であることが分かる。方多病は、李蓮花がまさか李相夷そのひとであるとは知らず、武芸オンチらしい李蓮花を守ろうと奮闘し、李蓮花はそんな方多病を「方小宝」と呼んで可愛がる。しかし方多病は、徐々に李蓮花の正体に気づくとともに、実父の単孤刀を死に追いやったのは、師兄をねたんだ李相夷であるという世間の噂に動揺する。

 一方、金鴛盟の盟主・笛飛声も10年の療養を経て、いくぶん内力を回復し、活動を開始する。笛飛声は李蓮花を探し当てるが、「東海一戦」の李相夷が毒を盛られていたことを知ると、義憤に駆られ、単孤刀の遺体探しに協力する。さらに李相夷の治療を手伝い、真の実力を回復した上での再戦を迫る。李蓮花が「老朋友」阿飛(笛飛声)と何やら秘密を共有している雰囲気が、「新朋友」方多病にはちょっと面白くない。この、仲がいいんだか悪いんだかよく分からない三人組が、次々にミステリアスな事件の解決に挑んでいくのが本作の見どころである。

 【ネタバレ】やがて別々に見えた事件が、滅亡した王国「南胤」の存在を鍵に結びついていく。金鴛盟の一員で笛飛声の腹心に見えた聖女・角麗譙は、南胤復興のために金鴛盟を利用していた。また、実は生きていた単孤刀は、自らを南胤の皇帝の末裔と信じ、帝位を簒奪することを企んでいた。彼らが狙っていたのは、業火母痋と呼ばれる毒虫で、毒虫に刺された人々を意のままに操ることができる。この毒虫を制するのは、南胤皇帝一族の血のみと言われていた。李蓮花らは単孤刀を取り押さえ、その血を毒虫に垂らしたが何も起こらない。そこに李蓮花・単孤刀を育てた師母が現れ、李蓮花の血を毒虫に垂らすように告げる。ともに孤児として育った李蓮花と単孤刀、南胤皇帝の血脈を受け継いでいたのは李蓮花だったのである。これは皮肉が効いていて、なかなかよいドンデン返し。

 単孤刀一味との乱戦の末、笛飛声は李蓮花の毒を解く可能性のある薬草・忘川花を手に入れ、これを李蓮花に渡して、再戦を約して立ち去る。しかし李蓮花は、この薬草を大煕皇帝の病の薬として献上する。そして四顧門を朋友たちに託し、蓮花楼さえ残して、どこかへ姿を消してしまった。

 ストーリーもよくできていると思うが、ドラマの魅力は、なんといっても三人の主人公たちである。李蓮花/李相夷の成毅はたぶん初めて見た。李相夷は自負心の強い(それゆえ敵もつくりやすい)少年英雄だが、李蓮花は、大人の諦観を感じさせ、ちょっとオバサンっぽい。方多病の曽舜晞くんは『倚天屠龍記』以来だけど、少年らしいまっすぐキャラがよくハマる。序盤は自称が「本少爺」(俺様)なのが可愛かった。笛飛声の肖順堯さんは『軍師聯盟』の司馬師以来! 少年マンガによくある、ライバル大好きな勝負一筋の硬派男子で、角麗譙の色香にも迷わない。つねにマイペースなところも好き。

 ドラマ放映終了後、9月16日には出演俳優さんたちによる「演唱会(コンサート)」が開催されており、この映像もYoutubeで楽しませてもらった。やっぱり歌とダンスが本職の肖順堯さんが抜群にカッコよく、素朴な人柄にギャップ萌えしてしまった。Youtubeで彼の動画を探して視聴する「沼」からまだ抜け出せないでいる。

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ブロマンス「怪奇」ミステリー/中華ドラマ『君子盟』

2023-08-25 23:47:25 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『君子盟』全29集(騰訊影業、2023)

 若手イケメン俳優によるブロマンス・ミステリーと聞いて、あまり私の好みではないかな?と思ったのだが、ホラー風味もありつつ、骨格は善因善果・悪因悪果のスカッとした物語で、けっこう楽しめた。舞台は架空の王朝・大雍だが、雰囲気は唐を思わせる。皇帝はすでに成人しているが、政治の実権は太后が握っており、実子である皇帝との仲はあまり睦まじくないと噂されていた。さて礼部侍郎の蘭珏は、やや線の細い上品な貴公子。20年前、蘭珏の父親は敵に内通した罪で捕えられ、処刑された。蘭珏は苦労を重ねて現在の地位を得たが、いまでも父親の潔白を信じていた。

 もうひとりの主人公・貧乏書生の張屏は孤児で、いまは弟分の陳筹と拉麺の屋台を引いて生計を立てている。架空の名探偵が活躍する犯罪読みものが大好きで、科挙に合格したら、大理寺(裁判所・検察庁)に就職することが夢。おっとりした好青年だが、犯罪推理には頑固なこだわりを貫く熱血漢。また「鏡花水月」という器に水を満たし、一種の催眠術で他者の心を覗く術を心得ていた。

 張屏は蘭珏の境遇に同情し、20年前の真相を明らかにする捜査に協力を申し出る。次第に明らかになったのは、20年前、蘭珏の父親は、ある少数民族の女性とともに南方に赴いたこと。時を同じくしてその民族が暮らす、嶺南道(唐代では広東・広西あたり)の摩籮村が焼き打ちにされたこと。張屏の「鏡花水月」は摩籮村に伝わる術で、張屏のかすかな記憶に残る母親は、摩籮村の女性らしいこと、などだった。

 このまま核心に迫るかと思われたところに登場したのは、かつて蘭珏と知己の間柄だった清辜章。今よりさらに不遇だった時代の蘭珏の支えとなった、気骨ある青年。10年ぶりの再会を喜ぶ蘭珏だが、張屏はおもしろくない。これ、ブロマンス三角関係ドラマなのか?と苦笑した。【ネタバレ】この清辜章こそが黒幕だった。30年前、いまの太后(李妃)は皇子を出産したが、病に苦しむ皇子の生命を救うため「回生陣法」の呪術を用いなければならなかった。この呪術を執り行った呪禁科の首領・玄機は、皇子を別の赤子とすり替えたのだった。たまたまその場に立ち会ったのは、のちに張屏の母親となった摩籮村の女性。殺されかけた皇子を連れ帰り、張屏(幼名・苦若)とともに育てた。10年後、彼女は上京し、縁のあった蘭珏の父親・蘭林に相談した。驚いた蘭林は、皇子に会うため南方に下ったが、事の露見を恐れた太后によって、蘭林も、摩籮村の人々も抹殺されたのだった。しかし真の皇子は生き残り、太后に復讐するため、清辜章となって帰って来た。

 清辜章は、拉致した太后に、王城の人々を嬲り殺しにする様子を見せつけようと、赤色の毒粉「血霧」を宙に放った。蘭珏、張屏らは、マスクで防護した人々を誘導して高台に避難させ、塩と火薬を混ぜた砲弾を打ち上げて人工雨を降らせ、血霧を鎮めることに成功する。実母を憎み切れなかった清辜章は、ひとり血霧の中に消えていった。

 蘭珏(井柏然)、張屏(宋威龍)、清辜章(汪鐸)は、それぞれタイプの違うイケメンで目の保養になった。主人公たちの友人あるいは補佐役の陳筹(郭丞)、王硯(洪堯)、それから旭東(强巴才丹)も好きなキャラだった。皇帝は、あまり風采の上がらないタイプで、申し訳ないが、もっとカッコいい俳優さんを当てればいいのに、と思ったが、展開に従って納得した。高貴な血筋ではないけれど、よき皇帝になろうとする覚悟が好ましかった。あと小悪党の玄機(楊雲棹)もよかったなあ。地味に怖いのだ。美術や音楽も独特のセンスがあって好きだった。ホラーな場面、特殊効果ではなく、舞台演劇的な演出が印象的だった。

 男子たちの友情と、母子あるいは父子関係が主軸のドラマで、男女の恋愛エピソードは全くなく、そもそも、そういう対象の女性キャラが登場しないことに途中で気づいたが、特に違和感はなかった。しかし最終話で、蘭珏が妻子の存在を匂わせるセリフを言っているのは原作にあるんだろうか。どうも「ブロマンス」規制対策なのではないかと思われる。そんなこと、しなくてもいいのに。

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恐れ知らずのロードムービー/中華ドラマ『歓顔』

2023-08-13 19:12:49 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『歓顔』全18集(企鵝影視、新自序影視制作、2023年)

 出演者に好きな俳優さんが多かったので、軽い気持ちで見たら面白かった。物語は、1930年の広東省の汕尾から始まる。青年・徐天の父親は南洋で事業に成功し、中国共産党を支援していた。徐天は父親の言いつけで、金塊(延べ棒)を指定された共産党員に届け、親の定めた婚約者に会って結婚するため、上海に向かおうとしていた。

 上海まで徐天を護衛することになったのは中年男の老孫。しかし汽車の中で盗賊団に襲われ、金塊は三本に割れ、徐天は婚約者の写真と手紙の入った財布を奪われる。福建省(閩西)の田舎町の質屋で財布は取り返したものの、逆に金塊を強奪されてしまう。老孫は旧知の仲の王鵬挙を訪ね、王鵬挙は、馬天放・胡蛮の二人を誘って夜半に質屋を襲撃する。しかし金塊は、心変わりした胡蛮に持ち去られてしまう。

 老孫と徐天がたどりついたのは、巨大な土楼。二人は、この一帯を治める兪家の筆頭人・兪亦秀に助力を請う。しかし兪亦秀が招集した一族の重鎮たちは、二人が質屋を襲撃し、兪家の面目を潰したことを非難する。そして徐天が目を離した隙に、老孫は撃ち殺されてしまう。老孫を殺害したのは兪亦秀だった。老孫は自分の命を差し出して兪家の面目を贖うとともに、金塊と徐天の無事を守ることを兪亦秀に託したのだった。

 金塊を持ち去った胡蛮は、江西省の都会で賭け事に興じていた。徐天は兪舟と名乗る男に出会う。滅法賭けに強い兪舟は、思いを寄せる女性の声を電話でひとこと聴くため、徐天に仲介を頼み、徐天に条件として示された金塊を胡蛮から取り戻す。一方、老孫との約束を守ろうとする兪亦秀は、自分の命を賭けて兪舟との勝負に挑み、敗れる。

 ようやく金塊を取り戻した徐天の前に現れたのは馬天放。馬天放の正体は国民党の工作員で、徐天が上海で金塊を渡すはずの共産党員を狙っていた。二人は汽車の中で揉み合いになり、負傷した徐天は浙江省の田舎町で医師の手当てを受ける。隙を見て逃げ出した徐天を助けてくれたのは、共産党シンパの医師・章加義とその妻の刀美蘭だった。

 ついに上海に到着した徐天。しかし婚約者の仰止は、すでに国民党の監視下にあった。安徽省から連れて来られた孤児の賈若蘭は、ずっと仰止に成りすまして徐天と文通するうち、いつか徐天に恋をしていた。賈若蘭に出会った徐天は、彼女が偽物であることを見抜く。徐天の愛を得られず、絶望して死を選ぶ賈若蘭。そして馬天放を追ってきた章加義と、武器オタクの商売人・陶涛の協力で、徐天は仰止を救出し、共産党員に金塊を渡して任務を終える。まずまずのハッピーエンド。

 この荒唐無稽な物語に不思議な魅力があるのは、登場人物たちに一定のリアリティがあるからだろう。いちおう主人公は共産党を支持し、敵方は国民党ということになっているが、そこはあまり重要ではない。主義や思想ほど尊いものでなくても、自分の欲しいもの、あるいは自分が大事だと思うもの、金、権力、愛情、家族、たまたま交わした約束など、何かのために全身全霊を賭ける人々が登場する。その「何か」の前では、自分の命も通俗的な善悪も意味がないので、彼らはどんどん殺し合い、死んでいくが、湿った感傷はない。中国の史書や伝奇に登場する「侠客」の生き方・死に方に通じるものがあるように思った。

 徐天はのんびりしたお坊ちゃんで登場するが、最後は立派な過激派に成長する。董子健、やっぱり巧い。私が好きだったのは、張魯一が演じた兪亦秀。くせもの揃いの登場人物の中でも、極めつけに理解しがたい変人なのだが、童子のような無邪気さが魅力だった(Far away!)。中国語タイトル「歓顔」は笑顔の意味らしいが、英語タイトル「Fearless Blood」(恐れ知らずの血)との合わせ技が洒落ている。

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官家(皇帝)のつとめ/中華ドラマ『清平楽』

2023-07-29 23:52:54 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『清平楽』全69集(湖南衛視、騰訊視頻、2019年)

 中国ドラマファンの評判がよいことを聞いていたので、いつか見ようと思いつつ、機会がないままになっていたら、5月からBSで『孤城閉~仁宗、その愛と大義~』のタイトルで日本語字幕版が始まった。しかし私はBSを見られる環境がないので、ネットで中文版の視聴を始め、気がついたらBS放送を追い越して視聴を終えてしまった。結果は、たいへん満足している。さすが正午陽光影業のクオリティだった。

 ドラマは北宋皇帝・仁宗(趙禎)の少年時代から始まる。仁宗は、父の真宗の崩御により幼くして即位したが、政治の実権は太后・劉氏が握っていた。仁宗は、宮廷から遠ざけられた生母の李氏に一目会うことを願うが、太后は許さず、李氏は身罷ってしまう。やがて太后も没し、青年・仁宗は自身の政治を開始するが、少年時代の経験は彼の生涯に大きな影響を与えていく。

 問題のあった最初の皇后が廃されたのち、廷臣たちが仁宗に奨めたのは、曹丹姝との婚姻。丹姝は兄たちに混じって武芸をたしなみ、男装して学者・范仲淹の講義を聴きに行くなど、聡明で自立した女性。新しい政治に意欲的な若き皇帝の噂を聴き、その大業を支えたいと強く思う。仁宗は皇后として完璧な丹姝に敬意と信頼を抱きつつ、太后の姿を思い出して、親しむことができない。

 一方、仁宗は、身分の低い舞姫の張妼晗が一途に自分を慕う姿に慰められ、後宮に入れて寵愛する。このへんは後宮ドラマの定石どおりで『延禧攻略』や『如懿伝』に描かれた女の戦いを思い出した。しかし本作は、「後宮」(女たちの世界)と「前朝」(廷臣たちの世界)の両方に目配りし、仁宗の政治や外交の事跡も丁寧に描いていく。多くの人材を登用したと言われるとおり、韓琦、晏殊、范仲淹、富弼、欧陽修、蘇舜欽など、多士済々。知っている名前も多かったし、知らない名前は調べた。悪役の夏竦も、めんどくさい司馬光も、人間的な魅力が感じられた。仁宗自身も、果断に白黒をつけるよりは、恨みが残らないよう、廷臣の話をよく聞き、バランスをとっていくのが官家(皇帝)の仕事だと思っているようだった。

 仁宗は子女には恵まれなかった。曹皇后は一度も懐妊することなく、貴妃の苗心禾が生んだ皇子・最興来は2歳で夭折した。張妼晗も何度も幼い皇女を失っている。仁宗は、ひとり寂しく亡くなった生母の李氏が、自分の子供たちを取り上げているという考えに囚われるようになる。そして、ただひとり成長した皇女の徽柔(母親は苗心禾)を李氏にゆかりの李瑋に嫁がせようと考える。

 徽柔は、尊敬する曹皇后を放置して張妼晗の勝手気ままを許している父親に厳しい眼を向けてきた。その徽柔が恋心を抱いたのは、皇后の甥でもある曹評。だが、仁宗は李瑋との結婚を強要する。絶望した徽柔の心の支えとなったのは、幼いときから影のように付き従ってきた内侍(宦官)の梁懐吉。しかし梁懐吉との親密さを疑われ、徽柔は宮城に戻され、廷臣から梁懐吉の死罪を求める声が上がる。ひたすら懐吉のために許しを請う徽柔。後宮の秩序を乱す張妼晗をあれほど嫌っていた徽柔が、人を恋うる情でいっぱいになって、何も見えなくなっているのが、哀れで美しかった。

 仁宗は懐吉に下すべき罰は下すが、その命は守り抜く。官家(皇帝)の仕事は「民生」「愛民」だが、その民はどこにいるか。朕のまわりにいる内侍や宮女たちも民である、と仁宗は説く。別の場面(曹皇后と二人きりの場面)では、自分は聖君ではないから全く私情を残さない行為はできない、とも語っていた。ひとり娘の徽柔に甘くなるのは当然の人情である。私情や私欲を肯定して、さらに民の利益を考える、ちょっと新しい皇帝の姿じゃないかと思う。仁宗、最晩年に皇后に向かって「生まれ変わったら、もう一度官家になりたい」と言うのだが、ええ、こんなに気苦労の多い仕事を?と驚いた。

 懐吉をはじめとする宦官の描き方も新鮮で印象的だった。少年時代から仁宗のそば近く仕えるのは張茂則。篤実な人柄で、曹皇后に秘めた思いを抱くような描写もあるが、つねに仁宗に忠義を尽くす。徽柔(福康公主)と梁懐吉の話は史実として記録に残っているのだな。知らなかった。懐吉が公主の嫁ぎ先の義母から「不男不女的怪物」と罵倒されたときは、聞くだけでこっちの胸が痛んだ。運命を受け止めて生きていく人々の気高さ。でも懐吉も茂則も、本当の胸の内は言葉にせず、表情だけで視聴者の読み解きに任せるところが、品のよいドラマである。

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謀略戦と家族愛/中華ドラマ『無間』

2023-05-16 22:21:44 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『無間』全40集(騰訊視頻、2023年)

 このところハマる中国ドラマがなくて、何話か見ては撤退するものが続いていたので、思い切って今まであまり見たことのないジャンルに手を出してみた。本作は、抗日戦争末期の上海を舞台とする陰謀劇である。

 孤児院育ちの陸風(靳東)は、謎の男・閃官によって特工(スパイ)として育成された。日本留学から帰国した陸風は閃官から76号(親日政権の汪兆銘/汪精衛政府と日本軍によって設立された特務工作機関)への潜入を命じられる。さらに閃官は陸風に天皇特使の暗殺を指示。陸風がこれを実行したことで、76号は信用を失墜して瓦解、陸風も追われる身となる。

 閃官は独自の特務組織「幽霊機関」を率いて、軍統(軍事委員会調査統計局、国民党の秘密工作組織)副局長の牧渓鶴に奉仕していた。陸風の孤児院時代の幼なじみ・霍飛は幽霊機関の一員となっており、やはり孤児で閃官を義父として育った花向雨に思いを寄せている。しかし花向雨は、日本から帰国の船で知り合った陸風と心を通わせ合っていた。

 やがて陸風は共産党員の陳浩民に出会い、自分の父親・苗長天が「火鳳凰計画」(張作霖暗殺計画)に参加しながら、仲間の裏切りによって命を落としたこと、その裏切り者が閃官であることを知る。閃官は日本の間諜だった。次いで閃官は陸風の殺害を霍飛ら配下の者に命じるが、陸風は軍統の牧渓鶴に接近して庇護を受ける。その実、陸風の本心は軍統にはなく、共産党の特工・沈嘯の手引きで入党を申請するとともに、閃官への復讐を誓う。この頃、閃官・牧渓鶴らの注目は「繁星計画」と呼ばれる日本間諜の名簿の存在だった。解読された名簿には、閃官の名前とともに陸風の名前が記載されていた。これが陸風を危機に陥れるための謀略とは知らず、動揺する花向雨。しかし陸風は、まだ自分の真実の生い立ちと信条を花向雨に告げることができない。「私は誰?」「あなたは誰?」に悩む人々。

 花向雨もまた、自分の父親を捜していた。その結果、義父と思っていた閃官が実の父親であることを知る。閃官は清朝の遺老で、彼に忠誠を尽くす優秀な特工たちを養成し、日本人を利用し、国民党や共産党を排斥して清朝の復興を夢見ていたのである。

 さて、米国政府の使者が中国を訪問し、国民党政府と会談を行うことになった。会談が成功すれば、日本軍には決定的な打撃となる。延安の共産党指導部は、米国代表の安全を確保することを沈嘯・陸風らに指示した。閃官は会談の阻止と陸風の抹殺を特工たちに命じる。陸風は、途中で合流した花向雨とともに米国代表を守り抜き、多くの仲間の犠牲を払いながら、米軍の駐屯基地に送り届けた。これによって日中戦争の帰趨は決まり、閃官は、陸風と花向雨の面前で、かつて清朝皇帝から下賜された毒酒を仰いで自決する。

 以上は、かなり省略したあらすじで、ドラマはもっと登場人物が多く、人間関係も複雑に込み入っている。最も複雑な性格付けをされているのが閃官で、張志堅さん無茶苦茶よかった!やっぱりこのひとは腹黒い役が巧い。どんな修羅場に登場するときも、自分では武器を持たず、手勢の者たちに守られながら颯爽と黒い長袍をなびかせて現れる。家族や王朝へのこだわり、自決方法のオールドファッションなところも素晴らしくよかった。

 逆の立場になるのが沈嘯。はじめは親日テロ組織76号の所長として登場し、反派(悪役)として死んで終わりかと思ったら、実は代号「青衣」という共産党の高級特工で、陸風を導く役割を担う。演者の奇道さんは、本作の導演・編劇も担当している。渋いおじさんだけどイケメンになり切れない愛嬌があって好き。沈嘯と、小心者の上司・任主任(石文中)の奇妙な連帯意識も面白かった。謀略家の牧渓鶴(王志文)と、ボスの頭脳についていけない左教官(曹磊)も微笑ましく、見ているうちに、じわじわ愛着の湧くキャラが多かった。みんな生き残ってもらいたかったのであるが…。

 女性では、はじめ76号の一員で、最後まで陸風と行動をともにする藍冰(啜妮)がよかった。陸風が好きなの?沈所長じゃないの?と思ったが、終盤の回想で、沈嘯は父親代わりだったんだな、と分かった。小柄で子供っぽいところが役に合っていた。ふだん見ないジャンルのドラマを見たことで、新しい俳優さんを知ることができた。対立する勢力間の謀略戦というのは、どの時代を舞台にしても面白いと思うが、日本のドラマには、こういう舞台ってあるのだろうか。

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黒社会の群像/中華ドラマ『狂飆』

2023-03-23 23:33:25 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『狂飆(きょうひょう)』全39集(愛奇藝、留白影視、2023)

 中国南方の臨江省京海市(架空の都市)を舞台に、20年にわたる警察と「黒社会」集団の闘いを描いたドラマ。中国では今年の年頭から放映が始まり、大ブームを巻き起こした。「掃黒除悪」(黒社会の一掃)を掲げる中国共産党の「指導」が入ったドラマなのだが、確かに面白かった。

 物語の発端は2000年、旧暦の大晦日。旧廠街の市場で借店舗の位置をめぐって唐小龍、唐小虎兄弟と揉め事を起こした魚売りの高啓強は警察に逮捕される。高啓強を親代わりに育った弟の高啓強と妹の高啓蘭は、兄のために年越しの餃子を差し入れる。情に厚い警官の安欣は、規則を曲げて、そっと高啓強に餃子を食べさせる。これが高啓強と安欣の最初の出会いだった。

 それから高啓強は、いつの間にか唐兄弟の兄貴分となり、殺し屋の老黙に恩を売り、ナイトクラブ「白金瀚」の支配人・徐江を亡き者にし、徐江に殺された白江波の妻・陳書婷と結婚し、京海建工集団の理事長で黒社会にも睨みをきかす陳泰(泰叔)の義理の息子に収まるなど、出世の階段を駆け上がっていく。

 2006年、高啓強は京海建工集団の幹部として、莽村という農村の土地買収を進めていたが、村の党支部書記の李有田は、欲得から高啓強に対抗する。高啓強は老黙を送り込み、莽村で人身事故を起こさせるが、この捜査に当たったのが、安欣とその同僚の李響。李響は黒社会の「保護傘」になっている市政府要人の捜査にも取り組んでいた。一方、高啓強は京海建工集団内の権力闘争で泰叔を追い落とし、李有田の息子の不良青年・李宏偉が安欣の恋人・孟鈺を誘拐する事態になったり、高啓強の弟・啓盛が薬物売買に関与していることが判明したり、次々に事件が起きる。高啓強は老黙に李宏偉とともに爆死することを命じ、弟の潔白を守ろうとするが、警察の策略に嵌ってしまう。啓盛は李響を道連れに飛び降り自殺をして、兄の名誉を守る。弟を失い、妻の陳書婷からも「家に戻りたくない」と告げられる高啓強。相棒の李響を失い、恋人の孟鈺に自ら別れを告げる安欣。孤独な二人の交錯(第26集)が印象的だった。

 そして2021年。高啓強は、京海建工集団あらため強盛集団を率い、市長の趙立冬の引き立てで市の政協委員を務めているが、黒社会での権勢も失っていない。妻の陳書婷は既に亡く(死の真相は最終話直前に語られる)、陳書婷の連れ子だった暁晨と老黙の遺児の黄瑶と暮らしている。妹の啓蘭は医者となり、縁あって安欣の主治医をしていた。ここに省政府から、京海市の「掃黒除悪」を使命とするチームが派遣されてきた。リーダーの徐忠と補佐の紀澤は、高啓強を深く知る安欣の話を聞き、チームに加わることを要請する。はじめは固辞していた安欣だが、再び高啓強との対決に乗り出す。

 安欣のかつての恋人・孟鈺は、安欣の同僚だった楊健と結婚し、楊健は供電局副局長に転身していた。2014年、楊健が副局長のポストを争った王力は、路上で銃撃事件に遭い、職を辞している。徐忠らは、この一件に高啓強の関与を疑い、捜査を進めていく。実はこの事件は、高啓強の息子の暁晨が、若者の無鉄砲から引き起こしたものだったが、高啓強は息子を守ろうと奔走する。同じ頃、香港から来た黒社会の企業家・蒋天も事件の真相を嗅ぎつけ、高啓強に取り入ろうとしたが、以来、両者は闘争状態にあった。

 高啓強は趙市長に助力を乞うが、そろそろ高啓強に見切りをつけようとする市長はつれない。結局、自ら手を下して蒋天の始末をつけた高啓強だったが、蒋天に忠誠を誓った殺し屋・過山峰の復讐の手が伸びる。最後は安欣に救われ、逮捕された高啓強は、裁きを受け、死刑に処せられた。死すべき悪人は死し、生き残った悪人たちは捕えられて、それぞれ相当の刑罰が言い渡された。

 結末はあっけないが、そこに至るまでのさまざまな人生の錯綜が味わい深かった。黒社会の人々も決して一面的な描き方ではなく、寡黙な殺し屋の老黙も、短気で息子思いの徐江も好きだった。序盤のチョイ役だと思った唐兄弟(特に小虎)が終盤まで高啓強に従う姿もよかった。ダメ弟の啓盛も最後に思わぬ漢気を見せたし。高啓強は、陳書婷への一途な愛情を含め、ひたすら「家族」を守ろうとして、結局、何も得られない人生だったように思う。最後に監獄の面会室で安欣の差入れた餃子を食べながら、違う人生もあり得たかも、とつぶやく姿が寂しげで胸に沁みた。高啓強を演じた張頌文は、2000年の田舎っぽい兄ちゃん→2006年の成金ヤクザルック→2021年の上品な中年紳士の、メリハリある三変化が見事だった。ロケ地は広東省江門市で、ドラマの影響で大変な観光ブームらしい。行ってみたいなあ。

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大明の普通の人々/中華ドラマ『顕微鏡下的大明之絲絹案』

2023-02-26 23:58:08 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『顕微鏡下的大明之絲絹案』全14集(愛奇藝、2023年)

 明・万暦年間、江南地方の仁華県に住む豊宝玉とその友人・帥家黙は、賭場のトラブルから膨大な帳簿の整理を押し付けられる。帥家黙は「算呆子」(算術バカ)と呼ばれる青年で、帳簿の中にあった土地契約書を見て、仁華県の税制に疑問を抱く。

 仁華県、攬渓県、同陽県など8つの県は金安府の下に置かれていた。調べてみると、なぜか仁華県は「人丁絲絹税」について他の7県分を負担しており、支出額は毎年三千五百三十両に上る。豊宝玉と帥家黙は、この計算間違いを正そうと仁華県の県庁に訴え出るが、当然、他の7県の関係者は反発する。当の仁華県の方知県(県知事)も金安府の黄知府(府知事)も敢えて混乱を望まず、訴えは却下されてしまう。

 豊宝玉と帥家黙の訴えに最も強く反発したのは攬渓県の毛知県で、手下の鹿飛龍に命じて二人を亡き者にしようとするが失敗。二人は金安府に訴えようとするが妨害されて果たせず、攬渓県を巡察中だった巡按御史に訴え出る。劉巡按は二人が攬渓県の文書庫に入って調査することを許すが、その晩、劉巡按が郷紳の范淵の宴席に招かれている間に、失火のため文書庫が焼失する。

 焼死を免れた帥家黙は、幼い頃、両親を火事で失ったこと、仁華県の官吏だった父親が最後の日に「絲絹全書」と題した冊子を見ていたことを思い出す。帥家黙は「人丁絲絹税」の真相を究明するため、黄知府らに「賦役白冊」の調査を求め、許される。その結果、判明したのは、他の7県が負担すべき賦税を「人丁絲絹税」の名目で仁華県に押し付けてきたからくりだった。これを公平な姿に戻すには、金安8県の田地を測量し直す必要がある。審議の場に同席した按察使司僉事(せんじ)の馬文才も再測量に同意した。

 しかし実際の測量は、権力者の所有する田地を避け、零細農民に負担を押し付けるかたちで行われた。農民たちの不満は高まり(さらに権力者の手下の煽動に乗せられ=中国ドラマではよくある描写)暴徒となった農民たちは県庁に押し掛ける。全ては馬文才の計画どおりで、測量中止を宣言するとともに、宋通判の進言を容れて、騒動の原因となった帥家黙と豊宝玉の処刑が命じられた。間一髪、二人を救ったのは状師の程仁清(状師=訴訟の請負を職業にした人々)。彼は帥家黙の父親の著作「絲絹全書」を入手し、巡撫・右副都御史(ドラマの中では最上級の官職)の李世達一行を連れて戻ってきた。

 そして李巡撫による詮議が行われ、攬渓県の文書庫放火の真相、帥家黙の両親の死の真相が次々に明らかになる。大量の田地を隠匿していた郷紳の范淵には税が追徴され、新たに正確な田地測量が行われ、農民たちに平和な生活が戻った。

 はじめ、タイトルの「顕微鏡下(マイクロスコープ下)」の意味が分からなかったが、とある一地方の無名の人々の物語というニュアンスかと思う。日本の大河ドラマと同じで、中国の歴史劇も皇帝や大官を主人公にしたものが多いので、本作の設定は新鮮だった。中国語ネットの情報によれば、本作は馬伯庸の『顕微鏡下的大明』シリーズ6編の1編だという。ぜんぶ読んでみたい。

 主人公の帥家黙(張若昀)は特異な性格づけをされているが、他の登場人物はいかにも「普通」の人々である。特に地方官のおじさんたちは、善も悪もそこそこで、それぞれスルメのように味わい深かった。小役人は小役人らしい、上級職は上級職らしい配役で笑ってしまった。全体としては訴訟→弁論のシーンが多く、一種の法廷ドラマでもある。長口舌とアクションの両方で見せ場があるのは程仁清(王陽)。短いセリフにさすがの迫力を感じたのは范淵(呉剛)で、豊宝玉に脱税の疑いを指摘されると「それを徐老に言ってみろ」と傲然と言い放つ。宮廷政治家の徐階は二十四万畝の荘園を保有していたというのだからスケールが違う。

 ネット記事によれば、金安八県は金華八県がモデルで、仁華県は金華県にあたるという。金華ハムの金華! だから豊宝玉の姉で、孤児の帥家黙の面倒も見ている、鉄火肌の豊碧玉ねえさんは火腿舗(ハム屋)の老板なのか。気づかなかった。

※2/28追記:引き続き調べていたら、程仁卿という実在の人物がいて『絲絹全書』八巻という著作を残していることが分かった。さすが馬伯庸、こういう文献からネタを拾うのだな。程仁卿は安徽省安慶市潜山県の人(安慶市といえば陳独秀の故郷だ)。小説は実在人物の名称を用いており(帥家黙は帥嘉謨)、安徽省歙県が舞台になっている。小説全文もネットで読めるようだが、ドラマほど気軽にチャレンジはできないなあ…。

参考:99蔵書網『顕微鏡下的大明

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オールドファッションの魅力/映画・崖上のスパイ

2023-02-20 00:44:51 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇張藝謀(チャン・イーモウ)監督『崖上のスパイ』(新宿ピカデリー)

 1930年代、抗日戦争下の満州国。ソ連で特殊訓練を受けた共産党のスパイ4人組(男性2人:老張、楚良、女性2人:王郁、小蘭)がパラシュートで雪原に降り立つ。彼らの任務は、日本軍の極秘実験の詳細を知る人物・王子陽の国外脱出を助け、日本軍の非人道的な振舞いを世界に知らしめること。作戦名はロシア語で夜明けを意味する「ウートラ」。4人組は、男性1人、女性1人ずつの2組に分かれ、ハルピンを目指す。

 その頃、満州国特務科長の高彬は、すでに共産党の動向を察知し、共謀者の謝子栄の口を割らせて、4人組に関する情報を得ていた。高彬の部下の周乙、魯明は、共産党の同志を装って、楚良と王郁に近づき、彼らを監視下に置く。老張と小蘭はハルピン潜入に成功するが、老張は単独行動の際に捕えられ、厳しい拷問を受ける。

 脱走を企てた老張を助けたのは特務科股長(係長)の周乙だった。彼は特務科に潜入した共産党のスパイだったのだ。しかし老張は脱出に失敗し、最終的に命を落とす。高彬は特務科内に内通者がいることを疑い、部下の周乙、金志徳の行動を監視しながら、最後に残ったスパイ・小蘭を捕えようとする。周乙は、楚良と王郁の逃亡を助けようとするが、特務部隊の追撃を受け、追いつめられた楚良は服毒して命を絶つ。しかし周乙は小蘭との接触に成功。

 後日、人気のない雪山の道路には、王子陽を国外に送り出す周乙と小蘭の姿があった。そののち、周乙は、山の中に隠れ住む王郁のもとに1組の少年少女を連れて現れる。それは老張が探していた、彼と王郁の子供たちだった。

 あらすじは以上。スパイや二重スパイが絡むものの、善悪の描き方はわりと単純で、謎解き風味は薄い。敵味方の間で、次々に展開する多様なアクション(汽車の中だったり、入り組んだ路地裏だったり、クラシックカーのカーチェイスだったり)と頭脳戦を楽しむエンタメ作品である。全編、雪の中(ほとんどの場面で雪が降り続いている)が舞台で、登場人物たちは毛皮の襟つきのぶ厚いコートと防寒用の中折れ帽、あるいは毛糸の帽子と襟巻に埋まり、個性や表情を最小限しか見せない。映像も人物の行動様式も、ストイックでオールドファッションな美学で貫かれている。

 主役はスパイ4人組(老張=張訳、楚良=朱亜文、王郁=秦海璐、小蘭=劉浩存)なのだろうが、個人的には特務科の面々が、ドラマでおなじみの俳優さんばかりで楽しかった。何を考えているのか測りがたい冷徹な特務科長・高彬に倪大紅。共産党の二重スパイで八面六臂の活躍をする周乙に于和偉。食えない下っ端特務官の金志徳に余皑磊。この配役、考えられる限り最高である。さらに共産党の仲間を売って高彬の追従者に成り下がる、臆病者の謝子栄を演じる雷佳音もよい。ちなみに本編完結の後に、裏切者の謝子栄が周乙に「成敗」されるシーンが、やや唐突に挿入されている。この雷佳音と于和偉の演技が、無駄に見応えがあって眼福だった。

 本作は中国では『懸崖之上』のタイトルで2021年に公開されているが、2012年に放映された連続ドラマ『懸崖』の前日譚であるという記述を中国語wikiに見つけた。調べたら、周乙を張嘉益が演じているのか。なるほど。CCTVチャンネルで視聴できそうなので、そのうち見てみようかしら。

 また『懸崖之上2』の制作が予定されているという情報も見た。チャン・イーモウ監督の、まだまだ面白い作品を撮り続けたいという意欲には敬服する。本作も含め、最近の中国映画は、明らかに「共産党のプロパガンダ映画」の枠に嵌められているけれど、でも確実にエンタメ作品として面白いのだ。とりあえず私は、今年の春節映画『満江紅』が早く見たい。

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