前回からの続きです。
真空管オーディオに嵌り込んで40年以上になるが、ときどき真空管(出力管)の種類っていったいどのくらいあるんだろうと考えることがある。同種の球でもプレート電圧などいろんな仕様の違いがあり、おそらく気が遠くなるほど夥しい数があるに違いない。
そういう中から実際に使われてみてクチコミで段々と評判が伝わっていき「WE300B」や「PP5/400」などの名管伝説が生まれていくのだろうが、実は秘めたる実力を有しながら誰も知らない、使わない、そして注目されない球だってきっとあるに違いない。ましてやテレビ用の球なんて「オーディオ用には無理」とハナから無視されてもちっとも不思議ではない。
こういう市井の中に埋もれてしまい一顧だにされない球の中から「回路などの工夫次第でいい音が出る」球を発掘することは、まるで砂浜の中から一粒のダイヤモンドを見つけるようなもので、これこそ真空管を愛好する人間の醍醐味だといっても過言ではあるまい。
北国の真空管博士が掘り出された「6FD7」はまさにそういう球だった。
再掲画像左側の2本がそうだが、ミニチュア管を一回り大きくしてふっくらさせたような可愛らしい図体だ。用途は1970年前後のカラーテレビ用(アメリカ)で、家庭で長時間点けっぱなしという酷使される環境を前提として作られた丈夫さと、アメリカにおける長きにわたる古典管製造のノウハウを併せ持った球だという。
ドライバー機能と出力機能が一体化した複合管のため、きわめてシンプルな回路が持つ優位性が存分に発揮されたアンプというのが第一印象だった。
試聴しながら「低音域の制動力が見事です。ウェストミンスターのバックロードホーンを苦もなくコントロールしてますよ。アンプがスピーカーを牛耳ってます。こんな小さな球からこれほど力感の溢れるサウンドが聴けるなんてとても信じられません。これは凄いアンプですよ。」
一緒に聴かれていたKさんも「いやあ、これほどとは思いませんでした。(ジャズの)ベースの音はこれが一番ですね。周波数レンジも広くて録音された音声信号をそのまま出してくれる感じです。回路がシンプルな分、音のスピード感も申し分ありません。たしかに、これは凄いアンプです。」
二人でひたすら、凄い、凄いを連発(笑)。
「お値段が安い割には音がいい」という次元を明らかに突き抜けており、目隠しでこの音を聴いたらどなたもこんな小さなアンプから出てくる音とは信じられないに違いない。
無論、人によって評価が左右されることは否めない。どちらかといえばアメリカ系サウンドで「音声信号をいっさいの装飾なしにそのまま出す」ところにプラス面とマイナス面が同居していて、その辺が好き嫌いが分かれるところだろう。
自分の場合は「音の粒立ちとエネルギー感」が圧倒的に買いで(笑)、現用の「PX25」アンプや「171」アンプには求められない持ち味があるので、ぜひこのアンプをメイン・アンプの一角として戦列に加えようと決心した。
ただし、この「6FD7」は国内では製造されなかったし、オークションにも出品されることはまずない。したがってアメリカからの直輸入品に頼らざるを得ないのが実状だ。
また、独自の工夫が為された回路、個人が手巻きした出力トランス(これがたいへんな優れもの!)、小粒だけどピリッと辛い整流管(6BW4)、配線材はウェスタン製、使用ハンダはナッソといった「絶妙なバランス」のもとに成り立っているので、この球を使いさえすれば誰が作ってもいい音が出るという保証はない。
アンプ製作者のKさん(新潟県)によると、ヒアリングテストでは片チャンネルにはオートグラフを、もう片方にはローサーを繋いで最後の音質調整をされた由。
「低音が出過ぎて困るほどで対策に苦労しました。」とのことで、通常のアンプとは真逆なのがユニークだ。
こんな凄いアンプを独り占めするのは勿体ないし、いろんなスピーカーを試したい気が湧き起こったので、さっそく武者修行の旅に出ることにした。
行く先は大分市内のMさん、Nさん宅でこのアンプによる試聴テストの申し込みをしたところ両者とも一言のもとにご快諾(笑)。
対戦相手はタンノイ「オートグラフ」、「クリプッシュホーン」(アメリカ)そして「アルテックA5」という強敵たち。
相手にとってまったく不足なしだが、この一騎打ちの結果やいかに~。
以下、続く。