西村一朗の地域居住談義

住居・住環境の工夫や課題そして興味あることの談義

書評:『子どもが育つ生活空間をつくる』(小伊藤亜希子、室崎生子編)(かもがわ出版刊、2009年8月)

2010-06-22 | 生活描写と読書・観劇等の文化
 私の昔からの知り合いで、本書の編者の一人である室崎生子さん(元平安女学院大学・教授)から半年ほど前にこの本を頂いた。で、読んでブログで書評を書くことを約束したのだが、中々読めずに今日に至っている。今日は、その責めの一端を果たしたい。

 こういう共著本の書評は、一般に単著より少し難しい。単著であれば、全体がその著者の構想で首尾一貫しているのが普通であるし、短編の集まったものでも著者の考え方で配列されている。だから仮に全体を読んで、全体の印象を述べると共に、その一部分を強調して批評を試みても特に問題はないだろう。ところが、この本のように12人もの著者の共著となると、しかも編者が二人もいるとなると、何処にターゲットを絞るか極めて難しくなる。全体の意図を読み取って批評し、なおかつ個々の著者に過不足なく批評を加えるのは至難の技である。だから、今回は全体のザクッとした紹介と、特に全体をみて将来に向け気付いたことの一部をここでは述べておきたい。

 この本は、子どもの育つ生活空間として、大きく家(住まい)、学校(主に小学校、保育所等も含む)、地域の三つをあげているが、実際に主に調べ論じているのは、全体を視野に置きつつ「地域」での子どもの育つ生活空間であり、より充実させていく方向性も論じている。全体が三部に分かれている。

第一部は、「豊かな生活を保障する保育・子育て支援」で、「保育所に通う子どもたちの家庭生活」「学童保育所に通う子どもたちの家庭生活」と、ここでは、「学校」と「家庭」の二者の共充実を視野に論じられている。共働きの場合は当然として、専業主婦の場合も、核家族でしかも少子化の条件では、家庭だけでの子育ては不安で不安定であるのは当然で、「保育所」や「学童保育所」の役割が子どもだけでなく親にも重要となる、と論じている。また、「地域」での「ファミリーサポート・センター」事業の可能性と課題も取り上げている。ここで、ふと「職場人間」から「地域人間」になった私など「シルバー」の役割はどうなのだろうと、思った。

第二部は、「共同の子育て環境を創造する試み」で、「子育てひろば」「「育ちあい」の場としてのプレイセンター『ピカソ』」「スウェーデンのオープンプレスクール」「デンマークのデイケアマザー」といった「地域」での先進事例の紹介である。こういう場合、日本の各地で適用・応用しようとしたら何処にとっかかりを見出すのかの示唆も得たいと思った。

第三部は、「地域の空間を子どもたちの居場所に」で「千里の団地・ニュータウン」「京都の伝統的小学校区」「沖縄のプレイパーク」「沖縄のコミュニティ・サロン」の事例報告、「子どもにとって恐そうな場所と実際に恐い場所」の調査報告、最後に「子どもが遊びまわれる地域環境」の条件抽出を調査に基づき行っている。

 全体を見て、捉えかたとしていいなーと思ったのは、「子どもの発達は、即大人の発達だ」ということ、大人が子どもを保護するような姿勢ではなく共に相互に影響し発達するパートナーと捉えていること、しかし、これは十分に読者に届いただろうか、と書き方の工夫を思った。又、書き方についての若干の注文は「生活空間をつくる」のが目的なら、もう少し生活空間の写真、図面、図表に工夫しても良いのではないか、それらが大いに理解を助け深めると思う。「生活空間」として今回の「地域」中心から「家庭(住まい)」や「学校(小学校中心)」そのものにも視野を広げ、将来「子どもの地域生活空間論」に成長されんことを期待する。更に、現政府の子育て方針をあちこちで批判しているが、どこかでまとめて批判的に検討する部分もあっても良かったかもしれない。まあ現在「子育て手当」その他も問題になっているのだから。最後に、研究者、院生、学生向き注文かもしれないが、調査手法についての発達にも留意してほしいということを言いたい。特に小さい子ども(小学生でも低学年)に対しては、直接的アンケート調査や聞き取り調査はほぼ無理なのだから、子どもの目線にたった行動体験調査や観察調査の手法の発達が望まれるのだが、その工夫の一端でも紹介するコーナーがあったら良かったと思う。(2010年6月22日)