酷暑の続いた8月が過ぎ、9月に入り初秋となった。今夏は7月の終わりに、一度小萩川の渓流に行ったきりで、暑さに閉口していたせいもあり、8月は殆ど遠出はせずじまいで、海にも山にも行かなかった。
例年のように、探石にも鉱物採集にも行く気にならなかったのは、歳のせいだろうか。
ひと月も、自宅で毎日変化の無い生活に明け暮れていると、体は鈍ってくるし、脳細胞は硬化してしまう。 適度な運動と新鮮な野外での刺激によって、心身のリフレッシュをしない事には、老化が促進するだけである。
どこかに行こうと思っても、適当な場所が思い浮かばない。それならと、9月になったのを機に、自宅に最も近い伊勢市内の名所、「養命の滝」に行ってみる事にした。
9月の初日は、早朝には涼しくて心地よい秋風のような、やや強目の西寄りの風が吹いていたが、日が昇るに従って真夏さながらの陽射しとなり、午後は厳しい残暑に見舞われた。
昼食をとってから車に乗り、御木本道路を丸山橋の所で右折し、岡本から旭町、藤里を通り前山町に向かう道路を走る。2 km半程行くと、前山橋手前の道路の右側に「1.2 km 養命の滝」と記した立派な道標があり、道路を挟んだ目の前に「式部塚」の木立ちの繁みがある。すぐ先の前山町の交差点の角には、「宮本地区コミュニティセンター」がある。
道標に従って左折し、車一台がやっと通れる程の狭小な仮舗装の山道を登って行く。何軒かの民家や柿畑の間を通り抜けると、やがて藪道となり二又の分岐路に至る。ここにも道標があり、左の道を少し進むと伊勢自動車道(高速道路)の上を横切るコンクリートの跨道橋に至る。
この橋を渡った所で狭い車道は終わり、この先は鼓ヶ岳に登る細い尾根道と、滝に下る羊歯の覆い繁る薄暗い草分道となる。
以前に比べて、散策する人が増加したのか、滝へ下る小径はかなり整備され、今は散策路のようになっている。
ここに来たのは随分久しく、20数年ぶりぐらいである。滝からのせせらぎに雑じり、ツクツクボウシとミンミン蝉が夏を惜しむかのように鳴き競う中、蛇行した細谷に沿って山林を200 m程下ると、大・小二つの小規模な滝の懸かる谷奥の滝壺に至る。
こじんまりとした目暗谷のような現地には、滝音が響くだけで、誰もいない。傍らに小さな祠があり、左側の大きな方の滝には注連縄が張られている。
滝の高さは目測で4mぐらいである。右手の小滝の方は約3mと言ったところか…。こちらは造瀑岩である石墨千枚岩の侵食がはっきりと解り、滝の流路が実にきれいである。
滝壺からは細い谷川が流下し、亀谷郡川(かめたにごがわ)となって前山町を流れ、辻久留町あたりで宮川に合流し注いでいる。
ちなみに、この谷川の転石は、殆どが石墨千枚岩や石英片岩、角閃岩で、これらの河床礫に雑じり、蛇紋岩、斑レイ岩など朝熊山系の塩基性深成火成岩類が少し見られるだけである。
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