語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【読書余滴】野口悠紀雄の、5%の消費増税では焼け石に水 ~いくら不足するか~

2011年01月30日 | ●野口悠紀雄
(1)増税の目的を明確にする
 日本の財政は、5%程度の消費税率引き上げでは、焼け石に水でしかない。事態を改善するには、ケタ違いの大規模な増税が必要だ。それを認識すれば、とるべき方策はまったく異なるものになる。
 増税の目的は、(a)現在すでに生じている財政赤字の縮小だ。
 しかし、これだけでは十分ではない。今後、財政支出は増大するからだ。わけても社会保障関係費は、高齢者人口の増大によって不可避的に増加する。よって、(b)将来の社会保障費増加に対応することが必要だ。

(2)財政赤字の縮小に必要な消費税率
 (1)の(a)および(b)の目的達成のために、いくら増税が必要か。
 (a-1)仮に2011年度の公債金収入と「その他歳入」の和52兆円のすべてをゼロにすることを目的とすれば、37%の引き上げ(つまり合計42%)が必要だ。(a-2)仮にユーロ加盟条件の15兆円まで減少させることを目的とすれば、26.5%の引き上げ(つまり合計31.5%)が必要だ【注1】。

 【注1】
 財政赤字を現状からx兆円だけ減少させるために必要な増税額は、1.43x兆円である(増収額の3割は地方交付税に回されるから)。
 消費税率をt%引き上げると、そのうち国税分は0.8t%である(0.2t%は地方消費税分)。
 消費税率1%での税収は、2.5兆円である。
 よって、1.43x兆円の税収を上げるためには、消費税率を0.715x%引き上げる必要がある。

(3)社会保障費の自然増に必要な消費税率
 11年度予算で29兆円の社会保障関係費は、今後10年間で6.4兆円増加する【注2】。
 これを補うために必要な消費税率の引き上げ幅は、【注1】の算式から4.6%となる。
 消費税率を5%程度引き上げたところで、社会保障の自然増に対応することで精一杯であり、公債発行額を目立って減額させることにはならない。
 公債発行額を15兆円に減らすことを目的とするなら、31.5%+4.6%=36.1%にしなくてはらなない。
 民主党の「最低保障年金」は、財源の点でまったく不可能であることがわかる。
  
 【注2】
 過去の推移をみると、社会保障給付費は65歳以上人口の増加にほぼ比例して増加している。65歳以上人口は、20年には10年の22%増加する。したがって、保険料や地方との費用分担比率を不変とすれば、一般会計の社会保障関係費もほぼその程度の率で増加すると予想される。

(4)国債費の自然増
 事は、財政赤字の縮小や社会保障費の自然増だけで終わらない。
 増税によって財政赤字がy兆円まで圧縮されたとする。これは、国債残高をy兆円だけ増加させることと同じだ。
 国債残高が増加すれば、利払いと償還費からなる国債費は、それに比例して増加する。現在10年物国債の発行利回りは1.2%である。60年償還を前提とすれば、国債残高y兆円増加による国債費の増加は、ほぼ2.9y/100兆円だ。これが国債費の自然増である。
 yが40であるとすると、1.2兆円である。これは社会保障の自然増より大きな額だ。10年間で12兆円になる。【注1】の算式からすると、消費税率を8.6%引き上げなければならない。

(5)残る問題
 税の自然増収がないとすれば、歳出増は公債金収入に頼らざるをえない。すると、国債残高はさらに増加することになり、孫利子、曾孫利子などが累積して、国債費は雪だるま式に増加していくのだ。
 もっと恐ろしい問題もある。上記の計算は国債利回りとして現状の数字を用いた。しかし、国債の消化に問題が生じれば、この数字は急騰するおそれがある。そうなると、国債費は一挙に増加する。

(6)財政改革の方向づけ
 日本の財政状況を根本的に改革するためには、次の二つが不可欠だ。
 第一、社会保障制度の抜本的見直し。年金支給年齢を75歳に引き上げる程度の大規模な改革が必要だ。
 第二、税制改革。消費税のようなフローに対する課税では対応できない。資産を課税ベースとする課税を検討することだ。

【参考】野口悠紀雄「5%の消費増税では焼け石に水 ~「超」整理日記No.547~」(「週刊ダイヤモンド」2011年2月5日号)
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