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2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【欧州】ドイツ議会選挙で極右政党が大躍進 ~危機感強める経済界~

2017年10月24日 | 社会
 (1)9月末にドイツで行われた連邦議会選挙で、ユーロ圏脱退と排外主義を標榜する極右政党が第3党に躍進したことについて、経済界は強い懸念を表明した。
 今回の選挙では、政権与党のキリスト教民主同盟・社会同盟(CDU・CSU)と社会民主党(SPD)が大幅に得票率を下げた。一方、極右政党、ドイツのための選択肢(AfD)は、メルケル首相の難民政策に不満な有権者の強い支持を受け、前回の選挙に比べて得票率を2.7倍に伸ばした。
 極右政党が94人もの議員団を連邦議会に送り込むのは、初めて。同党はドイツのユーロ圏やパリ協定からの脱退、国境検査の強化と難民流入の規制、脱原子力・再生可能エネルギー拡大政策の見直しなどを求めている。

 (2)ものづくり大国ドイツでは、外国貿易への依存度が高い。このため経済界の重鎮たちはAfDの躍進を口々に批判する。
 最も率直に危惧を表明したのは、ドイツ経営者連盟のクラーマー会長。彼は「AfDが連邦議会に議席を持つことは、ドイツの国益を害する。第4次メルケル政権は、さまざまな困難を克服して欧州統合を深化させ、ドイツがナショナリズムや孤立主義の時代に逆戻りすることを防ぐべきだ」と語った。
 またドイツ産業連盟のケンプ会長は、「AfDの基本思想は、排外主義だ。この党は、これまでドイツを強くしてきた思想や路線を見直すことを狙っている」と警告。ケンプ氏が代表するドイツ産業界は、第2次世界大戦後ドイツが国籍や人種にかかわらず人権を尊重し、市場開放主義や欧州連合(EU)の政治・経済統合を強化してきたことが、今日のドイツ経済を強くしたと考えている。彼は「第4次メルケル政権には、国民の信頼を一刻も早く取り戻してほしい」と訴えた。

 (3)ドイツ商工会議所連合会のシュヴァイツァー会長も、「ドイツ企業の4社に1社は貿易に大きく依存している。深刻な人手不足のために、10社のうち7社が、エンジニアなど特殊技能を持った外国人を必要としている。わが国の経済界は、開かれた国境、自由市場、開かれた社会に大きく依存している」と述べ、孤立主義に警鐘を鳴らした。

 (4)フォルクスワーゲングループのミュラーCEOは、「AfDは極右勢力であり、外国人に敵対的だ。このような党が2桁の得票率を確保したことはショックだ。この選挙結果は、歴史的な後退だ」と衝撃を隠さなかった。またシーメンスのケーザーCEOは、「今回の選挙結果はドイツのエリート層の敗北だ。AfDを選んだのは、社会の隅に押しやられたと感じている人々だ。エリート層は、彼らに関心を払わなかった。今後は、負け組と感じている人々を社会に取り込み、彼らに希望を与えなくてはならない」と述べ、ドイツでも米国や英国のように、所得格差が右派ポピュリズムにとって追い風となっているという見方を示した。

 (5)輸出産業を中心に好景気が続く中、ドイツ経済界は、CDU・CSUとSPDの大連立政権の継続を望んでいた。彼らは極右躍進が各国との経済関係に影を落とすことを最も恐れている。緑の党や自由民主党(FDP)との連立交渉も難航している。メルケル首相の4期目は、茨の道となるだろう。

□熊谷徹(ドイツ在住ジャーナリスト)「ドイツ議会選挙で極右政党が大躍進/危機感強める経済界」(「週刊ダイヤモンド」2017年10月28日号)
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