語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

書評:『図解ユダヤ社会のしくみ -現代ユダヤ人の本当の姿がここにある-』

2010年12月27日 | 社会
 本書は、ユダヤ人の宗教とその社会、そして現代のイスラエルという国家をわかりやすく紹介する。手頃な分量だし、読みやすい構成だ。「2時間でわかる」と銘打つのも、あながち誇大な宣伝ではない。
 ただ、注意しなければならないのは、著者の立場である。
 イスラエルは、敵意あるアラブ諸国の大海に浮遊する小舟である。1948年の建国以来、周囲の国々と戦さを重ねてきた。1993年にイスラエルとPLOが相互承認したことで紛争は一段落したかに見えたが、イツハク・ラビン元首相が暗殺後、政治情勢が変転に変転を重ねた。2003年10月現在、中東和平は混迷の度を加えている。かかる情勢を中立の立場で見るのは難しい。
 著者の立場は明白である。たとえば、パレスチナ難民については、ほとんど言及されていない。わずかに言及されている箇所では、イスラエル建国当時「戦争でパレスチナ人の難民問題が生まれ、ユダヤ人側にもほぼ同数のユダヤ人難民が発生しました。アラブ諸国から追い出されたのです」と書くのみ。お互いさま、というわけだ。
 ユダヤ人難民が生じたのは事実であり、この事実がしばしばマスコミの話題となるパレスチナ難民にくらべて看過されているのはたしかである。だから双方を公平に見るべきだ、という議論は、ユダヤ難民の現在とパレスチナ難民の現在とを比べると、説得力が薄い。
 とはいえ、極力客観的な情報を提供しようとしている姿勢が伺えるから、本書は日本の読者がさらに詳しく知るための一つの資料として利用できる。その意味で、参考文献の紹介があれば親切だった、と思う。

□滝川義人『図解ユダヤ社会のしくみ -現代ユダヤ人の本当の姿がここにある-』(中経出版、2001)
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