語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【読書余滴】野口悠紀雄の、中国のバブルとその後 ~「超」整理日記No.542~

2010年12月20日 | ●野口悠紀雄
(1)中国のバブル
 中国は、経済危機後も成長し続けてきた。中国の輸出品は消費財が中心なので、日本の輸出ほど大きくは落ちこまなかった。とはいえ、輸出依存度は日本より高い。だから、大方の予想を超える成長ぶりだった。
 この最大の原因は、極度の金融緩和によって住宅投資を増加させた点にある。人民元に対する増価圧力がさほど大きくならなかったのも、そのためだ。
 工業化に伴う都市化により、中国の都市人口は急増している。だから、住宅に対する需要はきわめて多い。金融緩和により需要が爆発的に増加し、住宅価格が上昇した。都市部における住宅は、労働者の賃金所得で購入できる限度を超えている。上海や北京の普通の住宅が、日本の同じような住宅と同じような価格になっている(中国の一人当たりGDPは、日本の10分の1である)。将来の価格上昇を織りこんだ購入行動だ。つまり、これはバブルだ。
 純粋に投機的な購入もかなり多いらしい。だから、中国政府は、二軒目、三軒目の住宅購入に対する条件を強化する政策をとった。

(2)中国の金融引き締め
 このたび、中国が金融政策を変更した。これまで緩和しすぎた金融を引き締めるらしい。
 この金融引き締めは、普通に考えれば、バブル崩壊、不動産価格の暴落をもたらす。結果として生じる不良債権問題が金融危機を起こす可能性もある。
 80年代後半の日本の不動産バブルの場合、投機の対象は空地が中心だった。ビル需要の増加が予測されたが、実際にはそうした需要は現れず、不良債権の山が金融機関に残された。
 他方、いま中国で価格が上昇しているのは住宅である。その背後には都市化があり、この傾向は今後も継続する。不動産に対する需要は実需である。だからいくら価格が上昇してもバブルにならない・・・・とは言えない。
 日本でも、住宅価格もつられて上昇し、バブル崩壊によって下落した。
 米国でも、02~07年頃不動産バブルが生じた。移民などで人口は増加していたが、06年頃に住宅価格がピークに達してバブル崩壊し、金融危機が発生した。
 中国では、住宅はかなり投機的取引があるし、労働者の賃金水準では正当化できないレベルに上昇している。現状は長期的には持続できない。
 通常、バブル崩壊による経済混乱は債務不履行とそれによる金融機関の損失拡大によって生じる。
 しかし、中国政府のバブル対策が予測できない。中国は、これまで経済の常識では理解できない動きを示してきたからだ。

(3)中国が直面する問題
 中国政府が直面する問題は、不動産価格バブル崩壊による混乱だけではない。金融引き締めは、人民元高をもたらし、貿易黒字を減少させるはずだ。経済の落ちこみを防ぐため、財政支出を増加させる、と中国政府はいう。仮にそれが実行されたら、国内の金利上昇をさらに進め、元に対する増価圧力をさらに強めるはずだ。
 しかも、米国は大幅な金融緩和をすでに実施している。中国への資金流入圧力が生じ、元の増加圧力になっているはずだ。中国の金融引き締めはと財政支出増加は、この傾向を加速するはずである。
 半年ほど前と比較すれば、3つの大きな要因が元高方向に作用するはずだ。
 元の増価は、中国の貿易黒字を減少させる。中国は、国内の住宅建設の現象(場合によってはバブル崩壊)と対外黒字の減少という二つの需要下落に直面することになる。

(4)中国の対応
 (3)は、国際間の自由な資本移動を前提としたものだ。
 しかし、実際には、中国は先進諸国とは違って、強力な資本取引規制を行っている。米国の金融緩和による元の増価と貿易黒字減少を防ぐため、中国通貨当局はこれまで以上に必死になって資本の流入を食い止めるだろう。したがって、本来であれば中国に流入して元を増価させるはずの資金は、実際には自由には流入できない。
 その結果、為替市場において元に対する超過需要が生じ、需給不均衡状態が生じる。中国人民銀行は、これまで以上に大量の元売りドル買い介入を行う。その結果、国内の金融は緩和し、意図した金融引き締め効果は得られない。
 また、巨額のドル資産を外貨準備で保有することになるが、それはドル安による価値減少に直面する。
 問題は、こうした不安定状態をいつまで続けられるか、だ。
 歴史的にみれば、為替レート変動が一方向に偏って予測されている場合の攻防戦は、常に市場側が勝利し、通貨当局が敗北する結果に終わっている。
 中国の為替政策は、理論的のみならず歴史上でも明らかなマクロ経済学の法則を超えられるだろうか。

【参考】野口悠紀雄「中国のバブル対応は経済法則を超えるか ~「超」整理日記No.542~」(「週刊ダイヤモンド」2010年12月25日・2011年1月1日号所収)
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