6月に介護保険法が改正された(2012年4月施行)。
(1)「地域包括ケア」とは何か
団塊世代が高齢化のピークに達する2025年までに「高齢者が地域で自立した生活を営めるよう、医療、介護、予防、住まい、生活支援サービスが切れ目なく提供される」体制づくりだ。
12年度から、各自治体は基盤整備に向けた介護保険事業計画を策定する。
柱は、医療と介護の連携強化だ。(a)病院での死亡8割を在宅での死亡4割にする。(b)介護職員に「たん吸引」など医療行為を認めて医療費のコストを削減する。・・・・「入院から在宅へ」「医療から介護へ」への強力なシフトだ。
新たな在宅サービスとして、(c)「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」を創設。(d)小規模多機能居宅介護と訪問看護を組み合わせた「複合サービス」も導入される。
地域包括ケアの日常生活圏域は、中学校区が基準となる。
「住まい」は介護・医療サービスの拠点を併設させた「サービス付き高齢者向け住宅」(高齢者住まい法改定)を整備する。コストの高い施設建設はやめ、集住化を図り、終末期の在宅ケアを可能にする。
要するに、公費抑制と効率化、脱施設という名の「地域の施設化」だ。
(2)「地域包括ケア」の問題点
(a)「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」は、人材確保が課題だ。介護報酬は定額制で、利用制限につながるおそれがある。しかも、訪問時間は15分程度で、適切な介護・介助ができるか疑問な点がある。参入事業者は、日常生活圏域に1事業所を自治体による公募で決定するため、大手業者による寡占化が進み、小さな事業所は淘汰されかねない。
(b)「サービス付き高齢者向け住宅」は、ゼネコンや建設業者がビジネスチャンスと捉えている。だが、入居は主に団塊世代の厚生年金受給者が対象であり、低所得者への住宅供給は明確にされていない。
介護保険は、「公助」から「共助・自助」へと縮小されてようとしている。
(3)「介護予防・日常生活支援総合事業」の導入とその問題点
自治体の判断で、要支援認定者の一部を介護予防給付から総合事業に組み入れることが可能になる。
サービス内容は、自治体の裁量だ。地域格差の拡大、保険外サービス(<例>配食・見守り)で新たな負担(自助)が生じる可能性がある。
介護度の低い高齢者を国の公的責任(公助)から切り離し、その責任を自治体に「丸投げ」したものだ。「地域主権改革」という名の「安上がり介護」だ。
実際のサービスは、民間事業者、NPO、地域の有償ボランティアが担う(共助・互助)ものと想定されている。
だが、公共性の高い福祉を、玉石混淆の「共助・互助」で支えられるのか。介護度が低くても日常の小さな変化が重症化につながるおそれがあり、専門的訓練を受けた正確な観察力が必要だ。また、プライバシー侵害や虐待の危険も懸念されている。
介護の「社会化」をめざした介護保険制度は、社会保障費抑制のなかで公的責任を後退させてきた。コムスン事件以降は、給付の適正化が図られ、介護予防の導入で軽度者が切り捨てられた。<例>訪問介護は短時間の細切れ介護が常態化し、収入確保のため訪問件数が過密状態になった。そして、利用者は介護職員と接する時間が減り、孤独感を深めた。
(4)保険外サービス
NPO法人「グレースケア機構」(東京都三鷹市)は、利用者に必要なサービスを提供している。
身体介護と生活支援で1時間3,150円。全額自己負担だが、外食、旅行の同行、入退院の準備付き添い、整容、各種手続き代行など介護保険では適用されないサービスを自由に選択できる。利用者は月延べ70人。
保険外のため利用者の自己負担は重くなるが、「生活全体をサポートできるため、ニーズは多い。ケアの質を高めつつ、スタッフの報酬を上げていくシステムを作りたい」(柳本文貴・代表)。
「新しい公共」の取り組みが、公的介護保険制度の理念の喪失を浮き彫りにする。
以上、平館英明「公助から自助・共助へ 放棄された介護の「社会化」」(「週刊金曜日」2011年月日号)に拠る。
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(1)「地域包括ケア」とは何か
団塊世代が高齢化のピークに達する2025年までに「高齢者が地域で自立した生活を営めるよう、医療、介護、予防、住まい、生活支援サービスが切れ目なく提供される」体制づくりだ。
12年度から、各自治体は基盤整備に向けた介護保険事業計画を策定する。
柱は、医療と介護の連携強化だ。(a)病院での死亡8割を在宅での死亡4割にする。(b)介護職員に「たん吸引」など医療行為を認めて医療費のコストを削減する。・・・・「入院から在宅へ」「医療から介護へ」への強力なシフトだ。
新たな在宅サービスとして、(c)「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」を創設。(d)小規模多機能居宅介護と訪問看護を組み合わせた「複合サービス」も導入される。
地域包括ケアの日常生活圏域は、中学校区が基準となる。
「住まい」は介護・医療サービスの拠点を併設させた「サービス付き高齢者向け住宅」(高齢者住まい法改定)を整備する。コストの高い施設建設はやめ、集住化を図り、終末期の在宅ケアを可能にする。
要するに、公費抑制と効率化、脱施設という名の「地域の施設化」だ。
(2)「地域包括ケア」の問題点
(a)「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」は、人材確保が課題だ。介護報酬は定額制で、利用制限につながるおそれがある。しかも、訪問時間は15分程度で、適切な介護・介助ができるか疑問な点がある。参入事業者は、日常生活圏域に1事業所を自治体による公募で決定するため、大手業者による寡占化が進み、小さな事業所は淘汰されかねない。
(b)「サービス付き高齢者向け住宅」は、ゼネコンや建設業者がビジネスチャンスと捉えている。だが、入居は主に団塊世代の厚生年金受給者が対象であり、低所得者への住宅供給は明確にされていない。
介護保険は、「公助」から「共助・自助」へと縮小されてようとしている。
(3)「介護予防・日常生活支援総合事業」の導入とその問題点
自治体の判断で、要支援認定者の一部を介護予防給付から総合事業に組み入れることが可能になる。
サービス内容は、自治体の裁量だ。地域格差の拡大、保険外サービス(<例>配食・見守り)で新たな負担(自助)が生じる可能性がある。
介護度の低い高齢者を国の公的責任(公助)から切り離し、その責任を自治体に「丸投げ」したものだ。「地域主権改革」という名の「安上がり介護」だ。
実際のサービスは、民間事業者、NPO、地域の有償ボランティアが担う(共助・互助)ものと想定されている。
だが、公共性の高い福祉を、玉石混淆の「共助・互助」で支えられるのか。介護度が低くても日常の小さな変化が重症化につながるおそれがあり、専門的訓練を受けた正確な観察力が必要だ。また、プライバシー侵害や虐待の危険も懸念されている。
介護の「社会化」をめざした介護保険制度は、社会保障費抑制のなかで公的責任を後退させてきた。コムスン事件以降は、給付の適正化が図られ、介護予防の導入で軽度者が切り捨てられた。<例>訪問介護は短時間の細切れ介護が常態化し、収入確保のため訪問件数が過密状態になった。そして、利用者は介護職員と接する時間が減り、孤独感を深めた。
(4)保険外サービス
NPO法人「グレースケア機構」(東京都三鷹市)は、利用者に必要なサービスを提供している。
身体介護と生活支援で1時間3,150円。全額自己負担だが、外食、旅行の同行、入退院の準備付き添い、整容、各種手続き代行など介護保険では適用されないサービスを自由に選択できる。利用者は月延べ70人。
保険外のため利用者の自己負担は重くなるが、「生活全体をサポートできるため、ニーズは多い。ケアの質を高めつつ、スタッフの報酬を上げていくシステムを作りたい」(柳本文貴・代表)。
「新しい公共」の取り組みが、公的介護保険制度の理念の喪失を浮き彫りにする。
以上、平館英明「公助から自助・共助へ 放棄された介護の「社会化」」(「週刊金曜日」2011年月日号)に拠る。
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