語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【読書余滴】野口悠紀雄&幸田真音の、「定期預金」をしている人が危ない ~日本経済の大問題 ~

2011年01月03日 | ●野口悠紀雄
 野口悠紀雄は、『世界経済危機 日本の罪と罰』(ダイヤモンド社、2008)第7章の「1 資産の運用はどうしたらよいか?」のうちpp.229-230で、定期預金について次のように書いている。
 「日本では過去10年以上にわたって、超低金利が続いた。しかし、資産を定期預金で運用することが、格別の問題を引き起こしたわけではない。なぜなら、物価上昇率もほとんどゼロだったからだ。定期預金の名目収益率は低かったものの、元本が目減りするような事態にはならなかった。(中略)一攫千金のチャンスは逃すかもしれないが、破滅するよりはいいだろう。事態が落ち着くまで定期預金で運用して待ち、落ち着いてから、成長する国・セクターへの分散株式投資を考えればよい。いまが金融資産への投資でリスクを取るときとは考えられない」
 しかし、2010年末に刊行された(奥付の発行日は2011年1月10日)『日本人が知らない日本経済の大問題』では、少し違ったことを言っている。

   *

 日本国内のいわゆる富裕層は少しずつキャピタルフライト【注1】を始めている。マスコミはほとんど取りあげていないが、かなりやっているのではないか。
 国にとっては、キャピタルフライトは怖い。富裕層は、何とか対応できるということだ。手段はいくらでもある。

 困るのは、一般の人だ。「特に定期預金をしている人。私のような人です(笑)」と野口。
 こんな低金利にもかかわらず、みなさん、日本で預金をしている。日本の個人金融資産1,400兆円のうち、約800兆円が預貯金だ。GDPお約160%も預貯金を持っているのは、先進国の中で日本だけだ。勤勉に働いて貯めこんだお金だ。
 しかし、いざ逃げようと思っても逃げられない。苛酷なことになる。

 国は、インフレによって債務を減らせるからよい。
 しかし、それも確実ではない。なぜなら、どこかでインフレを断ち切る必要があるからだ。最初は国債の実質価値が下がり、財政赤字が解消される。しかし、次には支出が増え始める。
 今の日本は社会保障費が大きくなっている。社会保障費はインフレスライドする。物価上昇に伴って額がふくらんでいく。結果として、支出が増えてしまう。だから、財政の側からするとインフレをどこかで断ち切る必要がある。しかし、これは容易ではない。

 財務省と日銀の最大の課題はインフレ対策だ。
 まず必要なのは、キャピタルフライトをどう食い止めるか、だ。強制的為替管理をどうやるか。
 預金封鎖【注2】もありえる。だが、それには法律的な手だてが必要だ。

 日本の政治は、あまりにも頼りないというか、いざとなったら預金封鎖などという劇薬のような対処を覚悟をもってできる政治家はいない。
 歴史的にみて、国の経済が疲弊の極に達すると、非常に強力な政治家が登場した。80年代の米国には、レーガン。同じころの英国には、サッチャー。ソ連では、ゴルバチョフが登場した。それが、ある種の歴史法則ではないか。
 日本に誰も登場しないとなると、日本はついに歴史法則からも見放されたことになる。

 【注1】資本逃避。国外へ資本が一斉に流出すること。主として、その国の通貨に対する責任が落ちこんだ時、高度のインフレなどで通貨価値が急落する時に起きる。かかる状態では、国内の金融がさらに混乱する。金融システムや実体経済はマヒ状態になる。
 【注2】銀行預金などの金融資産の引き出しを制限すること。政府の財政が破綻寸前になると、国民の資産に税金をかけ、破綻から免れようとすることがある。その際、通貨切替などをした上で旧通貨を無効にし、金融機関に改修させる方法がある。この場合にも金融封鎖が行われる。

【参考】野口悠紀雄/幸田真音『日本人が知らない日本経済の大問題』(三笠書房、2011.1)
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