フィリピンは、日本に近くて遠い国である。距離は近いが、入ってくる情報は合衆国やヨーロッパにくらべて格段に乏しいからである。
さいわい、本書が刊行された。「地球の歩き方」ふうの旅行案内や単なる体験談とは一線を画する。59のテーマに各分野の専門家が肉迫する。高所からする啓蒙的解説もあるが、総じてこの国に生きる民と同じ視座に立って移りゆく社会相を追っている。
59の各章は独立しているが、相互に有機的関連をもち、全体は5つのテーマに大別される。すなわち歴史、社会と文化、政治、経済、国際関係である。通読すれば、現代フィリピンの全貌が浮き彫りにされるしくみである。最終章の第60章は、参考文献の紹介である。
フィリピンという鏡によって日本を見つめなおした一例が第11章で紹介されている。ユング学者の河合隼雄は、欧米との比較から日本は母性原理にもとづく社会である、とかつて喝破した。しかし、フィリピン滞在後、フィリピンこそ母性社会であり、日本の社会は母性と父性の「中間構造」である、と理論を修正したのである。
かくて、読者は、本書を通じてフィリピンと日本の双方について認識を新たにすることができるだろう。
苦言を一つ。本書は現代フィリピン入門として格好なのだが、惜しむらくはこの手の本に必須の索引を欠いている。年表もない。フィリピン全図はあるが、あまりにもおおまかすぎて、本文に出てくる土地を確かめようとしても、載っていない場合が多い。改版の際には工夫してもらいたい。
□大野拓司、寺田勇文編著『現代フィリピンを知るための60章』(明石書店、2001)
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さいわい、本書が刊行された。「地球の歩き方」ふうの旅行案内や単なる体験談とは一線を画する。59のテーマに各分野の専門家が肉迫する。高所からする啓蒙的解説もあるが、総じてこの国に生きる民と同じ視座に立って移りゆく社会相を追っている。
59の各章は独立しているが、相互に有機的関連をもち、全体は5つのテーマに大別される。すなわち歴史、社会と文化、政治、経済、国際関係である。通読すれば、現代フィリピンの全貌が浮き彫りにされるしくみである。最終章の第60章は、参考文献の紹介である。
フィリピンという鏡によって日本を見つめなおした一例が第11章で紹介されている。ユング学者の河合隼雄は、欧米との比較から日本は母性原理にもとづく社会である、とかつて喝破した。しかし、フィリピン滞在後、フィリピンこそ母性社会であり、日本の社会は母性と父性の「中間構造」である、と理論を修正したのである。
かくて、読者は、本書を通じてフィリピンと日本の双方について認識を新たにすることができるだろう。
苦言を一つ。本書は現代フィリピン入門として格好なのだが、惜しむらくはこの手の本に必須の索引を欠いている。年表もない。フィリピン全図はあるが、あまりにもおおまかすぎて、本文に出てくる土地を確かめようとしても、載っていない場合が多い。改版の際には工夫してもらいたい。
□大野拓司、寺田勇文編著『現代フィリピンを知るための60章』(明石書店、2001)
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