「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

木の共鳴によって左右される「音響」

2022年11月23日 | オーディオ談義

日本の女流ヴァイオリニスト「千住真理子(せんじゅ まりこ)」さんに次のような著書がある。



日本でも有数の現役ヴァイオリニストが書いた本ということで興味深く読ませてもらった。

幼少のころ「天才少女」とうたわれ、ヴァイオリンを肌身離さない生活がずっと続いていく中で、母をはじめとした家族との関係や学業との両立など生い立ちからのエピソードがこと細かに綴られている。

ヴァイオリニストとしての成長と人間的な成長とが一貫して調和しているところがいかにも千住さんらしいと思った。


さて、本書の59頁~66頁にかけて「謎のストラディヴァリ」という小節がある。

彼女は後年になってあのストラディヴァリの中でも名器とされる「デュランティ」を手に入れることになるのだが、この著作の時点ではまだ手に入れてないが名器に対する憧れを率直に語るとともにその音色の謎ともいえる特徴に言及している。

いまから約300年以上も昔、北イタリアの”ヴァイオリン作りの村”と呼ばれるクレモナにアントニオ・ストラディヴァリという男の子が生まれた。親族同様に物心つくころには自然と楽器を作るようになったが、猛烈な仕事ぶりで次から次へと楽器を作ったが楽器の出来のほうも他とはまるで違っていた。

93年の生涯で約3000台の弦楽器を製作したといわれているが、今日までに戦争や火事、交通事故、虫食いなどによって破壊され、いま世界に残っているのは300~400台といわれている。

当時の人々はみな「まずそのニスの美しさに心を奪われた」という。たしかに「ストラディヴァリの秘密は、そのニスにあり」という説があるほどだ。

(筆者註:かなり前に見たテレビ番組では、「ニスの中に混ぜた防腐剤の独特の成分が時間の経過とともに楽器の木目にしみこんで密度が程よいものとなりいい音が出る、これがストラディヴァリの秘密だ」と実験を積み重ねた科学者が登場して得々としゃべっていたのを憶いだす。ただし、いまだに通説にはなっていない)

ともあれ、不思議なことにストラディヴァリが考え出した板の厚み何ミリとか、ネックの長さ何センチ何ミリといった緻密な寸法は、そのままほとんどのヴァイオリン製作者のモデルとなって現代にも定着している。

それに見た目も美しいが何といっても魅惑的なのは音色だ。300年前には考えられなかったはずの現代の2000人にも及ぶ大コンサートホールに持って出ても「極めて小さな音を出しても客席の一番後ろまでピーンと美しく聞こえる」という現象には驚かされる。

ほかの楽器になると”そば鳴り”といって近くでは大きくきれいな音が聞こえるが、大ホールに持って出るととたんに音が貧弱に鳴り、後ろの座席まで音が通らない。ここに、両者の大きな違いがある。

これは、個人的な意見だが、この現象については楽器が出す音の波紋が正しいと、壁に当たって跳ね返る「間接音」と、楽器から直接出てくる「直接音」とが上手く「ハモる」からではないかと推測している。


もうひとつ特徴的なこととして、ストラディヴァリほどの名器はある程度長い年月をかけて弾き込まなければ音が出ないという点がある。ときどきギーといったり、かすれたり、大変苦労する期間が最低1~2年、場合によっては10年近くある。

その間、「もしかするとこの楽器はニセモノなのではないか?」という不信が生まれるが、あきらめずに楽器を弾き続けると、あるときを境にカーンと鳴りはじめる。

これはある科学者によると、「一定の振動を与え続けることによって木の細胞がみな一定方向に向きを変え、ある種の振動に対して極めて敏感な反応をするようになるため」ということらしい。

さて、長々とストラディヴァリにかこつけて話を引っ張ってきたが、今回のテーマのねらいはこの箇所にある。

すなわち、「一定の振動を与え・・・・」云々はオーディオ機器の生命線ともいえるスピーカー(SP)の箱やバッフル(木製の場合)にも通じる話ではないだろうか。

スピーカーはユニットと同じくらい箱(エンクロージャー)やバッフルが大切とはよく聞くが、時間が経てばたつほど音が程よくこなれてくるのを実感している。

オーディオ仲間での間では”木が枯れてくる”という表現をよくするが、今回「木の細胞が一定方向を向くので音が良くなる」という科学的な見解を知ったのは新発見。

スピーカーをヴァイオリンやピアノにたとえると弦や鍵盤の部分がユニット(振動箇所)に該当し、胴体と響板の部分が箱やバッフルに該当するといえる、どちらも木製なのはいうまでもない。さらに人の声ともなると声帯がユニット、肺がボックスみたいなものだ。

結局オーディオも単純化すればSPという「楽器」をいかに「響かせる」かということに尽きるわけで、改めて「音響に果たす木の役割」に関心が向くわけだが、ピアノの音だってあの大きな響板の形状や材質が生命線だから、結局ヴァイオリンとピアノというクラシックにおいて双璧ともいえる二つの楽器が木の共鳴によって性能を左右されているところがなかなか興味深い。

我が家ではここ10年ほど板厚が薄いSPボックスの自作や改造に明け暮れているのも少しはお分かりいただけただろうか(笑)。



この内容に共感された方は励ましのクリックを → 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする