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語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【読書余滴】野口悠紀雄の、過去最低の就職内定率の原因と対策 ~「超」整理日記No.540~

2010年12月05日 | ●野口悠紀雄
(1)過去最低の就職内定率
 2011年3月大学卒業者の就職内定率は、10月1日時点で、57.6%である。1996年以降、最低の数値である。
 過去の実績をみると、4月時点の就職率は10月時点のそれより30ポイント高くなる。この傾向が続くならば、来年4月の就職率は9割程度になるだろう。大学新卒者の失業率は10%前後になるだろう。
 これはきわめて深刻な事態である。次の諸点を考慮すれば放置できない大問題である。
 
(2)日本経済の構造的変化
 第一に、短期的・循環的な現象ではない。
 円高を背景にして、製造業の海外への脱出が急増している。日本企業は、今後企業の中心となるべき人材を日本人に限定しなくなった。これを象徴的に表すのが、パナソニックが新規採用の8割を外国人としたことだ。設備投資においては、海外投資の伸びが国内投資の伸びをはるかに上まわっている。雇用について同じことが起こっても不思議ではない。
 新卒者内定率が過去最低の水準に落ちこんだ背景には、日本経済のこうした構造変化がある。
 新卒者の就職難は、今後長期にわたって継続するだろう。対症療法で解決できるものではない。これを変えるには、経済の構造を変える必要がある。

(3)労働市場
 第二に、雇用政策との関係だ。
 政府は、新成長戦略の中で、介護分野での雇用を増加させる、としている。
 しかし、日本の労働市場はいくつかの市場に分断されている。大学新卒者の就職市場と介護分野の労働市場とは、別の市場だ。
 仮に介護分野の労働需要が増えたとしても、大学新卒者の就職状況は改善しないだろう。

(4)解決策
 第三に、大学新卒時での就職の失敗は、その人の一生を左右する。
 これまで続いてきた日本の雇用慣行では、中途採用があまり一般的でない。「再挑戦」の機会が十分に存在しない。
 内定率がこのように低いと、若者は希望を失い、日本を覆う閉塞感が著しく高まる。深刻な悪循環が発生する危険がある。
 新しい産業が成長し、そこで労働需要が増える必要がある。新しい産業は高度なサービス産業が中心にならざるをえない。

(5)新しい産業
 米国の場合、実際にこのような変化が起きた。95年から09年の間に、製造業の雇用者数が543万人減少する半面、金融、ビジネスサービス、教育・健康部門の雇用者が1,057万人増加した。90年代以降の世界経済の大変化に対応して、産業構造が大きく変わった。
 日本では、こうした変化が実現しなかった。02年以降、円安・外需依存景気回復によって構造問題が隠蔽されたからだ。経済危機の勃発で問題が顕在化されたが、エコポイントなどによって再び隠蔽された。低い内定率は、今突然生じた問題ではなく、20年前から潜在的に継続していた問題なのだ。
 日本企業が抱える過剰労働力は、全労働力人口の1割に近い528~607万人である(「平成21年度経済財政白書」)。日本経済が現在の産業構造を続けるかぎり、完全雇用は実現しない。
 新しいサービス産業に必要な人材を育成する専門教育が遅れている。そもそも日本の高等教育体制は、社会がほんとうに求める人材を育てていない。理系学生の内定率が大きく低下した理由は、ここにある。

(6)グローバル時代の就業
 本来、学生の就職先は日本企業に限定しなくてよい。海外に活動の場を求めてもよいはずだ。これが空論に聞こえる理由は二つ。
 第一に、外国企業で働く能力を持たない日本人が増えている。外国語能力の低下が大きな原因だ。
 第二に、日本の若者が海外で働こうと望まなくなったことだ。一人っ子なので親元を離れたくないのだ。都会よりは地元がよい。ましてや海外では働きたくない、というわけだ。これまでの赴任先だった先進国とは違って、新興国での生活は大変だから、海外勤務の希望はさらに減っている。問題の深因はここにもある。

【参考】野口悠紀雄「過去最低の内定率は経済構造変化の反映 ~「超」整理日記No.540~」(「週刊ダイヤモンド」2010年12月11日号所収)
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