「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

音楽って何だろう? 音っていったい何だろう?

2024年03月13日 | 音楽談義

音楽ってなんだろう? 音っていったいなんだろう?

こういう根源的な問いに対して明確な回答は望めないとしても少なくとも手がかりらしきものを与えてくれるのが「武満徹・音楽創造への旅」である。



とはいえ、内容を一括りにして表現するのはブログ主の手に余るので、(武満氏の)音に対する考え方が一番如実に表れていると思う「海童道祖と“すき焼き”の音」(467頁)の箇所から引用してみよう。

海童道祖(わたづみどうそ:1911~1992)は単なる尺八演奏家に留まらず宗教家にして哲学者だが、武満氏と小さな座敷で同席して名曲「虚空」を聴かせるシーンの叙述である。

「目の前にはスキヤキの鍋があってグツグツ煮えており、外はダンプカーなどがバンバンと走ってうるさいことこの上ない。そういう環境のもとで、尺八の演奏を聴くうちに、僕はいい気持になってきて、音楽を聴いているのか、スキヤキの音を聴いているのかダンプカーの音を聴いているのか分からないような状態になってきた。

それらの雑音が一種の響きとして伝わってくると同時に尺八の音色が前よりもくっきりと自分の耳に入って来る。演奏が終わって海童氏が“武満君、いま君はきっとスキヤキの鍋の音を聴いただろう”と言われたので“たしかにそうでした”と答えると、“君が聴いたそのスキヤキの音がわたしの音楽です”と言われる。

ぼくは仏教とか禅とかは苦手で禅問答的な言い方はあまり好きじゃないのですが、そのときは実感として納得しました。」

つまり、音楽の音の世界と自然音(ノイズ)の音の世界が一体となっている、そこに武満氏は日本の音楽の特質を見出す。

海童同祖は重ねて次のように言う。

「法竹(修行用の尺八)とする竹にどんな節があろうが、なにがあろうがいっこうに差支えない。物干しざおでも構わない。ほんとうの味わいというのは、こういうごく当たり前のものに味があるのです。ちょうど、竹藪があって、そこの竹が腐って孔が開き、風が吹き抜けるというのに相等しい音、それは鳴ろうとも鳴らそうとも思わないで、鳴る音であって、それが自然の音です。」

さらに続く。

「宇宙間には人間の考えた音階だけでなく、けだもの、鳥類、山川草木たちの音階があります。宇宙はありとあらゆるものを包含した一大響音体なのです。どんなノイズも、クルマの音も、私たちが喋っている声も我々には同じ価値を持っている。それぞれに美しさがあります。いわゆる調律された音だけではない音たち、それから音のもっと内部の音、そういうものに関心があります。つまり音楽の最初に帰ろうとしてい」るわけです。

以上のことを念頭におきながら昨日2枚のCDを聴いてみた。
         

いきなりこういう音楽を聴くと、これまでの西洋の音楽、つまり「旋律とリズムとハーモニー」にすっかり麻痺してしまった耳にとって違和感を覚えるのは当たり前だが、これから繰り返し繰り返し聴くことによって、はたして耳にどう馴染んでくるのか楽しみなことではある。

最後に耳よりの話を一つ。

映画音楽についてだが、時代劇の「濡れ場」のシーンによく尺八の音がバックに流れる事があるのにお気づきだろうか。

エロティックな映像が尺八の虚無的な響きと一体となり、やがて哲学的な雰囲気となって、いかにも芸術へと昇華されていくような気にさせるので、まことに日本映画らしい趣だと感じ入っていたところ、こういうシーンでの尺八の起用はどうやら武満氏の発案のようなのである。

時代劇「暗殺」に起用され、武満氏から即興演奏を任された横山勝也氏(尺八)は次のように語る。(468頁)

「体当たりで演奏しましたよ。たとえば丹波哲郎扮する清河八郎が囲っているお蓮という女性がいるんですね。それを岩下志麻さんが演じているんです。清河八郎が初めて人を斬ったときものすごく興奮して、お蓮の家に駆け込んできて、すぐ蒲団を敷かせ、帯をとかせて<オレはいま人を斬ってきた>といって蓮を激しく抱くというシーンがあるんです。

ちょっと長いそのシーンを尺八だけでやるんです。あんな激しい場面に合う既成の曲なんてまったくありません。とにかく音は出しましたが、無我夢中でどんな音を出したかまったく覚えていません。」

~でも武満さんはあのシーンの音楽を凄く気に入っていたようですよ。ああいうのは何度かやってるんですか。

いいえ、ほとんど一発でした。はじめに一回観て、次にもう一回流して、それを見ながらリアルタイムで音を乗せちゃうんです。ほとんどNGなしで一発で決まりました。」

というわけだが、シリアスな時代劇やドラマでも「尺八」の音が聞こえるとつい「濡れ場」を連想するクセがついてしまったようで・・、これはイカン、イカン(笑)。



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