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見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。
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初春は不思議のキツネ/文楽・本朝二十四孝

2025-01-13 22:07:08 | 行ったもの2(講演・公演)

国立文楽劇場 令和7年初春文楽公演 第3部(2025年1月11日、17:30~)

 今年も大阪の国立文楽劇場で初春文楽公演を見て来た。恒例のお供えとにらみ鯛、と思ったら、「黒門市場様からのにらみ鯛の贈呈は、5年ぶり」と書いてあった。2020(令和2)年以来ということか。この年の正月明けから新型コロナが猛威を振るったのである。コロナ禍の間も、初春文楽公演にはにらみ鯛が飾られていたようだが、黒門市場のサイトによれば、2021年のにらみ鯛は2020年末に奉納したものだったり、2022年は奉納がなかったり(劇場は別ルートで入手?)したらしい。

 「大凧」に干支の「巳」文字を揮毫したのは、赤穂大石神社の飯尾義明宮司。国立文楽劇場は、開場40周年を記念して、昨年11月の公演とこの初春公演第2部で、大作『仮名手本忠臣蔵』の大序から九段目までを通し上演している。

 しかし私は、武士の忠義より伝奇スペクタクルが好物なので、やっぱり第三部の『本朝廿四孝(本朝二十四孝)』を選んでしまった。2階ロビーでは毛色の異なる三匹のキツネちゃんがお出迎え。彼らは昭和の新作文楽『雪狐々姿湖(ゆきはこんこんすがたのみずうみ)』に登場する白蘭尼、コン蔵、右コンとのこと。揃ってもふもふである。

・第3部『本朝二十四孝(ほんちょうにじゅうしこう)・道行似合の女夫丸/景勝上使の段/鉄砲渡しの段/十種香の段/奥庭狐火の段』

 「道行似合の女夫丸」はあまり記憶になかったのだが、自分の記録を調べたら、2020年に見ていた。「景勝上使の段」以下は何度も見ており、直近では2022年に国立劇場で見ている。八重垣姫は、今回と同じ吉田蓑二郎。むかし「十種香」を蓑助さんで見たり、「奥庭狐火」を勘十郎さんで見た記憶がどうしてもよみがえって、それに比べると蓑二郎の八重垣姫は、悪くないけどふつうの娘さんだなあと、ぼんやり思っていた。しかし「奥庭」のクライマックス、白地に狐火文の衣に早変わりしてからの激しい動きには目を見張った。この演目、歌舞伎(日本舞踊)にもあるが、そこで演じられる所作のスピードと、飛び上がり跳ねまわり、身体を左右にスイングして舞い狂う文楽人形のスピードは全く別次元である。もちろん乱暴に人形を振り回せばいいわけではなく、高貴な姫君の品格を忘れてはいけない。生身の人間らしさと、人間を超えたものになろうとする不可思議さのブレンドが絶妙だった。眼福。

 狐火(火の玉)はゆらゆらと流れ、諏訪法性の兜は、白いヤクの毛をひるがえし、意志あるもののように宙に浮かぶ。「奥庭」はキツネちゃんの印象が強いのだけど、四匹勢ぞろいするのは、本当に最後の最後なのだな。今回、私は最前列の席(上手寄り)だったので、キツネちゃんたちの表情も、それを操る人形遣い(出遣いだがプログラムに名前の記載はない)の皆さんの顔もよく見えて楽しかった。

 八重垣姫は深窓育ちのお姫様のはずだが、勝頼=箕作に恋したあとの、恥じらいつつも強引な迫り方には、この子、ギャルだな、と思ってしまった。しかし、この向こう見ずさがなければ、諏訪明神も憑依しないのだろう。一方で、ある意味、八重垣姫の一途な恋心を利用して諏訪法性の兜を武田方に取り返そうとした腰元・濡衣は、冷静沈着な仕事のデキる女性で好き。

 「十種香」で久しぶりに錣太夫と宗助を聴けたのもうれしかった。「奥庭」は芳穂太夫と錦糸で安定感あり。残念なのは、こんなに面白い舞台なのに空席が目立っていたこと。そして東京の国立劇場が閉場して1年以上になるが、やっぱり常設の劇場があるのはいいなあと思った。

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ICE STORY 3rd “Echoes of Life” TOURディレイビューイング

2024-12-31 21:16:49 | 行ったもの2(講演・公演)

〇「Yuzuru Hanyu ICE STORY 3rd “Echoes of Life” TOUR」埼玉公演ディレイビューイング(2024年12月14日13:00~、TOHOシネマズ日比谷)

 遅くなったけど書いておく。羽生結弦くんの単独公演「Echoes of Life」は、いま埼玉→広島→千葉を巡回中だが、埼玉公演の初日をディレイビューイングで見てきた。単独公演シリーズを見ることにはちょっと躊躇があったのだが、今年4月にやはりディレイビューイングで見た「RE_PRAY」が文句なく素晴らしかったので、また見に行ってしまった。

 ストーリーの概要は、どこかで誰かが詳しく書いてると思うが、「人間」と「作られしもの」の戦争によって、生命体が死に絶えた世界。人間なのか非人間なのかよく分からない「NOVA(VGH-257)」という個体が目を覚ます。生命について、存在について、運命について、多くの疑問を抱くNOVAが出会った「案内人」は、その答えを見つけるための扉を指し示す。扉をくぐった先で、氷上の演技で示されるNOVAの思考、というような設定。

 最初の数曲はゲームやアニメに関係の深い楽曲だったらしく、私の知らないものばかりだったが「Utai IV ~Reawakening」が印象的だった。和風というかエスニックというか。その後、なつかしいショパンの「バラード第1番」の衣裳で登場した羽生くんは、ブラームス(たぶん)やバッハ(たぶん)のピアノ曲で次々に舞う。フィギュアスケーターには、バイオリンが似合うタイプとピアノが似合うタイプがいると思うのだが、彼の精緻で正確な音の捉え方は、ピアノ曲でこそ生きる気がする。多様なピアノ曲のハイライトを5曲滑ったあと、6曲目が「バラード第1番」だったのには息を呑み込んでしまった。初演日は1回、ジャンプの失敗があったが、その後の公演では完璧な演技が見られたそうだ。前半の最後はカッコよく「Goliath」で締め。

 後半に「Danny Boy」を滑ってくれたのも嬉しかった。羽生くんには、人間を超えた存在に祈りを捧げるようなプログラムがいくつかあるけれど、これもその1つで、新定番と言っていいだろう。呼応するように、ストーリーの中のNOVAくんも、自分に「愛してる」というメッセージを残してくれたVGH-127の存在を思い出し、荒れ果てた大地を癒し、草花を再生していくことに、自分の命の役割を見つける。壮大で美しいファンタジー。

 終演後、半袖の白Tシャツに黒ズボンというラフなスタイルで現れた羽生くんは、ニコニコ顔で喋りっ放し。この日(12月7日)は羽生くんの30歳の誕生日で、みんなでハッピーバスディを歌ってお祝いしたあと、「Let Me Entertain You」「阿修羅ちゃん」「SEIMEI」のアンコールも大盛り上がりだった。

 年明けの千葉公演、チケット取りに参戦しようかとも思ったのだが、3月の「notte stellata2025」がまた見逃せないことになりそう。彼と同じ時代に生きていることに感謝して、来年も追いかけていくだろう。

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昭和の新作を楽しむ/文楽・瓜子姫とあまんじゃく、金壺親父恋達引など

2024-12-08 21:14:54 | 行ったもの2(講演・公演)

江東区文化センタ- 令和6年12月文楽公演第1部(2024年12月8日、11:00~)

 国立劇場が休館になって以来、さまざまな劇場を代替に継続している東京の文楽公演。今季は、地元の江東区文化センタ-で開催されるというので、喜んで見て来た。私の江東区民歴はもうすぐ8年になるが、江東区役所の裏にある文化センタ-には初訪問である。

・『日高川入相花王(ひだかがわいりあいざくら)・渡し場の段』

 いわゆる道成寺もの。船頭から安珍の不実を聞かされた清姫は、怒りのあまり、蛇身となって川を泳ぎ渡る。人形ならではの大胆な変身ぶりが見もの。舞踊『京鹿子娘道成寺』の衣裳は赤い着物に黒い帯だが、本作の清姫は黒い着物(下に緋色の襦袢?)に赤い帯。蛇身のときは白一色で長い尾のような布を後ろに翻す。これ、筋書によると、山伏・安珍の正体は桜木親王で、清姫にいい顔をしながら、別の恋人・おだ巻姫のもとに走ったという設定なので、道成寺説話よりも救われない気がする。

・『瓜子姫とあまんじゃく』

 木下順二が執筆した作品を義太夫に移したもの。プログラムの解説にあるとおり、大阪の国立文楽劇場ではたびたび上演されてきた(夏休み公演が多い)が、首都圏で上演されるのは初めてとのこと。私も初見だったので、「瓜子姫は今日も楽しく機を織っていた」「瓜子姫は機織りが何より好きであった」という現代文口語体に若干とまどったが、すぐに気にならなくなった。この文体でも、ちゃんと三味線に乗って、浄瑠璃の体を為しているのだ。ただ、床から離れた席だったこともあって、千歳太夫さんの語りは、ちょっと聞きづらかった。瓜子姫の回想シーンに登場する山父は、一つ目一本足の怪物で、闇の中で一つ目が光る。不気味な演出がたいへんよい。あまんじゃくには長い尻尾が生えていたが、タヌキの類なのかな?

・井上ひさし生誕90年記念『金壺親父恋達引(かなつぼおやじこいのたてひき)』

 モリエールの戯曲『守銭奴』を井上ひさしが1972年に翻案した作品。私はこの作品が見たくて、今季は第1部のチケットを取ったのだが、芝居が始まったら、ん?これは見たことがあるかも?と記憶がよみがえってきた。調べたら、2016年の国立文楽劇場での初演をちゃんと見ていた。それにしても珍しい作品なので、第1部を選んだことは後悔していない。

 朝の段→昼の段→夜の段の3段構成で、文体は近世浄瑠璃ふう、というか、時々パロディも入る。金が命の金仲屋金左衛門は、持参金付きの町娘・お舟を後妻にもらうことになり上機嫌。ところがお舟は金左衛門の息子・万七と相思相愛の仲だった。金左衛門は娘のお高も呉服問屋の京屋徳右衛門に縁づけようとしていたが、お高は番頭の行平と相思相愛。この込み入った三角関係×2が、実は、京屋徳右衛門とお舟、行平が生き別れの親子だったというアクロバティックな展開で、無事に解決してしまうのである。このご都合主義も、古典演劇の「ありがち展開」のパロディなのだろう。そして、娘も息子も幸せに浮かれて出ていったあと、とりあえず手元に残った金壺を抱いてほっとする金左衛門。滑稽だけど、まあ年寄りが頼れるものはお金だからねえ、という侘しい共感がうずいた。

 藤太夫、靖太夫、亘太夫、碩太夫は、それぞれ二役以上を演じ分けて、聞きやすかった。碩太夫さん、まだ声が少し幼いのがかわいい。三味線は燕三さんが文句なし。『瓜子姫』の富助さんの演奏もそうだったけど、新作は聞きなれない旋律が多いので、新鮮で、とても楽しかった。

 満員の客席は、国立劇場の公演に比べるとカジュアルな雰囲気で、若者も多かった印象。こうやって地域の劇場に出張っていくことにもメリットがあるのかな、と思った。ただ、東京公演は12月も次の1月も一等席のチケット代が9,000円。大阪の1月公演が6,000円であることを思うと、劇場を借りる経費をチケット代に上乗せしているのではないかと思われる。入札の不調で再開場の目途が立たない国立劇場、早くなんとかしてほしい。

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2024フィギュアスケートNHK杯 in 東京

2024-11-11 22:41:09 | 行ったもの2(講演・公演)

2024NHK杯国際フィギュアスケート競技大会(11月8-10日、国立代々木競技場第一体育館)

 今年のNHK杯は東京と聞いて、現地で観戦したい気持ちが湧いていたが、ぼんやりしているうちにチケット発売日を逃して、気がついたら2日目/土曜日は完売になっていた。しかしグランプリシリーズの第1戦スケアメでの日本選手の演技、特にりくりゅうのSPの動画を見て、どうしても現地に行きたくなってしまい、初日/金曜日のチケットを取った(無事に年休が取れることを祈りながら)。

 そして初日、北側SS席の最後列(後ろは通路)だったが、現地に来られただけで満足。アイスダンス(リズムダンス)の冒頭から観戦した。日本選手のあずしん(田中梓沙&西山真瑚)、うたまさ(吉田唄菜&森田真沙也)、得点は伸びなかったけれど、堂々とした演技で楽しかった。しかし最後に登場したチョクベイは別格。赤いドレスのマディソン・チョックと、ネクタイにスーツ姿のエヴァン・ベイツは、古典的なミュージカル映画スターのようで、これはいいMAGA(Make America Great Again)とつぶやいてしまった。

 ペアはりくりゅう(三浦璃来&木原龍一)の「Paint it Black」が思った以上にカッコよく、大きな取りこぼしのない演技だったので大満足。他の皆さんもよかった。フィギュアスケートのカップル競技、シングルには出せないエモさがあって、その魅力にどんどんハマっていく。

 次いで男子シングル。ジェイソン・ブラウンが今ひとつだったけれど、あとはどの選手も全体的に好調だったのではないかと思う。それぞれが完璧に仕上げた演技での戦いは見ていて楽しい。そんな中でも会場を驚かせたのは壷井達也くん。鍵山優真くんは超絶的に完璧だった。1人おいて最後に登場した三浦佳生くんが初の100点超えだったのに歓喜。

 ここで群舞やエライおじさんの挨拶など1時間ほどのオープニングセレモニー。席でぼんやり見ていたけど、夕食タイムにすればよかったな。今年は場内で選手コラボメニューのドリンクやスイーツ(カオリのスコーンなど)販売があったのだけど、事前に情報収集していなかったので、全然気づかなかった。

 女子シングルも男子と似た展開で、青木祐奈さんが素晴らしい演技を見せる(祐奈ちゃん、今年のFaOIが最高に魅力的だったのでまた応援できて嬉しい)。これを軽やかに超えたのが千葉百音ちゃん。そして坂本花織さん、無駄にドキドキしてしまったけれど、揺るぎない安定感でトップに立った。シングルは男女とも1~3位を日本選手が独占という、歴史に残りそうな初日を見ることができた。

 2日目はテレビとネットで観戦。佳生くんの不調が残念だったなあ…。でもその不安定で未完成なところが彼の魅力でもある。女子は総合でもメダル独占。いまの日本女子の個性豊かなスケートは、私の見たかったものではあるけれど、ふと「ロシアっ娘たちの時代」をなつかしく思い出す。私が初めて観戦したNHK杯は2019年、コストルナヤやザギトワの出場した大会だったので。

 3日目のエキシビジョンはネット(NHKプラス)で観戦。これでこそ受信料の支払い甲斐があるというもの。しかしプロ転向の田中刑事くんや宮原知子ちゃんの演技を組み入れるよりも、海外選手の出場枠を増やすべきではないか、という批判が湧いていたのには完全同意。運営には再考を求めたい。2025年は大阪だそうだ。

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アイスショー"Fantasy on Ice 2024 静岡千秋楽"ライブビューイング

2024-06-26 22:15:45 | 行ったもの2(講演・公演)

Fantasy on Ice 2024ライブビューイング(静岡:2024年6月23日、13:00~、新宿ピカデリー)

 アイスショーFaOI(ファンタジー・オン・アイス)、今年はBツアーに羽生結弦くんが出演しなかったので、Aツアーに比べるとSNS上は格段に静かだった。それでも神戸、静岡の6公演(土曜2公演+日曜1公演)は、しっかり客席が埋まっていてよかった。お子さんや年配の方が多くて、いつものFaOIと雰囲気が違うという声や、地元向けの招待枠があったのではないか、という推測も流れていたが、それもいいと思う。私が初めてFaOIを見たのは2010年の新潟で、トップスケーターのクールな演技を、おじいちゃんおばあちゃんが、家族と一緒にニコニコしながら見ていたのを覚えている。なるほど、地方開催のアイスショーって、こういう「ゆるい」イベントなんだ、というのを知った瞬間だった。

 近年、羽生くんの出演するショーは、全国どこでもチケット争奪戦になっているが、今年のBツアーは、むしろ原点回帰でよかったのではないかと思う。地元招待で親に連れて来られたちびっ子から、未来のスケート選手やスケートファンが生まれないとも限らない。

 私は現地に行きたい気持ちもあったのだが、節約志向でライビュ観戦にしてしまった。スケーターはAツアーから、羽生結弦、山本草太、中田璃士、青木祐奈、上薗恋奈、パイポ―がOUT。織田信成、友野一希、チャ・ジュンファン、坂本花織、三原舞依、ライラ・フィア―&ルイス・ギブソンがIN。アーティストは石井竜也、一青窈、家入レオ。

 Bツアーのほうがイケメン度が上がった気がしたのは、チャ・ジュンファンくんに影響されすぎかな。家入レオさんとのコラボ「ワルツ」(ドラマ主題曲なのね)も「Golden hour」も眼福だった。ライラ/ルイス組は、家入レオさん「Silly」でしっとりコラボしたあと、後半は「ロッキー」で楽しませてもらった。フィギュアスケートのカップル競技、すっかり定番になった感じ。一青窈さんは織田くんとのコラボ「もらい泣き」もよかったけど、友野くんとのコラボ「他人の関係」に悶絶。私は金井克子を知っている世代だが、一青窈さん、ドラマ用にカバーしていたのだな。赤いキンキラジャケットでキレッキレに踊りまくる友野くんも、ルンバに寝転んで、自由に歌う一青窈さんも最高。ライビュ会場も手拍子で盛り上がった。

 いつもかわいい三原舞依ちゃんがイメージチェンジした「Survivor」も、髪の色を変えた坂本花織ちゃんの「poison」もカッコよかった。花織ちゃんは、オープニングの主役ポジションも頑張っていた。

 Bツアー最大の見ものは、ステファン・ランビエールとギヨーム・シゼロンの共演。その前にガブリエラ・パパダキスとアンサンブル・ダンサーズのコラボもあったんだけど、ガブリエラさん、あなたは女子スケーターじゃないなあ、という感じがした。技術力や存在感が、女子スケーターの枠を完全に踏み越えていて、唯一無二なのである。

 続いて、上半身には紫の薄手の衣裳をまとったステファンとギヨームが登場。曲は Henryk Mikołaj Górecki(ヘンリク・グレツキ)というポーランドの現代音楽家による「Symphony No.3」だったらしい。私は2018年のFaOI静岡で、ステファンとデニス・バシリエフスのデュエットプロを見たことがある。あれは、両者が師弟でもあったし、適度な距離を保って滑る「デュエット」だった。ところが今回は、大人の男性どうしが、変な意味でなく、濃厚に「絡む」のである。まあパパシゼのアイスダンスの本領であるとも言える。濃厚に絡みながら、お互いに自立しているという、不思議な肉体関係。再演はないだろうなあと思うと、一期一会の宝物を見せてもらった。

 しかしライビュだと、二人の表情や細かい動作がよく分かるのはいいのだが、一人の演技にスポットが当たるとき、もう一人はどうしているのか、光の当たるリンクにいるのか、陰に退いているのか、よく分からないのがもどかしかった。やっぱり現地に行くべきだったかなあとちょっと悔いを感じた。

 群舞の衣裳は花柄のシャツやワンピース。オープニングはやや地味色、フィナーレは明るいリゾートカラー。米米クラブ、石井竜也さんの「君がいるだけで」「浪漫飛行」も懐かしかった。最後はステファンが4Tチャレンジも見せてくれてありがとう。Bツアーは「ありがとうございました」無しの退場だったけど、楽しかった。また来年!

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アイスショー"Fantasy on Ice 2024 幕張&愛知"

2024-06-04 21:41:30 | 行ったもの2(講演・公演)

Fantasy on Ice 2023 in 幕張、初日(2024年5月24日 17:00~)/in 神戸、千秋楽(2024年6月2日 13:00~、ライブビューイング)

 アイスショーFaOI(ファンタジー・オン・アイス)、今年は久しぶりに幕張公演のチケットを取ることができた。調べたら、2019年、ゲストがToshl(龍玄とし)さんだったとき以来である。我が家からのアクセスもよいので、15時頃まで在宅で仕事をして、おもむろに幕張へ向かった。

 出演スケーターは、羽生結弦、ステファン・ランビエル、ハビエル・フェルナンデス、田中刑事、山本草太、アダム・シャオ・イムファ、デニス・バシリエフス、中田璃士、宮原知子、青木祐奈、上薗恋奈、パパシゼ(ガブリエラ・パパダキス&ギヨーム・シゼロン)、パイポ―(パイパー・ギレス&ポール・ポワリエ)、エアリアル(フライング・オン・アイス)のメアリー・アゼベド&アルフォンソ・カンパ。ゲストアーティストは西川貴教、城田優、安田レイ。

 席はこんな感じでSS席北側、ステージ近め。幕張はトイレ事情が厳しいので、通路隣の席で助かった。

 今年は羽生くんがAツアーのみで、Bツアー(神戸、静岡)に出演しないということもあって、「客を呼べる」スケーターをA、Bツアーに分けた感がある。しかし今年のAツアー、私はものすごく満足度が高かった。芸術性に富んだ、つまり感性と理性を刺激する、挑戦的なプログラムの連続で「息抜き」が全く無かった。いや、フェルナンデスはハビちゃんマンプロで大いに笑わせてくれたし、城田優さん+安田レイ+青木祐奈ちゃんの「A whole new world」(映画アラジン)は夢のようにロマンチックだったし、安田レイ+パイポ―の「Easy on me」の王子様・お姫様感たるやもう。ステファンが甘く切ない「行かないで(ヌギッパ)」の再演だったのも嬉しかった。

 パパシゼは前半のトリの「バッハ」が芸術品。前半、ステファンの次はパパシゼだろうと思っていたら、入場口に上下白衣装の羽生くんが現れたときの会場のどよめきは凄かった。衣装のとおり「ダニー・ボーイ」で、3月に仙台で見たときと同様、大きく感情を揺さぶられた。愛知公演千秋楽のライブビューイングでも見たわけだが、このプロは「引き」で見る方が訴える力が強いように思う。

 大トリの羽生くんは西川貴教さんとコラボで「ミーティア」。「機動戦士ガンダムSEED」の挿入歌なのね。私はファーストガンダムしか知らない世代なのだが、アイスショーのおかげで、さまざまなジャンルと年代の曲に触れることができて嬉しい。フィナーレの「HIGH PRESSURE」も大盛り上がり。愛知千秋楽を見ると、ああ幕張初日は、まだ硬さがあったんだなあ、と感じる。

 若手初参加の上薗恋奈ちゃん、中田璃士くんは完成度の高さに舌を巻いた。来シーズンに大きく期待。デニス、田中刑事くんは、私の好きなタイプのスケーターにどんどん成長していて、わくわくする。城田優さん+フェルナンデスの「イザベル」はスペインの情熱を感じさせるイケメンプロ。ステファンの「The whale」は映画に着想を得たというけど、黙々とリンクを周回するイントロは、大洋を回遊するクジラなのかな…と思いながら見た。

 なお、TOHOシネマズ日本橋で見た愛知公演千秋楽のライブビューイングは、後半のアダム・シャオ・イムファの演技中にプツリと映像・音声が途絶えて、肝を冷やした。次の「イザベル」の途中で復活したので、そんなに長い中断ではなかったけれど、停電だったらしい。家を出たときは晴れていたのだが(ベランダに洗濯物を干してきた)、終わって外に出たら地面が濡れていた。東京都心は雷雨(?)があったらしい。中継中断は日本橋会場だけだったのかな。ともかく羽生くんの「ありがとうございましたっ」を現地&画面越しに聞けて満足である。

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三味線の美音を浴びる/文楽・和田合戦女舞鶴、他

2024-05-11 22:04:48 | 行ったもの2(講演・公演)

シアター1010 国立劇場令和6年5月文楽公演(2024年5月11日、11:00~)

 急に思い立って、5月文楽公演を見て来た。昨年10月末に国立劇場が休館になってから、東京の文楽公演は、さまざまな劇場を代替に使用している。今季は、昨年12月公演に続いて、シアター1010(せんじゅ)での開催。北千住駅前でとても便利な立地だった。

 1等席にあまりいい座席が残っていなかったので、2等席(2階の最後列)を取ってみた。視界はこんな感じ。文楽の舞台を「見下ろす」のは初体験で、どうなんだろう?と思ったが、音響は問題なかった。舞台の奥まで見えてしまう(舞台下駄を履いた人形遣いの足元とか、腰を下ろして待機している黒子さん)のは、もの珍しくて面白かったが、初心者にはあまりお勧めしない。ただ、舞台の上に表示される字幕が自然と視界に入って見やすいのはよかった。

・Aプロ『寿柱立万歳』

 旅の太夫と才蔵が登場し、数え歌ふうに神名・仏名を並べて、家屋の柱立てを寿ぐ。「豊竹若太夫襲名披露公演にようこそ」というセリフを盛り込んで、公演の幕開きを祝う。

・豊竹呂太夫改め十一代目豊竹若太夫襲名披露口上

 あらためて幕が開くと、金屏風(豊竹座の紋入り)を背負い、緋毛氈の上に、鮮やかな緑の裃を着けた技芸員たちが並ぶ。中央は主役の新若太夫さんだが、文楽の襲名披露では、主役は何も喋らないのだ、と途中で思い出した。向かって左端(下手)に座った呂勢太夫さんが口上を述べ、太夫部の錣太夫さん、三味線の団七さん、人形遣いの勘十郎さんが、それぞれ笑えるエピソードを交えて、祝辞を述べた。2列目に控えていたのは(おそらく)お弟子さんや一門の皆さん。ふと、この場に咲太夫さんの姿がないことに気づいて、悲しくなってしまった。

・『和田合戦女舞鶴(わだかっせんおんなまいづる)・市若初陣の段』

 床は若太夫と清介。主役の板額を勘十郎。物語は鎌倉時代、頼朝・頼家亡きあと、三代将軍実朝と尼公政子が政務を執っていたが、御家人たちの対立が深まっていた。御家人・荏柄平太は実朝の妹・斎姫に横恋慕し、思い通りにならないと姫を殺してしまう。平太の妻と息子・公暁は尼公政子の館に匿われていたが、大江広元は御家人の幼い子供たちを軍勢に仕立てて、政子の館を攻めさせる。板額は政子に仕える女武者だったが、軍勢の中に我が子の市若丸がいるのを見つけて館に招き入れる。ところが、政子の話によれば、公暁は頼家の忘れ形見で、ひそかに平太夫婦に預けて育てさせていたのだった。市若丸は自分が平太の子であると誤解して腹を切り、結果的に公暁の身代わり首となって公暁を救う。

 よくある子供の身代わり譚だが、やっぱりグロテスクだなあ…と思う。もちろん脚本は、主君のための身代わり死を全肯定しているわけではなくて、板額は「でかした」と息子を称賛しつつ「なんの因果で武士(もののふ)の子とは生まれて来たことぞ」と嘆くのだが。こういう演目は、徐々にすたれてもいいんじゃないかと思っている。

・『近頃河原の建引(ちかごろかわらのたてひき)・堀川猿廻しの段/道行涙の編笠』

 「堀川猿廻しの段」は、前を織太夫、藤蔵、清公、切を錣太夫、宗助、寛太郎。前半は織太夫さんの美声を楽しむ。後半は錣太夫さんの声質にぴったりの人情ドラマ。おしゅん、伝兵衛の門出を祝って、猿廻しの与次郎が2匹のサルに演じさせる芸(黒子の人形遣いが両手で表現する)がとても楽しい。サル役の人形遣いはプログラムに名前が載らないのだが、誰なのかなあ。「道行涙の編笠」は34年ぶりの上演で、私は初めて見た。しっとりと哀切な舞踊劇。

 今回、どの演目も三味線が華やかで楽しかった。『和田合戦』は、正直、若太夫さんの語りより、清介さんの三味線の切れ味のほうが強く印象に残っている。「堀川猿廻し」は2組のツレ弾きを楽しめた。

 若太夫さんへご祝儀の飾りつけ。坂東玉三郎さん、詩人の高橋睦郎さん、阪大の仲野徹さんなどの名前を見つけた。

 シアター1010は、客席は飲食禁止だが、ホワイエでは飲食できる。あとゲートの外に売店があってお菓子や飲み物を売っている(本格的なお弁当はなし)。オリジナルカクテル500円をいただいてしまった。ピーチ味かな?シャンパンみたいにさわやかで美味。国立劇場でも幕間に軽いアルコールが飲めるといいのに、とずっと思っていたので、大満足。

 なお、7月の歌舞伎公演、12月の文楽公演は、私の地元・江東区で行われるらしい。今から楽しみである。

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ICE STORY 2nd “RE_PRAY” TOURディレイビューイング

2024-04-16 23:11:39 | 行ったもの2(講演・公演)

「Yuzuru Hanyu ICE STORY 2nd “RE_PRAY” TOUR」宮城公演ディレイビューイング(2023年4月13日16:00~、TOHOシネマズ日本橋)

 土曜日、羽生結弦くんの単独公演をディレイビューイングで見てきた。見ていた時間だけ、魂が別世界に跳んでいたような気分で、感想がうまく言葉にならないのだが、書いてみる。

 プロに転向した羽生くんが「プロローグ」「GIFT」という単独公演を成功させてきたことは知っていた。私は、FaOI(ファンタジー・オン・アイス)をはじめ、彼の出演するアイスショーをずっと見てきたけれど、単独公演は、コア中のコアな羽生ファンのためのものだから、私はいいかな、と言う気持ちで遠慮していた。しかし今回、3度目の単独公演となる「RE_PRAY」ツアーは、そのキービジュアル(羽生くんのモノクロ写真)が好みだったのと、SNSに流れてくる感想(ロバート・キャンベル先生からも!)が只事でない感じだったので、ディレイビューイングのチケットを取ってしまった。ツアー最終(追加)公演の千秋楽である4月9日宮城公演の録画上映である。座席は自動指定だったが、ほぼ中央で、ショートサイドのリンク際みたいな、最高のポジションだった。

 舞台には旧型のテレビを思わせるような枠付きの、大きなスクリーンが設置されている。そこには、ゲームのコントローラーを握った羽生くんの映像が映し出されるかと思えば、ゲームそのものの画面になって、ドット文字のメッセージや、ドット絵のキャラクター(さまざまな衣裳をまとった羽生くん自身)が表示される。ゲームの進行に従って、選択を迫られ、素材を集め、敵を倒し、どんどん強くなっていく主人公。前半は真っ白なフードつきコートで登場した「いつか終わる夢」のあと、「阿修羅ちゃん」「鶏と蛇と豚」「MEGALOVANIA」「破滅への使者」など、強くて悪そうな羽生くんが盛りだくさん。

 椎名林檎の「鶏と蛇と豚」は、仏教の「三毒」を意味する動物で、真っ赤な背景に象徴的な三角形が浮かぶ中、貴婦人のような黒レース衣装の羽生くんが登場する。曲のイントロは般若心経なのである。羽生くん、晴明でなくて空海も演じられるわ、と思ってしまった。

 「MEGALOVANIA」は、無音の中で、スケート靴のブレードを氷に突き立てるような荒々しいステップから始まる。鍛えられた肉体の魅力を引き立てる衣装で、すっかり大人の男性になったなあ、としみじみ思ったのに、休憩後の後半では、再び永遠の少年の顔で登場するので、どうなってるの?と目を剥いた。

 「破滅への使者」は、競技プログラムと同様、6分間練習からスタートする。会場に漂う緊張。見慣れたティッシュケースのプーさんが映るのがうれしい。そしてこのプログラムを完璧にクリアしたにもかかわらず、ゲームから「データをセーブできません」と告げられ、混乱と困惑のうちに前半が終了する。ライブでは休憩30分だったようだが、ディレイビューイングは10分だった。

 後半。主人公は再びゲームの世界へ向かうが、前半とは異なる選択をする。自分のまわりの命を潰さない選択。主人公は深い水の中に落ちていく。「いつか終わる夢:re」「あの夏へ」「天と地のレクイエム」「春よ来い」など清冽なプログラムが続く。最後は「春よ来い」で、私はこのプログラムを見るたびに、世界に春をもたらすための祈りのように感じる。そしてスクリーンのドット文字「RE_PLAY」(再生)が「RE_PRAY」(祈り続ける)に変わって終了。

 まず、ほとんど休憩なし(あっても衣装替えの時間くらい)で、10曲近くを連続で滑り切る体力が化けものだと思った。しかもそれぞれ難易度の高いプログラムを完璧に。

 このあと、Tシャツ姿でマイクを持った羽生くんが、楽しそうにリンクをまわりながらお喋り。あ~これで終わりか~と思ったあとに「SEIMEI」「Let Me Entertain You」「ロンド・カプリチオーソ」「私は最強」と次々繰り出されるアンコール。本人はよほど名残惜しかったのか「終わりたくない」なんて言っていたけど、もう身体を休めなさい、と母親気分でハラハラしていた。

 しかし本当に素晴らしい体験だった。世界中の、フィギュアスケーターだけではなくて、様々な分野のアーティストに見てもらいたいと思う。次回の羽生くん単独公演が発表されたら、おそらく現地チケット争奪戦に参加することになるだろう。

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アイスショー”notte stellata 2024”

2024-03-16 23:50:05 | 行ったもの2(講演・公演)

羽生結弦 notte stellata 2024(2024年3月10日、16:00~)

 先週日曜、羽生結弦さんが座長をつとめるアイスショーnotte stellataを見て来た。2011年3月11日の東日本大震災から12年目になる2023年に彼が立ち上げたアイスショーで、宮城・セキスイハイムスーパーアリーナで3公演が行われる。昨年はチケットの抽選に敗れて行くことができなかったが、今年は千秋楽の日曜のチケットを取ることができ、日帰りで仙台に行ってきた。素晴らしい公演で大満足したのだが、やっぱり(分かっていたけど)ふつうのアイスショーとは少し違って、考えることが多くて、なかなか記事を書くことができなかった。

 日曜の仙台は、青空なのに時々細かい雪が舞っていて、東京よりかなり寒かった。2011年のあの日も、こんなふうに寒かったのかなあ、と初めて思った。今年のゲスト・スケーターは、ハビエル・フェルナンデス、ジェイソン・ブラウン、シェイリーン・ボーン・トゥロック、宮原知子、鈴木明子、田中刑事、無良崇人、本郷理華、フラフープのビオレッタ・アファナシバ。座長の羽生くんが信頼できる仲間を集めた感じで、統一感あるいは結束感があって安心できた。そしてスペシャル・ゲストは大地真央さん。

 2プロ滑るスケーターは、だいたい1演目はしっとりと抒情的な、しかし強い決意や未来への希望を表現するプロを選んでいたように思う。もちろん楽しい曲もあって、田中刑事くんと無良崇人くんのサタデーナイトフィーバーは世代的に懐かしくて嬉しかった。シェイリーンのwaka wakaもダンサブルな曲で、アリーナのお客さんがプーさんのぬいぐるみを膝の上で踊らせていたら、それを抱き取って、一緒に踊ってくれた(ちょうど向かい側でよく見えた)。休憩明けの群舞はBTSのPermission to Danceで、羽生くんは映像で参加。ステージ背景のスクリーンだけではなくて、リンクそのものにも大きな映像を映してしまう演出が面白かった。

 しかし羽生くんのソロ演技が1日に3演目も見られるのは、お得感が半端なかった。冒頭にnotte stellata(白鳥)。前半の最後に大地真央さんとのコラボでカルミナ・ブラーナ。そして後半にダニー・ボーイ。どれも「すごいものを見た」以外に語る言葉がない。特にカルミナ・ブラーナは、ひたすら重たいのかと思ったら、軽やかな天使のように登場し(舞台スクリーンには花畑の映像)一転して、真央さん扮する黒い魔女の支配にもがき苦しみ、最後は浄化されていくのである。どうしても目はリンクの羽生君に釘付けになって、真央さんをあまり見られなかった(照明の関係でも舞台上が見にくかった)のは残念。ダニー・ボーイもそうだが「芸能と鎮魂」について深く深く考えてしまったショーだった。羽生くんはフィナーレの楽しい群舞にも登場。

 全ての演技が終わって、最後にマイクを持った羽生くんがショーが無事に終わったことに感謝を述べ「明日はまた、辛く暗い一日が始まります」みたいなことを言ったとき、会場の一部から無邪気な笑い声が漏れ、羽生くんが少しむきになって「笑いごとじゃないんです。そういうコンセプトのショーなんで」と反論する一幕があった。いや、笑った人の気持ちは分かるのよ。あのときは本当に満たされた気持ちだったので、明日が暗い一日になるなんて想像することができなかった。それは私が、東日本大震災で大事な人やものを失っていないから持てる感想なのだと思う。翌日の新聞やテレビでは、13年経っても癒えない傷を抱えた人たちの存在が控えめに報道されていて、いまさらだが自分の無神経さを恥ずかしく思った。

 仙台では少し時間があったので、伊達家三藩主の霊屋「瑞鳳殿」で羽生結弦選手の衣装をモチーフにした七夕吹流しが再展示されているというのを見に行った。 拝殿の左右の回廊で、静かに風に揺れていた。

 羽生くんの衣裳は、どれも凝ったものが多いが、この瑞鳳殿(寛永年間造、戦災で焼失後、1979年に再建)の装飾も華やかさでは負けていないので嬉しかった。

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ヴェルディ歌劇の愉悦/METライブ・ナブッコ

2024-02-27 22:48:43 | 行ったもの2(講演・公演)

METライブビューイング2023-24『ナブッコ』(新宿ピカデリー)

 先日、東劇にシネマ歌舞伎を見に行ったら、MET(ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場)ライブビューイングのチラシが置かれていて、そういえば、オペラは(実演も映像も)久しく見ていないなあ、と思った。私の好きなヴェルディ作品、今シーズンは『ナブッコ』がエントリーされていた。写真を見ると演出もよさそうなので、思い切って、見て来た。

 作品のあらすじは大体知っていたけれど、全編通しで視聴するのは、たぶん初めてだったと思う。しかし全く問題はなくて、第1幕から(いや、序曲から)雄弁で美しい旋律をシャワーのような浴びせられ、幸福感に浸った。

 舞台は紀元前6世紀のエルサレム。神殿に集まったヘブライ人たちは、バビロニア国王ナブッコの来襲に怯えている。ヘブライ人たちに人質として囚われているのはナブッコの娘・フェネーナ。エルサレム王の甥・イズマエーレは彼女を庇う。やがてフェネーナの姉・アビガイッレが現れ、イズマエーレに「自分の愛を受け入れれば民衆を助けよう」と取引を提案するが、イズマエーレは拒絶。 エルサレムはナブッコ王のバビロニア軍に制圧される。気性の激しい姉と優しい妹。国の興亡を左右する恋のさやあて。古装ファンタジーの世界みたいだ~と嬉しくなってしまった。

 第2幕。王女アビガイッレは、自分が奴隷女の出自であること、父ナブッコが妹のフェネーナに王位を譲るつもりであることを知り、王位を奪う決意を固める。腹を立てたナブッコは「自分は神だ」と宣言したことで、神の怒りを招き、雷に撃たれる。

 第3幕。力も権威も失ったナブッコは、アビガイッレに命じられるまま、異教徒たちとともにフェネーナも死刑とする文書に押印してしまう。ナブッコの嘆きと後悔。追いつめられたヘブライ人たちが、絶望の底から絞り出し、湧き上がるように歌うのが「行け、我が想いよ、黄金の翼に乗って」。いや、これは泣くわ。作品中ではヘブライ人の歌だけれど、今、世界中でふるさとを失った、あるいは失おうとしている全ての人々に届く歌声だと思う。

 第4幕。復活したナブッコは、エホバの神を讃え、ヘブライ人たちを釈放する。アビガイッレは服毒し自殺する。きれいな「勧善懲悪」のハッピーエンドで終わるのは、比較的若書きの作品であるためだろうか。ヴェルディ作品というと、もっと不条理で悲劇的な作劇の印象が強いのだが。

 出演者で印象的だったのは、イズマエーレ役のテノール、ソクジョン・ベク。名前のとおり韓国出身で、これがMETデビューだという。田舎のお兄ちゃんみたいな顔立ちは、役柄によってはマイナスかも、と思ったが、声が素晴らしくよい。タイトル・ロールのナブッコは、ヴェルディらしい陰影に富んだバリトンの役柄で、ジョージ・ギャグニッザは、戦士王の威厳にも満ちていた。しかし、なんといっても素晴らしかったのは、リュドミラ・モナスティルスカのアビガイッレ! 強い意志を感じさせる、華やかさと力強さに痺れた。第2幕と3幕の間に、舞台裏でのインタビュー映像が流れたけど、彼女はウクライナの出身なのね。ちなみにギャグニッザはジョージア(グルジア)出身で、この作品では独裁者が力を失い、悔い改める、現実にもそのような変化が起きるといいですね、みたいなことを淡々と述べていた。ちなみにフェネーナ役のマリア・バラコーワはロシア出身である。

 オケや舞台上のメンバーを見ていると、アジア系やアフリカ系の顔立ちもけっこう混じっていたが、特に違和感はなかった。そんなことはどうでもいいくらい、(音楽)作品の普遍性が強いのだと思う。あと、指揮者のダニエレ・カッレガーリさん、表情豊かでお茶目なのと、途中のインタビューで、楽譜に書かれていることを大切にするとおっしゃっていたのが、気に入ってしまった。また聴きに行きたい。ウェブサイトも見つけた!

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