今回の話題は「健康の話」なので、日頃から元気がよくて興味のない方はどうか素通りを。
「医師は社会的な常識がかなり欠落している人が多い」「不摂生の人の分まで(健康維持に努力している人が医療費を)なぜ払う」などといった話を連発しているのが最近の麻生首相。
いずれも身近な健康にまつわる話だが、前者の場合看護師さんなど医師の身近にいる医療従事者などからは「ホントにそのとおり」なんて声もチラホラ聞こえてくるが差し障りがあるので深入りは禁物、後者の場合には不特定多数が対象なので誰はばかることなく「そうかもしれないなあ~」と一理あるような気もする。
受け売りだが「健康は何らかの投資をしなければ維持できない。若さはもっと投資しなければ維持できない。若返りとなるとより大きな投資が必要となる。」といわれているので、ある程度の年齢になれば皆等しく健康維持に努力するというのがまあ常識だろう。
自分の場合に例をとると「食べ過ぎない」「適度な運動」を2本の柱にして日々心がけているつもりだが、「適度な運動」は何とか時間を確保しているものの「食べ過ぎない」については三度三度の食事ごとに「食欲に負けない強い意志」が常時試されるとあってホントに難しいものだと痛感している。
しかし、健康維持にとっては「食べ過ぎない」ことの方が「適度な運動」よりも遥かに比重が大きいことが次の本を読んでよく分かった。
「長寿遺伝子を鍛える」~カロリーリストリクション~ →
リストリクションとはご存知のとおり”制限”という意味。刊行が2008年10月15日(新潮社)だからつい最近の本なので内容も最新の研究成果に裏打ちされているのは容易に想像がつく。
著者は慶應義塾大学医学部教授で「日本抗加齢医学会副理事長」の坪田一男氏。雑誌「アンチエイジング医学」編集長をはじめ「老けるな」(幻冬舎)など著書多数。
本書の構成はつぎのとおり
第 1章 氷河期を生き延びた遺伝子
第 2章 進化する長寿研究
第 3章 ”長寿遺伝子”の発見
第 4章 メタボに学べ
第 5章 カロリーリストリクション戦略
第 6章 長寿の鍵を握るミトコンドリア
第 7章 カロリスで老化を防ぐ
第 8章 老化は運命か
第 9章 長寿遺伝子のスイッチの入れ方
第10章 長寿を選択する
以上のとおり、かなり盛り沢山の内容なのにそれぞれが深く掘り下げてあって(と思うが)「健康で長生きしたい」という切実な願望の持ち主は一読しておいても損はあるまいと思う。
本書の趣旨の論拠は「カロリー制限」と「長生き」とが1本の赤い糸でしっかりと結ばれていて、それを科学的に証明したのが長寿遺伝子「サーチュイン」の発見で老化や寿命にかかわる反応経路をコントロールしているこの遺伝子のスイッチが「カロリー制限」で「オン」に出来ることが証明されたという点。
「少食派は長生きできる」というのは実にためになる話で、この不景気の時代に食費を節約できて一石二鳥とニンマリする方もいると思うが、ここでいう「カロリー制限」とはあくまでもタンパク質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラルといった栄養のバランスはしっかり保ちつつ、総摂取カロリーだけを通常の70%程度に減らすことで、さらに月に一度くらいのペースで24時間断食をするといいという。
しかし、なんといっても人生それも晩年に至っては「最大の楽しみは食べること」なので「分かっちゃいるけど実行が難しい」といったところ。
だがご親切にも日本人にあった「カロリー制限」の実践編を次の9点に絞って提言してあるので要約して紹介しておこう。
1 低GI食品を選ぶ
GIとは「血糖値上昇指数」のことで、たとえば白米より玄米、うどんより蕎麦というように色が濃いもの、皮や繊維を多く含むもの、あまり精製されていないものが該当する。血糖値の急激な上昇を抑えることが主眼。因みに統計上、長寿者の大多数が血糖値が正常だという。
2 たくさんの色のものを食べる
「さまざまな栄養素をバランスよく食べる」ためにできるだけ沢山の色の食品を少しずつ食べる。自然と野菜の摂取量が増えて低GIな食事になっていく。
3 食事を楽しむ
カロリー制限は長期的には失敗に陥ることが多いので、「ガマン」はほどほどに「食事を楽しむ」ことが大切で食べ過ぎたと思えば運動量を増やして帳尻を合わせることも必要。
4 食欲を騙す(ティーズ・フードを利用する)
アーモンドやピーナッツなどのナッツ類、ブルーベリーやりんごなどの糖度の低いフルーツ類は適量なら空腹時に食べても血糖値が急激に上がることはない。これでとりあえず食欲を騙しておいてから食事をすると脂肪の蓄積や食べ過ぎを最小限に抑えられる。
5 ”空腹感”を鎮める
”空腹感”という苦痛にどう対処するか。必要な栄養素の表をチェックしながら不足と思われるものを満たしていくといつの間にか食欲も収まるという。つまり身体が欲しているモノを摂っていれば”空腹感”もある程度は鎮まる。
6 お酒は薬になる程度に
日本人の約半数は遺伝的にアルコールを分解する力が弱い。お酒が百薬の長になるのはビールなら350ml、日本酒なら1合、ワインなら2~3杯まで。またお酒の合間にたっぷり水を飲む。
7 日常的な「動き」を増やす
運動をすると成長ホルモンHGHを分泌する遺伝子のスイッチがONとなり若さをキープしようと動き出す。免疫機能を司る遺伝子やガンを抑える遺伝子のスイッチもONになる。それでも運動がニガテとか時間が取れない人は日常じっとしている時間を減らしてなるべく体を動かす努力をする。
8 CRミメティックス(擬似的なカロリー制限)
カロリー制限をせずに同じ効果を得る方法があるという。たとえばポリフェノーリの一種「レスベラトロール」マイタケやタラコに多く含まれているナイアシン、糖尿病の治療薬であるメトフォルミンなどで現在でも開発競争が続いている。
9 アンチ・エイジングドックのススメ
カロリー制限や運動も正解や決まりはなくそれぞれの人に合ったやり方がある。自分の体の弱点をいち早く見つけ出してケアすることが必要。これまでの人間ドックの「病気を見つける」という目的に「加齢」という要素をプラスした”アンチエイジング・ドック”の検診を行うクリニックが増えている。
以上のとおり、”健康おたく”の方にとってはさほど新しいことでもないと思われるかもしれないが、今のところ適度な運動も含めてこれらが「健康で長生きするためのベスト・アプローチ」といっていいと思う。
ただし、実行するかしないかは本人次第だし、そんなにまでして長生きはしたくないという人がいても当然。
自分は根が単純なので早速信じ込んで24時間断食(28日)をやってみたが、いざ覚悟を決めると意外と簡単だった。しかし、92歳になる母が心配して「水の替りにお酒でも呑んだら」としきりに言うのには参ってしまった。