(1)11年度予算の死相
昨年12月24日に閣議決定された11年度予算は、10年度予算よりはっきりと死相が表れている。
国債発行額は、「埋蔵金」を使っているため、実質的には50兆円を超えている。
他方、何が目的かわからない施策に、巨額の資金がつぎ込まれている。「3K」(子ども手当、高速道路料金、農家個別所得補償)がその代表だ。
そして、基礎年金負担率引き上げの恒久財源は、実現できなかった(11年度予算までに手当てしなければならない、と法律は定める)。
政策担当者は、日本の将来を左右する事柄に明確な戦略をもっていない。その対処に全力を傾注していない。選挙のための人気取りとつじつま合わせの算術だけがすべてのように見受けられる。
(2)日本財政の基本的な課題
人口高齢化が進展している。その半面、財政がそれに対応した構造に転換していない。これが巨額の国債発行が続いている理由だ。
社会保障給付は、制度を変えないかぎり高齢者人口増大によって、ほぼ自動的に増える。ことに団塊世代が受給年齢に達したから、これまで以上に増加圧力が高まる。
その半面、税構造は90年代から基本的には何も変わっていない。日本経済衰退に伴って、税収が減少している。
したがって、次のいずれかを選択しなければならない。(ア)社会保障制度(特に公的年金)を抜本的に改革して給付を削減するか、(イ)今後増え続ける社会保障給付に見合った恒久財源を用意するか。
(3)消化しきれなくなる国債
現在の国債消化メカニズムは、持続可能ではない。
90年代までは、家計貯蓄が増えて、定期預金が増加し、それを原資として銀行が国債を購入してきた。
しかし、最近の約10年間は、企業貸付けが減少することで国債が消化されている。したがって、銀行の資産に占める国債の比重が増加している。
日本企業に資金需要がないため、これまで問題は起こらなかった。しかし、この方式は、いつか破綻する。
なお、日本では家計資産が1,400兆円以上あるが、この家計資産はすでに国債や企業貸付けに使用されている。その総額が増えないかぎり、企業貸付け等を減らさなければ増加する国債を消化することはできない。
(4)行き詰まるまであと10年
野口の試算によれば、現在の国債消化メカニズムはあと10年程度しか続かない。こうなるずっと前に、銀行資産の大部分が国債になる。これはきわめて危険な事態だ。
国債の償還に懸念が強まると、国債価格が下落する。国債は基本的には単一の資産なので、価格下落は一挙に生じる。すると、銀行の資産も一挙に悪化する。
国債には、企業貸付けの場合とちがって、担保が存在しない。
ギリシャやアイルランドは、EUが救済した。日本には、こうした救済者はいない。
(5)インフレ
金融機関の破綻を回避するには、日銀が銀行保有国債を購入するしかない。さらに、新規発行国債を日銀が直接引き受けなければならなくなるだろう(国会の議決が必要)。すると、通貨発行額が増大する。インフレが引き起こされる。
国内のインフレで円安になり、輸入物価が高騰して、さらにインフレが激化する。日本の家計が保有する金融資産の大部分は定期預金だ。この実質価値がインフレによって下落する。
国債の海外消化が試みられるかもしれないが、買いたたかれて円安がもたらされる。輸入物価の高騰、国内のインフレを引き起こす。結局は同じことになる。
日本の財政は、歳出の見直しや増税で解決できる段階をすでに超えている。発生時期には若干の不確実性が残るものの、インフレの到来は必然である。
現在でもすでに富裕層は資産のかなりの部分を対外資産にしているが、資本の海外逃避が生じた場合、円安・インフレ経済への転換は前倒しで起きる。
なお、インフレによる円安は、円の実質価値を低めない。だから、輸出は増えない。
(6)政治の貧困
「以上で述べたことは、問題の規模がきわめて大きいだけに、対応に十分な時間が必要だ。それこそが政治の果たすべき役割なのである。その役割を、現在の日本の政治はまったく果たしていない」
【参考】野口悠紀雄「破綻を明確に示す来年度予算の惨状 ~「超」整理日記No.544~」(「週刊ダイヤモンド」2011年1月15日号所収)
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昨年12月24日に閣議決定された11年度予算は、10年度予算よりはっきりと死相が表れている。
国債発行額は、「埋蔵金」を使っているため、実質的には50兆円を超えている。
他方、何が目的かわからない施策に、巨額の資金がつぎ込まれている。「3K」(子ども手当、高速道路料金、農家個別所得補償)がその代表だ。
そして、基礎年金負担率引き上げの恒久財源は、実現できなかった(11年度予算までに手当てしなければならない、と法律は定める)。
政策担当者は、日本の将来を左右する事柄に明確な戦略をもっていない。その対処に全力を傾注していない。選挙のための人気取りとつじつま合わせの算術だけがすべてのように見受けられる。
(2)日本財政の基本的な課題
人口高齢化が進展している。その半面、財政がそれに対応した構造に転換していない。これが巨額の国債発行が続いている理由だ。
社会保障給付は、制度を変えないかぎり高齢者人口増大によって、ほぼ自動的に増える。ことに団塊世代が受給年齢に達したから、これまで以上に増加圧力が高まる。
その半面、税構造は90年代から基本的には何も変わっていない。日本経済衰退に伴って、税収が減少している。
したがって、次のいずれかを選択しなければならない。(ア)社会保障制度(特に公的年金)を抜本的に改革して給付を削減するか、(イ)今後増え続ける社会保障給付に見合った恒久財源を用意するか。
(3)消化しきれなくなる国債
現在の国債消化メカニズムは、持続可能ではない。
90年代までは、家計貯蓄が増えて、定期預金が増加し、それを原資として銀行が国債を購入してきた。
しかし、最近の約10年間は、企業貸付けが減少することで国債が消化されている。したがって、銀行の資産に占める国債の比重が増加している。
日本企業に資金需要がないため、これまで問題は起こらなかった。しかし、この方式は、いつか破綻する。
なお、日本では家計資産が1,400兆円以上あるが、この家計資産はすでに国債や企業貸付けに使用されている。その総額が増えないかぎり、企業貸付け等を減らさなければ増加する国債を消化することはできない。
(4)行き詰まるまであと10年
野口の試算によれば、現在の国債消化メカニズムはあと10年程度しか続かない。こうなるずっと前に、銀行資産の大部分が国債になる。これはきわめて危険な事態だ。
国債の償還に懸念が強まると、国債価格が下落する。国債は基本的には単一の資産なので、価格下落は一挙に生じる。すると、銀行の資産も一挙に悪化する。
国債には、企業貸付けの場合とちがって、担保が存在しない。
ギリシャやアイルランドは、EUが救済した。日本には、こうした救済者はいない。
(5)インフレ
金融機関の破綻を回避するには、日銀が銀行保有国債を購入するしかない。さらに、新規発行国債を日銀が直接引き受けなければならなくなるだろう(国会の議決が必要)。すると、通貨発行額が増大する。インフレが引き起こされる。
国内のインフレで円安になり、輸入物価が高騰して、さらにインフレが激化する。日本の家計が保有する金融資産の大部分は定期預金だ。この実質価値がインフレによって下落する。
国債の海外消化が試みられるかもしれないが、買いたたかれて円安がもたらされる。輸入物価の高騰、国内のインフレを引き起こす。結局は同じことになる。
日本の財政は、歳出の見直しや増税で解決できる段階をすでに超えている。発生時期には若干の不確実性が残るものの、インフレの到来は必然である。
現在でもすでに富裕層は資産のかなりの部分を対外資産にしているが、資本の海外逃避が生じた場合、円安・インフレ経済への転換は前倒しで起きる。
なお、インフレによる円安は、円の実質価値を低めない。だから、輸出は増えない。
(6)政治の貧困
「以上で述べたことは、問題の規模がきわめて大きいだけに、対応に十分な時間が必要だ。それこそが政治の果たすべき役割なのである。その役割を、現在の日本の政治はまったく果たしていない」
【参考】野口悠紀雄「破綻を明確に示す来年度予算の惨状 ~「超」整理日記No.544~」(「週刊ダイヤモンド」2011年1月15日号所収)
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