高校時代の同窓生U君から、日経のBPnetに『レコードをレーザー光線で再生できる話』が載っているとの情報がメールで入った。
最初のうち、勘違いして日経がらみの本に書かれた話だと思ったが、そのうち”net”の言葉に気がついて「ああ、そうか、パソコンで見れるのか」と急いで検索してみた。
試行錯誤の挙句、「日経のBPnet」→「ホームページ」→「ビジネススタイル」→「レーザーターンテーブル」でヒットとした。
2008年の2月20日からと27日からの記事だった。実は以前にもレーザー光線でレコードを再生する話は新聞記事などでちらっと読んでいたが、「今更、レコードでもないだろう、音質もCDには及ぶまい」との先入観があり、深くは追求しないままだった。
U君から教えてもらったのをきっかけに、この記事をじっくり読ませてもらったが想像した以上に音質がしっかりしているようでかなり期待できそう。
内容は、次の表題により2項目に分かれている。
1 レコード針を使わずにアナログレコードを再生する(2月20日~)
2 消え行くアナログレコードに新しい技術で再度光を当てる(2月27日~)
1 → 埼玉県の小さなオーディオ・メーカー「エルプ社」(社長:千葉三樹氏)が製造している「レーザーターンテーブル」が世界中の音楽ファンの注目を集めている。
顧客には、スティービー・ワンダーやキース・ジャレットなどのミュージシャンも名を連ねている。価格は100万円以上と決して安価な製品ではないが、世界各国から問い合わせや注文が引きも切らず、注文から納品まで数ヶ月は待たされる人気。
レーザー光線でアナログレコードの音を読み取って再生する技術開発は、アメリカ発だが、千葉氏が私財を投げうって引き継いで事業化し完成させたもの。
アナログレコードは、全世界に300億枚~400億枚あるといわれ、人類にとって大切な文化遺産。「レーザーターンテーブルが世に出なければ、すべてのレコードが永遠に聴けなくなってしまう、この文化の損失を何とかしなければ」と千葉氏。
しかし、そもそもレコードはレーザー光で音をピックアップすることは想定されて作られておらず、レーベルごとに音溝の仕様に統一規格がない、しかも各家庭での保管環境(熱や圧力)によって簡単に反ってしまったりするので、技術的に困難を極めたそうだ。特に音溝に当てる5本のレーザー光の制御では、日本国内では対応ができず、アメリカの軍需メーカーが対応した。
モットーとして「世にあるレコードの90%、欲を言えば95%を問題なく再生できる」を掲げたという。
結局、1988年の記者発表から製品が仕上がったのが1996年、事業が損益分岐点に達したのは1999年、現在でも1台ずつの手作りで、注文に生産が追いつかない状態。
2 → 取材記者がエルプ社内でレーザーターンテーブルの音を実際に聴いたところ圧倒的な情報量に驚きの一言、息継ぎの音、衣擦れの音、各楽器の位置関係のたしかさはもとより、歌手とマイクの距離までもがハッキリ分かる。特筆すべきは音の自然さ、生々しさで歌手本人が直接歌いかけてくるような実在感だという。
この理由は、千葉社長によると「レーザーで拾った音をデジタル変換せず、アナログのまま再生しているから」。
もうひとつ、レコードの溝がどんなに針によって磨耗していても、レーザー光が違う位置を照射するので心配要らないという。
本体 5本のレーザー光線 針の位置と違う照射
最初の顧客はカナダの国立図書館で、購入の目的は1919年にカナダが独立を果たした日の国会議長のスピーチが収録されたレコードの再生。これまで誰も聞いたことがなかった声が同図書館で見事に再生され、翌日の新聞では一面で大々的に報道され、地元のラジオ局も何度もスピーチを放送した。
この体験が大きな励みとなり、失われた文化の復権に寄与することがモチベーションの維持に大きく役立ったという。以後、冒頭で述べたように、スティービー・ワンダー(2台)やキース・ジャレットなどが購入するが、特にキース・ジャレットからは感激のあまり直筆サイン入りの推薦状が届いて「最も革新的なオーディオ機器であり、すべてのデジタルフォーマットを圧倒する」とあったという。
レーザー・ターンテーブルは最近ようやく歩留まりが良くなり、往時の3分の1程度の価格で販売できるようになったがそれでも依然として100万円を超える高価な買い物。しかし、購入層は広く二十代から八十代まで広がっており製造が追いつかない状態。やはり非接触で、レコード盤を傷つけることなく、ありのままの音が出せる性能が評価された結果によるもの。
レーザーターンテーブルの概要は以上のとおりだが、自分はワディアのCDシステムを購入して音質を聴いたときに、もうレコード演奏は必要ないとレコードプレーヤーは処分したが、なぜかレコードのほうは捨てる気にならず物置の奥深く仕舞いこんだまま。
このレーザーターンテーブルのお陰で来るはずがなかったレコードの出番が再び巡ってくるかもしれない、ほんとうに捨てなくて良かった!
それにしても”百聞は一聴にしかず”一度聴いてみる必要がある。それもレコードとそれをCD化したもの2種類の聴き比べが必要。一番懸念しているのは本文にもあるとおり各社ごとにレコードの溝とかの仕様が違うし、またイコライザーカーブはRIAA規格で1950年代半ばに統一されたが機器のほうがどの辺まで精確な読み取りをしたうえで、補正によってきちんと原音が再生できるかどうか。
もし、実在感、生々しさがホンモノであれば、これまで自分が目標の一つにしてきたレコードの音に何とか近づけようとしてきたオーディオ装置の努力(投資)が一体何だったのかとなる。
レーザーターンテーブルの性能が期待に十分沿うものであったと仮定して話を進めると、利用の仕方としては、CDシステムの代替というよりも補完になると思う。1980年以降のデジタル録音によるCDはそのまま現行のCDプレーヤーで聴き、それ以前のアナログ録音のソースへの対応はレーザーターンテーブルということになるのだろう。したがってレコードを大量に保有している人は購入しても十分元が取れそう。
たとえば現在、レコードを針で本格的に再生するとなると、一流のカートリッジ、フォノモーターなどをそろえると軽く100万はオーバーするのだから。
自分の場合、ワディアのCDシステムに250万近くかけたので、レーザーターンテーブルへの100万の投資はバランスとして成り立つが、現役時代のように我がままがきかない立場なのが辛い。それに現在は圧倒的にCDソースの方を大量に保有しているのもマイナス要因のひとつ。また、それほど画期的な音質なら製品化されて10年ほど経つのでもっとマニアの間で大騒ぎになっているはずだというのも素朴な疑問。
一方、プラス要因としては、1980年以前のレコード時代の方が指揮者、演奏者ともに現代よりもはるかに質が高いので、付加価値も当然上がる。それにオークションなどではレコードは二束三文なので今からでも大量に購入できる。(一例だがチラッと入札中を覗いてみると82枚で22750円と相場が出ていた、何と一枚280円程度!)
いずれにしても、すべてはレーザーターンテーブルの性能次第ということになる。
新しいテクノロジーは人を悲しませたり喜ばせたりするが、余計にお金が要ることだけはたしからしい・・・・。