伊勢すずめのすずろある記

伊勢雀の漫歩…。
 伊勢の山々から志摩の海までの、自然史スポット&とっておき情報など…。
  感性の趣くままに-。

「伊勢名所」の今、昔 …。

2012年02月01日 | 伊勢

虎尾山から眺めた伊勢の町

 伊勢志摩への旅行客の多くは、マイ・カーを除けば、観光バスか近鉄電車を利用してやってくる。今の伊勢市は、昭和半ばまでは「宇治山田市」と呼称した。さらに昔に遡ると、近鉄電車の前身である「参宮急行」と共に、もう一本の私鉄「伊勢電鉄」があった。それ以前は、明治の半ば頃開通した国鉄・参宮線(省線)が唯一の鉄道であり、最初は「山田駅」(今の伊勢市駅)止まりで、この駅が伊勢神宮の玄関口だった。

伊勢名所・宮川橋~明治30年発行の版画

 江戸時代まで戻ると、東海道の「関の宿場」から分岐する伊勢別街道から参宮街道(旧街道)に入り、幾日も道中を重ねて「宮川の渡し」へと辿り着いた。この宮川の渡しを越えれば、すぐ外宮の森が迫り、人々はこぞって「お伊勢まいり」を済ませ、外宮の門前に開けた山田の町や内宮前(宇治)の旅籠、そして御師の屋敷、さらには歓楽街だった「古市」に投宿をし、遊女達の舞う伊勢音頭の囃子に酔い痴れたものだ。そして、旅の帰りには、朝熊山の金剛証寺に詣で、二見ヶ浦の夫婦岩を拝観したのだろうか。名所巡りの順路図や案内書と共に、伊勢名所各地を描写した数々の刷り物が、当時の「伊勢土産」として多数残存している。
 さらに、ゆとりのあった人々は、鳥羽志摩へと旅の足を延ばしたであろうが、難儀な山越えのルートよりは、伊勢の大港や二見ヶ浦からの船旅だったと思われる。

版画に見る二見ヶ浦の立石

 さて、伊勢の町に育った我が輩は、伊勢に来られた観光客から、この町の「見どころや名所」を訪ねられると、はたと困ってしまう。昔なら外宮・内宮の神苑以外に、市内には神宮徴古館や豊宮崎文庫跡、五十鈴公園に西行谷、洋風建築の立派な郵便局や商品陳列所、古風な神宮皇學館(大学)、五二会(ごにかい)ホテルなどがあり、御幸通りの赤レンガの続く並木道、そして八間道路を少し行った船江には、東洋紡績の広大な山田工場さえあった。

 又、勢田川河口の河崎の町には、土蔵の続く問屋街と共に、河岸には「だるま船」も停泊していたし、山手の古市には、長峰(古市から中之町、桜木町にかけての地名)に沿って延々と続く、切妻の家並みも昔時の名残りをとどめていた。
 さらに、右側通行だった市電に乗って二見ヶ浦へと向かえば、「前田古市口」や「二軒茶屋」の停留所(共に乗り換え駅)と共に、「汐合の鉄橋」も名物であった。そして、宇治山田の駅浦にあったこの市電の車庫も、それなりの物珍しさがあった。戦前ではあるが、朝熊山の北斜面には東洋一の急勾配を誇ったケーブル・カーがあり、山上駅舎の前も、金剛証寺への門前道路として賑わったと言われている。


 果てさて、今はどうだろう・・・。 観光土産や名物餅をはじめとする伝統工芸品や食品などは、実に沢山あり、中には伊勢の名産品や特産品として紹介できるものも多数あるが、昔のような名所見物にふさわしい恰好の場所となると、町並みの保存された河崎の商家街(かつての問屋街)か、朝熊山に登り鳥羽へと下る「伊勢志摩スカイライン」からの眺めぐらいであろうか・・・。

宇治のお祓通り~参拝客はここから「おかけ横丁」へと向かう

 昨今は、宇治橋の前からみやげ物店の並ぶ「お祓通り」を数百mほど歩いた、赤福本店前の路地裏にある「おかげ横丁」が観光客で賑わいを見せている。ここには、民家を増改築した十数軒の名物食の飲食店や、観光客向けの名産品店なとが寄せ集まり、ショッピング兼レスト・スポットとなってはいるが、果たして伊勢の「新名所」と言えるのだろうか。
 伊勢の市内には、今もなお歴史的な旧跡や古刹、伊勢神宮の摂社・末社など方々に点在するが、それぞれがただぽつんと、繁華街からは取り残されたように、昔時の姿をとどめているだけである。

昭和の中頃までの江海岸~当時の観光絵葉書より


 最後に、交通の便が良くないので、お薦めとはいかないが、伊勢の隠れた名所としてごく最近、再整備が成された「伊勢の平家谷」を紹介しよう。ここは、サニー道路から東に分岐して入る伊勢市背後の山峡で、かつての没落平氏の隠れ里である。入口の横輪町には「郷の恵・風輪」(「道の駅」風の施設)がある。週に2日ほど休業日があるが、当地の見どころスポットや季節のイベント情報を提供してくれる。春は桜(横輪桜)の名所でもあり、滝や渓流などのほか、奥の矢持町には小規模な鍾乳洞(鷲嶺の水穴と覆盆子洞。いずれも県指定の天然記念物)もある。


   ブログのバックナンバーもご覧下さい。

お伊勢さんのその昔」(2010年10月11日)

二見町の話~名所・風物回想記~」(2010年6月30日)

伊勢の山里・横輪町」(2010年5月16日)

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