「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

読書コーナー~「なぜイギリスはミステリーの宝庫?」

2011年04月26日 | 読書コーナー

「ミステリー好き」という点に関しては、”人後に落ちない”と思っているが、本格ミステリーの宝庫といえばまず「イギリス」に落ち着く。

作家コナン・ドイルの名作「シャーロック・ホームズ」シリーズを嚆矢(こうし)としてアガサ・クリスティ以降、今日に至るまで延々と途切れることなくすぐれたミステリー作家を輩出してきている。

ミステリー作家が多いということは、需要供給の面から商売として成り立つということでその背景にはそれだけ好んで読む国民が多いということになる。

しかし、当然のことながら
「なぜミステリ-がイギリスで発祥し、このように隆盛を極めているのか?」
という素朴な疑問が付きまとう。

この理由について、興味深い記事が下記の本の152頁に書かれてあった。

「イギリス病のすすめ」(2001年、講談社文庫) 

                      

本書の著者は田中芳樹氏と土屋守氏でお二人の対談によって構成されている。

題して
「ミステリーとデモクラシー」。

「ちょっと大げさに言うと、ミステリーとデモクラシーには相関性があるって言いますね。つまり『事件が起きたら証拠なしで怪しげなやつをひっつかまえてきて拷問して白状させる』というような社会では、ミステリーは発達しない。科学的に証拠を固めて、推理して・・・という過程を踏むような社会でこそ発達する~」

ナルホド、なるほど。

中国やアフリカ、南米諸国にはミステリー作家がほとんどいない、したがって読者も少ないという理由もこれでおおかた”カタ”がつく。政治思想犯をとっ捕まえて監禁するなんてまったく論外。

ミステリー発展の根源を求めていくと
「一人ひとりの人権を大切にする社会風土と警察の科学的な捜査手法」に突き当たるなんて、なかなかユニークな見方だと思う。

イギリスの警察は世界で一番歴史が古い。18世紀に始まった市民警察を前身として1829年には正規の警察組織として発足している。(ウィキペディア)

余談だがスコットランド・ヤード(所在地の地名)といえばロンドン警視庁のことだが、これは日本の首都・東京の治安を一手に引き受ける「警視庁」を「桜田門」と呼ぶのに等しい。

とにかく、ミステリー発展のためにはそれなりの環境が必要ということがこれで分かる。


ミステリー作家が活躍し幅広く国民各層で読まれるのは社会がある程度健全に機能している証拠の一つというわけで、ミステリー・ファンのひとりとして世の中に何も貢献しているわけではないが何となくうれしい気分になる。

そういう意味でイギリス、アメリカ、フランス(メグレ警部シリーズ)、スウェーデン(マルティン・ベックシリーズ)、そして我が日本などは大いに胸を張っていい。

もっともその日本でさえ第二次大戦前は江戸川乱歩が「怪人二十面相」を書くことさえ禁止されていたくらいで、あの悪名高い「治安維持法」による共産主義者などへの弾圧、「蟹工船」の作者小林多喜二の拷問死なんかを思い起こせば現代と比べるとまさに隔世の感がある。

何とも「いい時代」になったものだが、さて今日の日本におけるミステリー隆盛の礎を築いたのはもちろんその江戸川乱歩(享年71歳)さん

日本の推理作家の登竜門として有名な「江戸川乱歩賞」(賞金1千万円)は彼が私財を投げ打って1954年に創設したもので以後、西村京太郎、森村誠一、東野圭吾など幾多の人気作家を輩出しながら今日まで55回を数える。

そのほかいろんな新進作家の面倒をみたりして育成に力を注ぐなど(日本のミステリー界で)彼の果たした役割と功績は計り知れない。

その辺のミステリー発展の軌跡について推理作家「佐野 洋」氏によって詳らかにされているのが次の本。

 「ミステリーとの半世紀」(2009.2.25、小学館) 

 
                                 

佐野 洋氏の自伝ともいうべき本だが、日本ミステリー界の歴史についてこれほど内輪話が載っている本も珍しい。

興味津津で読ませてもらったが、江戸川乱歩の思い出と功績については
「乱歩さんとのこと1~4」
までわざわざ4項目を割いて詳述してある。若手作家による原稿料の値上げなどの要求にも真摯に応じる気配りの細やかな乱歩の人間像が見事に浮かび上がってくる。

そのほか
「冷や汗二題」
では次のような面白いエピソードが語られる。

あるホテルのロビーで川端康成氏が座っている前のテレビを三好徹氏と一緒になって中央競馬桜花賞の中継をどうしても見たいがために無断でチャンネルを変えてしまい、後になって関係者からもし相手が江戸川乱歩氏だったら同じようなことが出来たかどうかと詰問される。

そのときは「ううん、乱歩さんだったら、ちょっと躊躇したかもしれません」なんて正直な告白が出てきたりする。

純文学とミステリーの間の落差というか、壁みたいなものを物語っているようで面白い。

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